〈理代視点〉
わたし、みんなから誘われて動いてばかりだ。
たまには自分から動かなきゃ。
でも、どこかおでかけ行こうって誘うのはちょっとハードル高いし。
そうだ……!
「部活見学?」
放課後、桃乃ちゃんに勇気を出して声を掛けた。
前に書道部どう? と誘ってくれたこともあるし。
もう一度誘ってもらうことを待つんじゃなくて、能動的に動いてみた。
「あの、どんな感じなのかすこし気になって……」
わたしは中学も高校も部活に所属していない。協調性が求められるイメージがあって、部活は避けてきた。
でも書道部なら落ち着いた雰囲気だろうし、もしかしたら入ってもいいかもしれない。桃乃ちゃんもいるし。
「いいよいいよ! おいでー」
わたしはホッと息を吐いて、後をつけるのだった。
「書道部はね、毎週金曜日に活動してるんだ」
歩きながら、桃乃ちゃんが書道部について解説してくれる。
わたしはそれを横で頷きながら聞いた。
「部員は静かな女の子が多いから、理代チャンもきっと気に入ると思うよ!」
「あの、書道って小学生の時にしか、やったことないんだけれど……」
「全然大丈夫! 未経験大歓迎だよー」
やがて、部室へ辿り着いた。
桃乃ちゃんがガラガラと引き戸を開けると、数人の部員がこちらを見た。
入ったことないところって緊張する。
視線がわたしに集中している気がする。それもそっか、部員じゃないんだし。
「友達が部活見学したいんだけど、いいー?」
「いいよー」
「見て行ってー」
「私の華麗なる筆捌き、とくとご覧あれっ!」
一人だけキャラが濃い人がいた気がするけど、気のせいかな。
わたしは部室に入り、書道部の方々が字を書くところを観察しはじめた。
みんな、集中してる。
筆の動きに安定感があり、とめ、はらい、はねが鮮やかに決まっている。
力強い字を書く人もいれば、流麗な字を書く人もいた。
人によって、全然違う。
でも、みんなすごく上手だ。
「理代チャンもやってみる?」
「は、はいっ」
わたしは書道の道具が用意されたスペースへ行き、置かれていた筆を持って、膝をつけた。
そして、見よう見まねで筆に墨汁をつけて、お手本をよく見ながら半紙に書いていく。
む、むずかしい……!
筆が太くて、シャーペンみたいにスラスラと思い通りに書けない。
書道部の人たち、すごいなぁ。
頑張って、ゆっくり丁寧に時間をかけて、筆を動かしていく。
はねとかはらいが特に上手くいかない。
なんであんなに綺麗にできるんだろう。
結局、不出来な仕上がりとなってしまった。
満足にいかず、肩をすぼめていると、桃乃ちゃんが励ましてくれる。
「大丈夫だよ。最初はみんなこんなもんだって」
「ここからでも、あんなふうになれるんですか……?」
「それは、理代チャンの努力次第……かな?」
努力次第……。でも、頑張ればあんなふうになれるかもしれないんだ。
趣味の絵だって最初は上手くなかった。けれど、何度も何度も描いて上達した。
書道も同じなのだろう。書道だけじゃない。いろんなことが、最初はうまくできなくても、繰り返して上達していく。
「ま、今すぐ入ってなんて言わないからさ。よかったらでいいから、加入してくれると嬉しいな」
「か、考えてみます……!」
「うん、よろしい!」
今すぐには決められないけれど、書道部に入るのもいいかもなあ……。