〈理代視点〉
髪を切り終えたら、昼食の時間になった。
店は茜ちゃんが選んでくれていたようで、近くの飲食店にみんなで入る。
美味しそうな香りが、空腹を刺激する。
店員さんに案内され、席につくと、メニュー表をじーっと見つめた。
ハンバーグ、パスタ、カレーライス。
あれも、それも、美味しそう……!
どれにしようかな。すごく悩む……。
「悩んでるねぇ」
「はっ!」
わたしはメニュー表を独り占めしていたことに気づいた。咄嗟に謝ろうとするが、
「ずっと見ていて大丈夫だよ。私たちはさっき理代ちゃんが髪を切っている間に、メニュー選びをしてたから」
「そ、そうだったんだ」
「迷うなら交換でもしようよ。ちなみにアタシはうどんにしようかなと思ってるとこ」
「私はカルボナーラかな」
それなら、と安心して再び食い入るようにメニューと向き合う。
私は食に対する熱意が人一倍強い……と思う。
できるだけ美味しいものを作りたいし、美味しいものを食べたい。
美味しいものと一括りに言っても、その時その時で食べたい物は変わる。
そのタイミングで一番美味しく食べられるであろう物を選びたい。
わたしは深く悩んだ末にハンバーグにした。
お店のハンバーグって肉汁たっぷりで美味しいからなぁ。
そんな想像をしていたらハンバーグがすごく食べたくなってきてしまった。
しばらく雑談をしていると、料理が運ばれてきた。
桃乃ちゃんは天ぷらうどん、茜ちゃんはカルボナーラ、わたしはチーズインハンバーグ。
せっかくハンバーグにするならチーズも加えてという作戦だ。
ナイフとフォークを使ってハンバーグを切り分け、口に運ぶ。
一口噛めば、旨みたっぷりな熱々の肉汁とチーズが溢れ出す。
お、おいしい……!
そこへ別途注文したライスを加える。
ご飯とハンバーグが絶妙に混ざり合って、最高のハーモニーを生み出している。
「理代チャンめっちゃ美味しそうに食べるねー!」
「……っ!」
美味しさで頬がゆるゆるになっていたかもしれない。恥ずかしい。
でもハンバーグをもう一口食べるとまた頬が緩んだ気がした。
美味しくてほっぺたが落ちそう……。
料理の分け合いもした。
桃乃ちゃんのうどんは、出汁が効いていてとっても美味しかった。
茜ちゃんのカルボナーラは、チーズが濃厚で幸せな気持ちになったのだった。
* * *
昼食後はデパートの洋服屋へ向かった。
店内をぐるぐる見て回ると、明るくておしゃれな服がたくさん置いてあって、わたしに似合う服があるのか不安になる。
普段着ているのはもっと地味な感じのものなので、こんな陽っぽい服着たことなんてない。
桃乃ちゃんと茜ちゃんに誘導されて、試着室へやってきた。
既に二人とも道すがら服を手にしており、わたしにひょいと渡す。
「他にも似合う服がないか探してくるから、その間に着替えてて。きっと抜群に可愛くなると思うよ!」
「は、はいっ」
わたしは試着室に入って、今着ている服を脱いで、まずは桃乃ちゃんに渡された服に袖を通す。
ゆったりしたシルエットでパステルカラーの服、下は淡い色のキュロットだ。長さは膝より少し上くらい。
カーテンを開ける前に、試着室内にある大きな鏡で自分の姿を確認する。
わたしは足を出すのが苦手だ。足を出すのってなんだか恥ずかしいし。
制服は膝丈スカートだけれど、ハイソックスの靴下を合わせるようにしている。
今日の靴下はくるぶしまでしかない。だから白い足が眩しく見えていた。ちょっとスースーする気がする。
でも、可愛い……かも。
一呼吸置いてからカーテンを捲った。
近くに桃乃ちゃんと茜ちゃんがいた。
「おおおっ! めっちゃいいじゃん!」
「理代ちゃん的にはどう? サイズとか着心地とか」
「だ、大丈夫です。ただちょっと足を出すのに慣れていないので恥ずかしくて……」
「いずれ慣れるよ。もし嫌だったら遠慮なく言ってね」
「あ、はい」
「じゃあ次はこの服を……」
再び二人から洋服を渡される。
さっき茜ちゃんから渡された服もまだ着ていないので、着るものがいっぱいだ。
テンポよく着替えていかなきゃ!
今度は薄手のブラウスにスリットの入った灰色のロングスカート。
足があんまり出ないからこういうのいいかも。
着てみるとちょっと大人っぽく見える。
美容院でセットしてもらった髪型も合わさって、別人みたい。
髪型と服って大切なんだなと思わせてくれる。
桃乃ちゃんと茜ちゃんからの評価は上々。
わたしもこの服は気に入ったので購入しようかな。
次々に持ち運ばれる服を変わる変わる着替えていくうちに、変な服が混ざっていることに気づいた。
メイド……服?
黒と白を基調としたエプロン調のワンピースはどこからどう見てもメイド服だった。
メイド服なんて売ってるんだ!? という衝撃はさておき、わたしはこれを着なくてはいけないのだろうか。
さすがにメイド服は恥ずかしい。
でも今は手元に他の服がない。
せっかく選んでくれたんだし、着なきゃ申し訳ないよね。
わたしはメイド服におそるおそる袖を通した。
着てみると思ったよりも様になっている。コスプレしてるみたいだ。みたいというかコスプレだ。
くるりと回ってみると、ワンピースの裾がふわりと広がる。
可愛いなぁ、メイド服。
カーテンを開けて二人に見せると、
「か、かわいいっ! かわいすぎる!」
「理代ちゃん、これも着て!」
と絶賛のコメントに加え、次なる服を渡された。
今度は巫女装束だった。
巫女服も置いてあるの!?
この店一体どうなってるの!
この服買う人いるのかな? いやでもいるから置いてあるのか……と謎に考えてしまう。
巫女服も着てみるとすごい巫女っぽくなった。神社にいたら巫女だと思われそうだ。
カーテンを開けると、
「最高だよ理代チャン! つ、次はこれを!」
「これも着て欲しいな! きっと似合うから」
桃乃ちゃんも茜ちゃんもコスプレ服を手渡してきた。
当初の目的どこ行ったの……!?
しかも二人とも、ものすごく熱量が籠ってる!
何かに目覚めた? スイッチが入った?
え、ちょっと怖い。
その後も、あらゆるコスプレ服を着せられて、わたしは何着か購入して店を出たのだった。
もちろんコスプレ服は購入していない。