目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第13話 愛里 教会へ (愛里視点)

――愛里視点(愛里からの視点になります)――


 「愛里様、こちらへ」

「はい」

 賢者ドクトリングからの紹介で、愛里はこの国の教会本部に招かれていた。

 大きな教会の建物は、綺麗なステンドグラスと聖女像が祀られていた。聖女像は、優しく穏やかなお顔をしていた。


 お城へ来た時に貸してもらった聖女風の衣装は、この教会の衣装だったらしい。

 頭から鎖骨辺りまで薄いベールを被っていて、視界は悪くないけれど移動中はベールを被らなければならないみたい。


 案内してくれてるシスターの後について建物内を見学していた。

「朝早くから起きて祈りを捧げます。その後に食事をし、聖女見習の者は光魔法の勉強をします。その後にお昼。食事後、街へ参ります。主に孤児院などです」

 一日のスケジュールを教えてくれた。決まっているようで単独行動は出来ないのかなと思った。


 「お掃除など当番制です。聖女候補様は誘拐など狙われやすく、危険なので個人的な行動は許可を取ってからにして下さい」

 狙われやすく? ……怖いなと思った。

 「はい」


 祭壇がある所から歩いて階段を登って来たのは、部屋のドアがたくさんある建物の二階の通路だった。

 「こちらが聖女候補様の過ごしているになります」

部屋のドアがいくつもあるけど、静かだった。

 「今……聖女様候補は、愛里様とあと二人ほど候補様がおります」

 三人の聖女様候補がいるのね……。


 その時、部屋のドアが開いた。

 「あっ! シスター、ごきげんよう。愛里様……でしたね」

同じくらいの歳の、赤毛に緑色の瞳の女の子だった。

 「アンヌさん、ごきげんよう。そうです。こちらは愛里さんです」

 背は私より低く、可愛らしい人だった。

「愛里、といいます。アンヌさん。今日からよろしくお願いいたします」

 私はアンヌさんに自己紹介とお辞儀をした。


 「こちらこそ、よろしくね!」

 明るく人懐っこいらしい。良かった。

「愛里さん、あなたの部屋はこちらです」

 ドアを開けて中を見ると、日本で暮らしていた部屋より広い部屋。でもお城で与えられ暮らしていた、無駄に豪華な部屋よりは落ち着いて過ごせそうで安心した。


 「ありがとう御座います」

 シスターはにっこりと微笑んだ。

「また後でね! 愛里さん」

 アンヌさんは手を振ってくれたので、私も手を振り返した。


「荷物の整理もあるでしょうから、お昼の鐘が鳴ったらお呼びします」

「分かりました」

 シスターは忙しいらしく、小走りで戻っていった。


 ドアを閉めて、床に荷物を置いた。

家具はベッドに机とイス。テーブルに椅子二つ。ドレッサーにチェスト。隣の部屋にはお風呂がある。

 シンプルなデザインの家具だけど、落ち着いた木の家具で古いけど良い。壁紙なども薄いグリーンの色で好みだった。

 教会の裏庭を囲むように建っているここは、窓を開けると木々が多い裏庭を見られて風が気持ち良かった。


 裏庭ということは、人があまり通らないのと思うのでセキュリティー面でも安心。

 ふわりと風が吹いて、ベールがめくれた。風が気持ちいい。

――ふと、父と母と突然の別れを思い出してしまった。

「お父さん、お母さん。大丈夫かな……」

二人だから……大丈夫だと思うけれど、心配。

 「お兄ちゃん……」

 いつも私を守ってくれてたお兄ちゃんと、別れて暮らすのは心細い。


 「うっ……」

 いきなり異世界に飛ばされて驚いたけれど、お父さんお母さんお兄ちゃんがいたから頑張れたのに。

 寂しい……。

 今まで我慢していた涙が、ぽろぽろと流れた。止めようと思っても止まらなかった。

「うっ、お父さん……。お母さん……」

 私は窓枠を握りしめながら一人で泣いていた。


 カラ――ン! カラ――ン!


 しばらく一人で泣いていた後、顔を洗って気分を変え、荷物を整理した。荷物自体は少ないのですぐに片付いた。

 お昼の鐘が鳴った。誰かが呼びに来てくれるはず。


 トントン!

「アンヌです! お昼ご飯だよ!」

 アンヌさんが呼びに来てくれた。

 「はい。今、行きます」

 ドアを開けるとアンヌさんがにっこり! と笑ってドアの外に立っていた。

 「案内するね! ついて来て」

元気なアンヌさんにホッとした。


 「この世界に来たことや、勇者様の事は知っているよ」

 ニコッ! と笑って言った。

 「私ね、勇者様に命を助けられたことがあるの」

 アンヌさんの話に驚いた。勇者……。お母さんに助けられた?


 「だから、私も役に立ちたいと思っているの」

 アンヌさんは緑の瞳を輝かして、私に話してくれた。通路を歩いているほんのわずかな時間に、勇者だった母の話をしてくれた。

 この国で勇者様に命を助けられた者は、たくさんいると聞いた。

 「私も……。皆の役に立ちたい……」

アンヌさん、母からも勇気をもらえた。


 「いいね! 私と愛里さん、一緒に頑張りましょうね!」

 二人で教会の食堂に向かった。


 「まあ! アンヌさん、遅いですわね」

 食堂に行くと、金髪で縦ロールの青い瞳をしたお嬢様が座っていた。

「カロニーナ様。ギリギリ、間に合いましたよ」

 アンヌさんは返事をした。

 「そうかしら?」

 あれ? 何だか雰囲気が悪いような……。


 「早くお座りになったら? ……あら?」

 カロニーナ様と呼ばれた人は、私に気がついた。

 「初めまして。今日からこちらにお世話になることになりました、愛里と申します。よろしくお願いいたします」

 先に私から挨拶をした。


 「まあ! 勇者様のお嬢様の愛里様ね? わたくしはカロニーナ・スーベルト伯爵家の者よ。よろしくね」

 ニコッと笑った。貴族の方なのね。


 さっきの雰囲気の悪さは気のせいかしら……? 


 とにかく、私の教会での生活が始まった。教会の方達も優しそうだし、頑張るしかない。


 お兄ちゃんは朝が苦手で、心配だけど大丈夫かな?

私はスプーンを手に取って、お昼ご飯のシチューを口に入れた。

 「美味しい」

 この世界のご飯は元の世界と同じく、美味しかったから良かった。


 もう泣かないように、たくさん食べて元気になると決めた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?