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第14話 カケル騎士団の仲間入り 強さの片鱗 

 「こらっ! 早く起きろよ!」

「ふわっ!?」


 気持ち良く寝てたのに布団をいきなり剥がされた。

「今日から訓練を始めるぞ」

 そうだった。俺は昨日から騎士団の寮に入った。

「は――い。すみません」

 荷物を整理していて、眠るのが遅くなった。


 「返事は、はい だ!」

 「はい!」


 急いで支度して訓練所に走って行く。

まだ人数はだ。

「あれ? 時間より早くないですか?」 

 起こしに来てくれたニック先輩に話しかける。

「新人は早く来て、入念に準備体操しないとケガをする。自分から準備体操をしておく習慣を身につけろ」

 なるほど……。

 「はい」


 先輩に教えてもらって、準備体操から始まって筋トレ。走り込みとハードだった。

 「き、キツイ……」

 はあはあと息を荒く吐き、汗が止まらない。

「まだ準備体操レベルだぞ。この後、木刀で基本的な練習をして各々鍛錬をする」


 うあ。さすが騎士団の訓練だな。

俺はヒイヒイ言いながら、頑張って訓練についていった。


 そして何日か過ぎた頃……。


「なんだかんだ言ってても、ちゃんとついて来てるじゃないか」

ニック先輩に褒められた。

「ありがとう御座います」

 見違えるように筋肉がついた。騎士団団長よりは敵わないが、俺の中で鍛えた筋肉の中でも一番だ。


 剣も手になじんできたし、体も思い通りに動けるようになってきた。

「じゃあ、俺と一試合してみようか?」

 「えっ! いいんですか!」

 後輩は基礎的な訓練ばかりで、飽きてきたところだ。

「あ――! カケル、いいな! 俺達も試合をしてみたい!」

 同じころに騎士団へ入った新人騎士達が、先輩騎士にお願いした。


「そうだな。団長に聞いてくる」

 ニック先輩はそう言い、走って団長の所に行った。


 「試合、出来たらいいな」

「先輩に勝ちたい!」

 新人騎士達はそわそわしながら待っていた。俺もだけど。


 先輩が戻ってきた。

「団長の許可が下りた。ケガのないように、との事だ」

 おお――!

皆は歓声をあげた。

 「では、先に入団した者から始めようか」

 「はい!」


 最初は、体の大きな新人騎士。

新人騎士には、それぞれ先輩騎士が一人ず付いてお世話することになっている。

先輩騎士さんは鍛えた筋肉が凄い。

 「よろしくお願いします!」 

「よろしくお願いします」


 構えて試合が始まった。

先輩騎士も木刀で新人の相手をする。お互い、ケガをしないようにだ。

緊張が高まる。

 「いあぁぁ!」 

 新人が先輩に切り込んできた。


 ガンッ!

「ああっ!」

 新人騎士から木刀が離れて、くるくると円を描いて地面に刺さった。

 一瞬の出来事だった。

 先輩騎士は新人の動きを見て、冷静に対応した。さすがだ。

「あ……。ありがとう御座いました!」


 あっという間で、新人騎士は一瞬何が起こったのか分からないようだった。

 「これが先輩の実力……」

 俺を含めた、新人騎士達に緊張が走った。

先輩を尊敬出来てなかった新人達は、これで思い知ったらしい。次々と後輩達が、先輩達に打ち負かされていった。


 「最後、カケルと俺の番だ」

 俺の世話係のニック先輩が、訓練場の中央に歩いていった。

「ニック先輩は実力上位の腕だからなあ。すぐ勝負がつくんじゃ?」

 そんな声が聞こえた。

 え……? ニック先輩、強いんだ。普段、わりと穏やかだからそんな風には見えなかった。


「よ、よろしくお願いします!」

訓練場の中央に着いた時、俺の緊張はピークを迎えた。

 「そんなに緊張するな、カケル」

 がちがちに緊張していた俺に声をかけてくれた。


 「よろしくお願いします」

 先輩の目が変わった。


 俺も負けないように木刀を構えた。


ジリ……ッ。地面を踏みしめる音がする。

先輩は様子をうかがっている。俺が向かって来るのを、待っているのだろうか?


 やはり気合が違う。ピリピリと肌に威圧感を感じた。

「来い」

 先輩に挑発されて前に出た。


 ガンッ! 

 俺が先輩に、横から木刀を殴りつけると先輩は木刀で受けて力で返した。

 「うあっ!」

 前に父と練習をした時より手にしびれはない。筋トレの成果か分からないけれど、一撃目をしっかりと木刀を握ってられた。


 やっぱり先輩との実力に差があるのか……。

だけど向かっていくしかない。

 「うりゃ!」

 ガンッ! ガシッ! ゴンッ!

 上、右、左と木刀を振り下ろした。間に突きも入れて、攻撃がワンパターンにならないようにした。

 しかし、ことごとく受け流されてしまった。


 「もうそろそろ時間になるな」

先輩がニヤリと笑って俺に言った。

 くっそう! こんなに実力の差があるのか!

