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第9話  王様の呼び出し アリシア王女



 俺と父は剣の練習を終えて、これから基礎体力をつけるにはどんな運動をしたらいいかと話し合いながら、自分達用の応接間へ帰ってきた。


 「お帰り。……嫌だけど、王から呼び出しされた。……嫌だけど」

母が本当に嫌そうに、部屋に戻ってきた俺達に言った。愛里は困ったような顔をしていた。

 まあ、こちらの世界に母の意思なく、無理やり召喚させた張本人なのだから嫌がるのは分かる。


 「しかし、謁見は断れないだろう。仕方が無い」

「うん」

 あきらめたように母は、父に返事をした。


メイドさん達に手伝ってもらい、俺も正装を着た。


 有能なメイドさん達に髪の毛もセットしてもらったので、少しは見られるようになったかな?

「まあ! 素敵ですよ、カケル様!」

 メイドさんに言われてホッとした。七五三のようだと言われなくて良かった。まあ、こちらに七五三があるかどうか知らんけど。


 父は……?

「うわぁ……」 

振り返ってみなきゃ、良かった。どこの外国の俳優さんだよ? と思った。黒の生地に、袖と襟に青の色の騎士服みたいな服が長身に映えてカッコ良かった。

 メイドさん達は、うっとりとした目で見ていた。そうなるよな……。


「カケル、カッコいいぞ」

父の方が、カッコいいですよ……。口には出さず、心の中で言った。

「応接室でお待ち下さい」

 メイドさん達と部屋から出て、また応接室へと戻った。


「お茶と軽食をお持ちしますね」

「あ、はい」

 母と愛里はまだだろうか? 俺と父は1時間位かかったけれどそれ以上、身支度がかかりそうだな。

 俺と父は応接室で軽く飲み食いしながら待った。


 父と筋トレの話や魔物や魔獣の話をしながら、1時間は過ぎた頃。

「お待たせしました」

 扉が開いて、母と愛里が支度を終えて応接室へ入ってきた。


「おー!」

 女王のような煌びやかな衣装を身につけた母と、薄いオーガンジーのベールを頭から被り清楚なドレスをまとった愛里は可愛いかった。


 「謁見の間まで、ご案内いたします」

メイドさんに案内されて俺達は、ついていくことにした。


 広いお城の中をしばらく歩いて行くと、屈強な騎士が二人大きな扉の前に立っていた。

「勇者様のご家族がいらっしゃっいました。扉を開けてください」

 「はっ!」

 メイドさんが騎士に話しかけると、重そうな扉を騎士二人で開けた。


 謁見の間は広く、高そうな美術品や装飾品など、価値が分からない俺でも高級品と分かるものがたくさんあった。

 「前へ進んで下さい」

いかにも王様だ、というような王冠を被った人が玉座に座っていた。その隣には王妃様。


 王様の横にはドラゴンでこのお城に来た時、出迎えてくれたアデル王子がいた。

「ん?」

 その逆に王女らしき、綺麗な人が座っていた。


 「おお。勇者カナとアマノ殿、その子供達よ」

 王様が俺達に向かって話しかけてきた。俺のラノベの知識では王様の前で、ひざまつくんじゃなかったっけ?

 父も母も立ったままなので、俺達のそれにならった。


 「要件は何でしょうか? 王よ」

 母は挨拶もせず、要件だけを聞いた。王や周りにいる臣下の者達は、ヒソヒソ……と話し合っていた。

 母は、王の臣下ではないとの意思表示ということか。


 「……まあいいでしょう。勇者カナは、この国を救ってくれた女性なのだから」

 王が渋い顔をしてるのに見かねて、アデル王子が皆に伝えた。

「父上、私から話を伝えても?」

 「いいだろう」

アデル王子が王に話しかけた。次期、王ならば皇太子か。


 「また魔獣達の動きが活発になってきた。勇者カナに、討伐依頼を頼みたい」

 ざわっ……! 

臣下達が「まさか!」とか、「魔王は倒したんじゃないか!?」と騒ぎ出した。


 「静かに。……これは事実だ。各自、対策を話し合ってくれ。明日、話し合いの場を設ける」

 アデル王子が臣下達を見て、冷静に皆に伝えた。次の王様ということで、臣下達を従わせる素質はありそうだ。腹黒そうだけど。

臣下達はぞろぞろと謁見の間から退出していった。


 「勇者カナとその家族。移動しよう。話がしたい」

 アデル王子がそう言い、王達も謁見の間から移動した。


 長い回廊を歩いて行くと、途中からフワフワな豪華な絨毯に変わった。おそらくここら辺から、王族の住む場所なのだろう。騎士達も倍以上いる。いや近衛兵というのだろうか? 

