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第4話 シェスタ国

「いいか、必ず手玉に取るんだぞ!」


 シェスタ国では戦に負けてもまだ諦める事なく、アドガルムを出し抜くことを考えていた。


 シェスタ国の王女は九人。


 王子は六人


 側室は三人だ。


 敵国に嫁げと命じられた王女達は気乗りしない顔で父である国王の言葉に首肯した。


「残念なのはリオン王子ってところね」


「私はティタン様が良かったな」


「わたくしも」


 騎士の国でのティタンは人気が高い。


 一番シェスタ国の兵を討ったのもティタンなのだが、王女達にはあまり関係が事のようだ。


 力こそ絶対のもの、という教えがあるからかもしれない。


(僕にはどうでもいい事です。安定した生活が保証されればそれでいいのです)


 末娘のマオは投げやりで姉王女達のやり取りを聞いていた。


 婚姻に興味はないし、面倒くさいのは嫌だ。お金の心配なくゴロゴロ出来ればそれでいい、余計なことに首を突っ込む気はさらさらないのである。


 国王ゼラスィードはうむ、と顎に手をやり、娘達の話に耳を傾ける。


「確かにティタン殿のような男性をこちらに引き入れられれば、一番よかったのだがそこは仕方ない。我々に権限はないのだからな。まぁリオン殿も魔法の腕前は凄いようだし、上手に心変わりをさせればいい戦力になるだろう」


 アドガルムを内部から崩す、という考えはシェスタでも当然ある。


 このまま敗戦国として属国になるのは、矜持が許さない。


 圧倒的大差というわけでもないのに、この戦に勝利したアドガルムにこのまま賽を握られ続けるのはたまらないと、国王含めて多くの者が思っているようだ。


「いいか、リオン殿を必ず陥落させてシェスタに都合の良い者に仕立て上げるんだぞ。彼は第三王子だ。今のところアドガルムの王位には程遠い事から、この国の王の座をちらつかせれば直ぐにこちらに靡くことだろう」


(そんな簡単なわけないと思うのですが)


 マオはそう思いながらも、言葉を飲み込んで欠伸をかみ殺す。


 興味ないし、面倒ごとはごめんだから大きい声では言わないけれど、マオみたいに権力に興味ない者もいるはずだ。


 リオンがそうだとは言わないが、そうじゃないとも言えない。


 実際に会って話したわけではないし。


「リオン殿下の魔法って見た目は派手だけど、効果は地味って言うじゃない」


「そうね。眠らせたり、痺れさせたりとか、足止めばかり。そんなの私たちの回復魔法ですぐに解けちゃうのにね」


 王女といえど、これだけ女性が集まればすぐにどんな話でも花が咲く。


 マオはリオンのその話を聞いて逆に感心した。


(つまり殺す気はなく、もとから捕らえる目的なのですね)


 そして回復魔法ですぐ解けるとしても、その間怪我の治癒は出来ない。


 回復役である聖女達の動きも封じることが出来る。


 複数の身体異常が起きれば、回復するのだって大変なものだ。


 同じことを複数回されたら、いくら聖女達でも魔切れや疲労を起こすだろう。


 リオンという男はまた変わった戦法をするものだ。


「マオはどう思う?」


 急に話を振られ、ビクッと体を震わす。


 リオンの事に気を取られ、全く話を聞いていなかった。


「えっと、何のことでしょう?」


「本当この子って愚図よね、頭の回転も遅いし」


 クスクスと笑われ、一応しおらしくしてみる。


「王女なんて感じしないし、本当にお父様の血を引いてるの?」


(それは僕も聞きたいですよ)


 マオは最近ここに連れてこられた。


 亡くなったマオの母親が、愛妾の一人だと言われ国王に引き取られたのだ。


 それまで貧民街で暮らしていたので、ここに来て食べ物に困らないのは嬉しいが、窮屈な王城と陰険な異母姉達とのやり取りに、息が詰まることが多い。


 唯一の家族である兄とも、ここに来る時に引き離されてしまった。


 手紙のやり取りも二度と会うことも許されない、こんなの囚人のようなものだ。


(あぁ、ここから抜け出せるなら誰に嫁いだっていい)


 少なくともここにいるよりは自由な生活がおくれるのではないだろうか。


(第三王子であるリオン様の妻ならば王妃教育もなく、むしろ安泰なのでは?)


 割と本気で立候補しようかなとマオの心は揺らいでいた。


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