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第3話 セラフィム国

 ここは花と緑、そして薬と魔法で発展したセラフィム国。


 争いを好まず、優しい国民の多い穏やかな所だ。


 落ち着いた静かな国である故に、なぜ此度の戦を起こしたのか。国民はもとより王家の者達も疑問であった。


「お父様……」


 戦を後悔するような国王の様子に、呼び出された王女達も心配をしている。


 王女三人。


 王子二人。


 側室一人。


 近年は農業以外にも魔道具作りに力を入れ始めたが、戦闘用の魔道具では魔法大国ムシュリウに遠く及ばず特産品にはなり得なかった。


 その為生活用の魔道具に力を入れ始めたのだが、こちらは手応えがあり、貿易の要になりそうだとこれからを期待されていた。


 無理に戦をする程困窮しておらず、国力を拡大する必要などなかったはずだ。


 攻め入ったアドガルムとの国交も悪くなく、このままいけば同盟の話もと期待されていたのに。


「お前たちの誰かが第二王子ティタン殿の妻として召し上げられる。誰を選ぶかは彼次第だが……あぁ、何故私は戦なんてしたのだ」


 頭を抱え、国王自身も自問自答している。


 セラフィム国内でも、戦の命令はまさに青天の霹靂であり、最後まで反対の声が出ていた。


 だが最終的には、国王そして国を支えるのが国民の義務であると兵士たちも奮起し、戦地へと赴いたのだ。


 王家の責任として第一王子が戦に向かい、現在は捕虜として捕らえられている。


 大事な跡取りが、今やアドガルムの手の中だ。


 これは国王の重大な過失である。


「お告げがあったんだ。神より、アドガルムを滅ぼせと。一笑に付すには抗い難い、何かを感じた……」


 迷っているうちに、他二国も戦争準備をしているとの情報が入ってきた。


 戦に乗り遅れれば、アドガルムを吸収したどちらかがいずれここにも攻めいってくるのではとの不安にも駆られた。


 それにこの機に乗じてアドガルムを先に手に入れれば、他二つに負けない国力を持てるんじゃないかとの期待もあって焦ってしまった。


 結果このざまだ。


「そのような虚ろな言葉に何故騙されてしまったのでしょうか。私達の国で戦いを望むものはいなかったと思いますよ」


 国王の言葉を受け、第一王女であるミューズは強い口調で非難する。


 例え王女と言えど、この発言は許されるものではなかったはずだ。


 戦を決めた国王に対し、堂々と反発したのだから。


 しかし国王ヘンデルはそれを甘受した。


「そうだな……分不相応であった」


 戦争をけしかけ、民の命を無為に奪ってしまった事を、ヘンデルは後悔していた。


「ティタン殿との婚姻は民の命を守るものだ。けして逆らわぬよう彼に敬意を払ってくれ」


 娘達に頼む以外の方法を考えることは最早出来なかった。


 ヘンデルに残された選択肢はもうない。


「ティタン様は、アドガルムの第二王子でしたよね。巨大な剣で兵を両断し、多くの命を奪っていたという悪魔のような人……」


 第二王女のアルマは顔を青褪めさせる。


 命からがら逃げてきた兵士から、そのような話を聞かされていたのだ。


 巨大な大剣を軽々と振るい、鎧ごと人の体を切り捨てる膂力を持つ者だと。返り血を浴びる様は悪魔のようだったと噂されていた。


 末娘のセーラなどそれを聞いて泣いてしまった程だ。


「嫌よ、そんな恐ろしい人のところに嫁ぐなんて……絶対に嫌!!」


「セーラ……」


 アルマとミューズがセーラを慰める。


「大丈夫……大丈夫だから」


 泣き崩れる妹をぎゅっと抱きしめ、ミューズは唇を噛み締める。


(戦なんて、もう二度と経験したくないわ)


 変わりゆく生活、不穏な状況、落ちる王家の信頼。


 失われた沢山の命の変わりになるとは思えないが、せめて王族である自分が責任を負わねばとミューズは固く心に誓う。



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