――愛里視点(愛里からの視点になります)――
「愛里様、こちらへ」
「はい」
賢者ドクトリングからの紹介で、
大きな教会の建物は、綺麗なステンドグラスと聖女像が祀られていた。聖女像は、優しく穏やかなお顔をしていた。
お城へ来た時に貸してもらった聖女風の衣装は、この教会の衣装だったらしい。
頭から鎖骨辺りまで薄いベールを被っていて、視界は悪くないけれど移動中はベールを被らなければならないみたい。
案内してくれてるシスターの後について建物内を見学していた。
「朝早くから起きて祈りを捧げます。その後に食事をし、聖女見習の者は光魔法の勉強をします。その後にお昼。食事後、街へ参ります。主に孤児院などです」
一日のスケジュールを教えてくれた。決まっているようで単独行動は出来ないのかなと思った。
「お掃除など当番制です。聖女候補様は誘拐など狙われやすく、危険なので個人的な行動は許可を取ってからにして下さい」
狙われやすく? ……怖いなと思った。
「はい」
祭壇がある所から歩いて階段を登って来たのは、部屋のドアがたくさんある建物の二階の通路だった。
「こちらが聖女候補様の過ごしている
部屋のドアがいくつもあるけど、静かだった。
「今……聖女様候補は、愛里様とあと二人ほど候補様がおります」
三人の聖女様候補がいるのね……。
その時、部屋のドアが開いた。
「あっ! シスター、ごきげんよう。愛里様……でしたね」
同じくらいの歳の、赤毛に緑色の瞳の女の子だった。
「アンヌさん、ごきげんよう。そうです。こちらは愛里さんです」
背は私より低く、可愛らしい人だった。
「愛里、といいます。アンヌさん。今日からよろしくお願いいたします」
私はアンヌさんに自己紹介とお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくね!」
明るく人懐っこいらしい。良かった。
「愛里さん、あなたの部屋はこちらです」
ドアを開けて中を見ると、日本で暮らしていた部屋より広い部屋。でもお城で与えられ暮らしていた、無駄に豪華な部屋よりは落ち着いて過ごせそうで安心した。
「ありがとう御座います」
シスターはにっこりと微笑んだ。
「また後でね! 愛里さん」
アンヌさんは手を振ってくれたので、私も手を振り返した。
「荷物の整理もあるでしょうから、お昼の鐘が鳴ったらお呼びします」
「分かりました」
シスターは忙しいらしく、小走りで戻っていった。
ドアを閉めて、床に荷物を置いた。
家具はベッドに机とイス。テーブルに椅子二つ。ドレッサーにチェスト。隣の部屋にはお風呂がある。
シンプルなデザインの家具だけど、落ち着いた木の家具で古いけど良い。壁紙なども薄いグリーンの色で好みだった。
教会の裏庭を囲むように建っているここは、窓を開けると木々が多い裏庭を見られて風が気持ち良かった。
裏庭ということは、人があまり通らないのと思うのでセキュリティー面でも安心。
ふわりと風が吹いて、ベールがめくれた。風が気持ちいい。
――ふと、父と母と突然の別れを思い出してしまった。
「お父さん、お母さん。大丈夫かな……」
二人だから……大丈夫だと思うけれど、心配。
「お兄ちゃん……」
いつも私を守ってくれてたお兄ちゃんと、別れて暮らすのは心細い。
「うっ……」
いきなり異世界に飛ばされて驚いたけれど、お父さんお母さんお兄ちゃんがいたから頑張れたのに。
寂しい……。
今まで我慢していた涙が、ぽろぽろと流れた。止めようと思っても止まらなかった。
「うっ、お父さん……。お母さん……」
私は窓枠を握りしめながら一人で泣いていた。
カラ――ン! カラ――ン!
しばらく一人で泣いていた後、顔を洗って気分を変え、荷物を整理した。荷物自体は少ないのですぐに片付いた。
お昼の鐘が鳴った。誰かが呼びに来てくれるはず。
トントン!
「アンヌです! お昼ご飯だよ!」
アンヌさんが呼びに来てくれた。
「はい。今、行きます」
ドアを開けるとアンヌさんがにっこり! と笑ってドアの外に立っていた。
「案内するね! ついて来て」
元気なアンヌさんにホッとした。
「この世界に来たことや、勇者様の事は知っているよ」
ニコッ! と笑って言った。
「私ね、勇者様に命を助けられたことがあるの」
アンヌさんの話に驚いた。勇者……。お母さんに助けられた?
「だから、私も役に立ちたいと思っているの」
アンヌさんは緑の瞳を輝かして、私に話してくれた。通路を歩いているほんのわずかな時間に、勇者だった母の話をしてくれた。
この国で
「私も……。皆の役に立ちたい……」
アンヌさん、母からも勇気をもらえた。
「いいね! 私と愛里さん、一緒に頑張りましょうね!」
二人で教会の食堂に向かった。
「まあ! アンヌさん、遅いですわね」
食堂に行くと、金髪で縦ロールの青い瞳をしたお嬢様が座っていた。
「カロニーナ様。ギリギリ、間に合いましたよ」
アンヌさんは返事をした。
「そうかしら?」
あれ? 何だか雰囲気が悪いような……。
「早くお座りになったら? ……あら?」
カロニーナ様と呼ばれた人は、私に気がついた。
「初めまして。今日からこちらにお世話になることになりました、愛里と申します。よろしくお願いいたします」
先に私から挨拶をした。
「まあ! 勇者様のお嬢様の愛里様ね?
ニコッと笑った。貴族の方なのね。
さっきの雰囲気の悪さは気のせいかしら……?
とにかく、私の教会での生活が始まった。教会の方達も優しそうだし、頑張るしかない。
お兄ちゃんは朝が苦手で、心配だけど大丈夫かな?
私はスプーンを手に取って、お昼ご飯のシチューを口に入れた。
「美味しい」
この世界のご飯は元の世界と同じく、美味しかったから良かった。
もう泣かないように、たくさん食べて元気になると決めた。