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第7話 第三王子とシェスタ国

 シェスタ国に来たリオンはまぁまぁ困っていた。


 一緒に来た従者と護衛術師も怒りと困惑に満ちた表情をしている。


 あからさまに嫌な顔をされることは想定していたのだが……。


「僕は確かに細いですけどね、えぇ。この国基準の良い男ではないと思いますが」


「すまないな、リオン殿。折角来て頂いたのに」

 会ってくれた王女が一人とは、なかなか舐められたものだ。


「えっと、これ以上戦はしたくないので、もしよろしければあなたが僕の妻になってくれますか?」


「私で良ければ」

 マオはまぁ安定した生活が得られれば別にいい、寧ろ願ってたのでラッキーくらいの気持ちだ。


「お名前は?」


「マオと言います」


人が良さそうで御しやすそうだと値踏みし、マオはにこやかな顔で応対を続ける。


「このあたりでは聞かない名ですね」


「母が東洋の者なので、それにちなんでつけられました。この髪もこの目もシェスタ国では受け入れられることは少なかったですね」


「僕は素敵だと思います、エキゾチックだ」


 シェスタ国の国王、ゼラスィードが女性好きなのは有名だ。愛妾の一人にでも産ませたのだろうとリオンは特に気にも留めない。


 それよりも気になったのは他の王女達は嫌がって出てこないというのに、何故マオだけはこうして残ってくれたのかという疑問の方だ。


「ちなみにあなたは何故僕と婚姻してもいいと?」


「あなたの元なら安定した生活が出来るでしょうから」

 隠すこともせずマオは正直に胸の内を打ち明けた。


 大体九番目の王女なんて、いずれお金の為にどこかに嫁がされるだけだ。


 ならば見知らぬ国にいくよりも、第三王子とはいえ今回の戦の勝利国に行ったほうがいい生活は送れそうだと考える。


 この国にいてずっと見た目と出自で差別されるのも嫌だ、マオはできるだけ早くこの国から離れたかった。


「正直ですね、堂々とした態度も素敵だ。ならば僕も頑張りましょう。ゼラスィード様、お願いがあります」

 国一番の騎士と戦いたいとリオンは言った。





 ◇◇◇





 皆を呼び、鍛錬場を借りる。


「大丈夫ですか?」

 従者のカミュが念の為聞く。


「大丈夫さ。それに僕が勝てばこれ以上舐められないだろ? 力自慢な国だ、僕に負けないと躍起になるだろうね。まぁどのみち国の威信をかけた試合になるだろうけど」

 楽しそうなリオンはマオに手を振る。


「マオ王女、見ててください! 僕絶対に勝ちますので」

 その言葉に周囲から笑い声がもれる。


 従者のカミュはムッとした。


「無礼な国だ。俺がここを破壊しても良いのだぞ」

 カミュは喉の奥で唸り声をあげる。


 護衛術師のサミュエルもフードの奥で静かに怒りを湛えていた。


「落ち着きなって。従者が水を指してはいけないよ」

 カミュ達の隣に琥珀色の髪をした男が来る。長身のカミュと同じくらいの背で、堂々と立つ姿からは威厳が感じられる。


「あなたは?」


「俺はただの通りすがりだ、そら始まるぞ」


 リオンと腕っぷしに自信のある男性が登壇する。


「攻撃魔法は使いませんが、身体強化くらいは構いませんか?」


「それくらいならいいだろう」

 リオンの提案をゼラスィードは許可する。


「あなたもどうぞ身体強化してください」


 自分より大きい相手でもリオンは物怖じしない。


「ハンデくらい残してあげますよ、リオン殿はティタン殿よりもだいぶ小柄なようですから」


「負けた時の言い訳にされたら困りますね、じゃあ僕も加減します」

 お互い余裕の表情だ。


「それでは、試合始め!」

 開始の合図と共に、リオンは渡された木剣をカミュの方へ高らかに投げた。


「「なっ?!」」

 皆の動揺の声。


 カミュだけが何も言わず、リオンが投げた木剣を受け取った。


 リオンは迷わず、素手で騎士の前に身を躍らせる。


 非力なリオンが狙うのは、急所。


 騎士の脛を狙って、身を低くし、蹴りを繰り出す。


「!!」

 痛みに怯むが、直ぐ様上から木剣を振り下ろす。


 身を捻り避けると、次に狙うは剣を持つ指。


 背の低いリオンには頭よりは狙いやすい箇所だ。


 特に今は振り下ろしたてで蹴りやすい。


「この野郎っ!」

 痛みに耐え、さらに剣で追撃する。


 一旦リオンは距離を取った。


「痛いですよね、すみません」

 ニコニコとするリオン。


 周囲は呆気にとられていた。


 その後の打ち合いでも剣は当たる事なく、リオンの蹴りだけがヒットしている。


 騎士の疲労に反し、リオンはケロッとしていた。


「僕ね、ティタン兄様と良く手合わせするんですよ。魔術師だからって接近戦を疎かにしてはいけないって。そして手より足の方が力が強いから、僕の戦い方は蹴り主体になります」

 軽い足取りで、いまだ全く疲労を感じないのは、魔法でスタミナを維持してるからだ。


 一種のバフを掛けてはいるが、それだけでここまで動けるものじゃない。


「舐めるな!」

 横薙ぎの剣にリオンは身を屈めて避ける。


 騎士が蹴りを出そうとしているのが見えたので、リオンは騎士の顎を蹴り上げるようにしてバク宙する。


 脳震盪を起こしたのか、騎士はそのまま後ろへと倒れてしまった。


「僕の勝ちですね」

 どよめきと称賛の声が入り混じる。


 弱そうに見えたリオンが、剣もなく騎士を倒したからだ。


「マオ様、僕は強かったでしょ?」

 ニコニコ笑顔でマオに近づく。


「本当に凄いですね…」

 マオはまさかここまで動けるとは思ってなかった。


 魔術師というから、魔法だけなのかと思ってたからだ。


 しかし試合が終わって話しかけに来たたのはマオだけではなかった。


「お強いんですね、リオン様」


「惚れ惚れいたしましたわ」


「どのような訓練をされているのか、ぜひ教えて下さい」

 手の平を返したかのような態度の王女達が、リオンのもとへと現れる。


 先程の事などまるでなかったかのように。


「カミュ、そろそろ帰ろうか」

 リオンは対応することなく踵を返す。


「はっ!」

 カミュは預かっていた木剣をシェスタの者へと返した。


「マオ様、一週間後改めて迎えに来ますね。どうぞそれまで息災でいてくださいよ」

 リオンは王女達を一瞥する。


「見た目での判断は良くないものだ。マオ様は最初から最後まで僕を見てくれていた、だから婚約者は彼女に決定だよ」

 リオンの手から虹色の蝶が生まれ、マオの元に届く。


 シュルリと形を変えると青色の宝石がついた指輪になった。


「お守り、僕と結婚するまで良い子にしててね」

 人の好さそうな優しい笑顔をマオにのみ向け、リオンと従者はその場を後にした。


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