 俺達が召喚されてしまったこの異世界は、中世ヨーロッパの文化に似ているようで少し違うらしい。どこが? と言われても俺には分からない。


 「こちらです」

 美人なメイドさんに、さらに豪華な部屋へ案内された。

大きな窓。あちこちに立派な肖像画が壁にあって、さりげなく飾ってある花瓶は高級そう……。床に敷いてある絨毯はさっきのよりフカフカだ。


 先に座っていた王様達は、優雅にお茶を飲みながら談笑していた。

「座りたまえ」

アデル王子が俺達に気がついて、ソファに座るように促した。


 ふと見ると、先ほどお会いした王女もソファに座って紅茶を上品に飲んでいた。

「王女とは初めて会うだろう。紹介しよう」


「勇者カナ様とご家族様、初めまして。わたくしは、この国の第1王女アリシア……と申します。どうか再び、この国を救って下さいませ」

 銀色の綺麗な長い髪が肩から胸へサラリと流れた。

胸もとが大胆に開いたドレスを着ていて、つい、ジッと見てしまった。

ハッ! と気がついて目をそらし、愛里を見ると愛里もジッと見ていた。


 アリシア王女はにっこりと笑い、俺を見つめた瞳は深い青色で吸い込まれそう。綺麗な王女様だった。

「確か……。カケル様もお年が17才と、聞きました。わたくしも同じですの。愛里様とも年が近いので、仲良くしていただけると嬉しいです」

両手のひらを胸の前で合わせて、はにかむ顔が可愛い。


「まあ! アリシア王女! お友達が欲しかったので嬉しい!」

 愛里がアリシア王女に近づいて両手を握った。こういうときに愛里は、積極的になれるので羨ましい。

アリシア王女は、まぶたをパチ、パチと数回まばたきしてから愛里をみつめた。


「こら、愛里。王女様に馴れ馴れしいぞ?」

相手は王女。不敬になるかもと考えて、愛里に注意した。

「あ……っ」

愛里は王女の手を離して、しまった……という表情をした。


「いえ。……むしろそのように、親しげにしてくださる方は少ないので嬉しいですわ」

アリシア王女は、にっこりと微笑んだ。愛里もアリシア王女に微笑み返した。

周りの大人達は、微笑ましく二人を見ていた。


「こほん。話を戻していいかな?」

アデル王子は話の続きを促した。


「……この国を救ってくれ、とは?」

父がアデル王子に話しかけた。一瞬、皆が黙り込んだ。アデル王子が王に目配せして、頷き合ってから話し始めた。


「この間の報告で……。アカツキという者が、次の魔王と聞いた」

 父と母は頷いた。

「その影響か、魔物より強力な魔獣が現れ始めた」


 魔物より強力な魔獣。怖いな……。

「それで魔獣退治をして欲しい」

アデル王子が真剣な表情で俺達、家族を順番に見た。

「……騎士団がいるだろう? 部外者な私達が、魔獣退治をする理由がない」

 一口紅茶を飲んで母は、カチャッ! とティーカップをソーサーに置いた。


「理由はある」

アデル王子は両手の指を組み、ゆったりとソファに座り直した。

「君達が帰るには、魔獣の体の中にある【魔獣石】が必要だ」

「!」

「!?」

俺達、家族でお互いを見合った。


「こちらに呼ぶ時と還す時に【魔獣石】は必要だ。だが城に備蓄していた分が、この間の召喚の儀で無くなってしまった」

 アデル王子は続けて話した。

「どうだ? 魔獣退治をするがあるだろう?」


 ガタン! 父と母はソファから立ち上がった。

アデル王子の言い方に、俺もムカついた!

「お兄様! 酷いですわ!」

 アリシア王女が、兄のアデル王子に強く非難した。


「……【魔獣石】集めには、私も行きます」

「アリシア」

アリシア王女が立ち上がり、王に話しかけた。

 まさか王女が【魔獣石】集めに、魔獣退治をすると言うとは思わなかっただろう。王は驚いていた。


「アリシア」

「お兄様は黙っていて下さいませ」

アリシア王女はアデル王子にピシャリと言った。


「私、これでも優秀な魔法使いですの」

 そう言って空中にパッと、魔法使いの大きな杖を出した。

「兄の無礼な物言いは、謝罪いたします」

 そう言って頭を下げた。王女なのに。

「勇者様とご家族様。騎士達と私。一緒に魔獣退治をすれば、早く終わりますわ」


「……仕方が無い。事態は思っているより進んでいる。……魔獣の動きが活発になっているのは、事実だ。下手をすれば近いうちに、この国全体に大量の魔獣が襲って来るだろう」

「……」

 母の言葉に皆がゾッとした。


アカツキ……という名の、次の魔王の力なのだろうか?


「いくつ、必要なんだ?」

母が問うと、王がパンパン! と手を叩いてメイドを呼んだ。

を呼べ」

「かしこまりました」

 メイドさんは頭を下げて部屋から出ていき、すぐに誰かを連れて戻ってきた。


「魔法使いのオンブルだ。賢者ドクトリングと召喚の儀をおこなった」


 グレーのローブに深くフードを被った、暗い感じの中年男性だった。やはり背の高さ位ある杖を持っていた。


「【魔獣石】は100、必要だ」

 オンブルと名乗ったお城の魔法使いは淡々と、魔獣石が100個必要だと言った。

「くっ……」

母は手を強く握りしめて、怒りをあらわにしていた。


 魔獣石が100個必要と言ったきり、沈黙した。俺は、オンブルという魔法使いを気味悪く感じた。


「……分かった」

母の、怒りを抑えた言い方に皆が注目した。

「サッサと魔獣を倒して、100個【魔獣石】を集めてこの世界から元の世界へ帰ります! いい? 私達はあなた達のために、犠牲になるつもりはない!」


 母の怒りを感じて、ピリピリッと全身にしびれが走った。

 言い終わると母は、部屋から振り返りもせず部屋から出て行った。

「お前達は、俺達家族をないがしろにした。すなわち勇者を怒らせた。恩知らず、と……覚えておけ」

温厚な父もかなり怒っていた。俺と愛里は父の後について、部屋から退席した。


 俺が部屋から出る時に振り返ると、アリシア王女が泣きそうな顔をしていたのが気になった。



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