打ち合いしているうちに俺は苛立って、木刀を思いっきり振りあげた。


 「はあ――っ!」

 ボッ……! 

「えっ!?」

 いきなり木刀に魔法のようなものが、まとわりついた。

先輩がそれを見て、ギョッとして叫んだ。

 「ち、ちょっと待て! カケルっ!」

「わわっ!」

 俺は勢いついて止められなかった。


 「魔法の盾!」

先輩は腰を低くして、木刀を横に持って魔法の盾の魔法を唱えて構えた。

「危ないっ!」

 団長の声が聞こえた。


 バンっ!!


 俺の振り上げた木刀は先輩めがけて振り下ろされた。……が、先輩の出した魔法の盾によって攻撃は塞がれた。

 衝撃は俺に返ってきて、派手に後ろにふっ飛んだ。

「痛っ!」

 俺はお尻を地面にぶつけた。痛い。


 いたた……と、尻もちをついた俺は木刀を構えた先輩が目に入った。

俺を見ている先輩は『信じられない』といった顔をしていた。

 「す、すみません! ケガはないですか!」

 自分でも分からないけど、先輩に『魔法の盾』を使わせるくらい無茶な事をしてしまったのだと悟った。


 「ケガはない。それよりもカケル、お前……」

 ニック先輩は俺に言いかけた。……が、そこに団長がやってきた。

「試合は終わりだ! 後片付けをしてメシに行け!」

 「はいっ!」

 団長が指示をすると、騎士達はそれぞれ片づけをして訓練場を後にした。


 「ニック、ケガはないな?」

「はい」

 ニック先輩は木刀を下ろして返事をした。団長は俺を見て先輩に言った。

 「こいつに話がある。ニックは先にメシを食っていろ」

「了解」

 そう言い、ニック先輩は行ってしまった。


 「お前。出そうと思って出したのか?」

つかつかと団長は近寄ってきて、俺に怖い顔で聞いて来た。

 もしかして木刀に、いきなりまとわりついたモノの事を言っているのか。

 「いや。知らないけど、勝手に……」

 そうなんだ。あれは勝手に出た。あれは何だったのだろう?


 「そうか。偶然のか」

 フム……と、団長さんは顎を触った。

「賢者ドクトリングを訪ねるといい。今後、生かせるかもしれん」

 なぜ、賢者ドクトリングの話が? 俺が不思議に思っていると、団長さんは話をしてくれた。


 「まれにだな。剣に魔法をまとい、強力な攻撃を使える者が現れる。カケル。お前だと良いのだがな」

 そう言い、団長は俺から背を向けた。

 「飯食ったら、ドクトリングの研究所のある塔へ行け。話をしておく」

 「は、い……」

 よくわからないけど、ドクトリングの所に行けばいいのか。



 団長さんが行った後、俺は食事をしてからドクトリングのいる塔に向かった。


 「あれ? お兄ちゃん!」

愛理もドクトリングがいる塔へ来ていた。どうやら時々、ドクトリングとお茶をしていたようだ。


 「団長から聞いたぞ、カケル殿。訓練すれば常時、剣に魔法をまとえることが出来るじゃろ」

 「訓練すると出来るようになるなら、やる!」

 俺は断然やる気になった。


 「それがなあ……。良くない知らせじゃ」

ドクトリングは渋い表情で話し始めた。

「隣国が魔獣に襲われてると、連絡が来た。しかもどうやら、陰で操っている者がいると」


 「その者は、……らしい」

 「そいつは!」


 愛里は俺を見て頷いた。

「たぶんカケル殿が見た人物と、同じじゃ」

 あいつが! 


 「隣国もそうじゃが、この国もまた近いうち魔獣に襲われるじゃろ。そのことで陛下より皆に魔獣へ対抗するよう、命ぜられた」

 「私も騎士団の討伐に同行します」

 愛里も騎士団について行くと言った。


 「二人とも体調を万全にして、魔獣に立ち向かって欲しい。異世界に呼んで助けてくれと、カケル殿たちに一方的にお願いするのは申し訳ないのだが、それだけ行き詰っていたのじゃ……」

 ドクトリングは項垂れた。

「召喚の儀で呼んだ者は、この世界を救うとの言い伝え。どうか、助けてくれないか? カケル殿、愛里様」


 俺はあきらめに近い感情で愛里を見た。愛里はドクトリングを見つめていた。

 「分かった。いいよ。俺が出来ることならば、手を貸すよ」

「お兄ちゃん」


 「おお! 行ってくれるか!」

「ああ」

 俺に皆を助けられる力があるならば、助けたい。

「ではさっそく陛下へお伝えしよう」

 そう言い、ドクトリングは塔からお城に向かった。ドクトリングが居なくなって俺と愛里が部屋に残った。


  「愛里、これ見て」

 俺は手のひらを上に、広げて力を込めた。ボワッ……! と魔力をまとわせた。

 「お兄ちゃん! それは……!」


 どうやら俺は、魔法をコントロールできたみたいだ。


この力を使って魔獣と、あの黒いローブを被った男を倒す!


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