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第8話  お城へ帰還 強くなりたい



 急に襲ってきた、アカツキ(次期魔王と言った)が去った後……。


 母は、緊張の糸が切れたのか、ガクリと両膝をついた。俺は母に駆け寄った。

「とにかく……、やつの闇の魔力の残留に、引き寄せられて魔獣が来る前に城へ戻ろう……」

愛里の頭を撫でる母。


 気付くと、額に嫌な汗をかいていた。

ヤツのマイナスな闇の強い魔力。……みんな、殺されなくて良かった。


 父がフーッと深い息を吐いて、

 「カナと愛里、防護の盾で私達を守ってくれてありがとう。そして、カケル。無茶な行動だったが結果的に助かった。ありがとう」と言った。

父は俺の頭を撫でた。この年齢で頭を撫でられるのは恥ずかしかったが、礼を言われたので素直に喜んだ。ほっとする……。



 でも正直……。俺は、何も、出来なかった。

母みたいに勇者の聖なる力は無いし、愛里の聖女の護りの光の魔力は持ってない。

今回は奴には何もしなかったが、父の俺達を絶対に守ってくれる安心感は俺には無い。


 クソッ。クソ……。


「カケル?」

泣きそうになる。だけど家族の前で泣くわけにいかない。すっと、父から離れた。

「魔獣が来る前に帰ろう」

背を向けたまま、言う。


 「……城へのゲート(扉)を開く。ジン、少し力を貸して」

母が父に話しかけると、互いの右手を合わせて指を組んで握った。


「###、##□◇◇」


母は、聞いた事の無い言語を話している。何て言っているのか分からないが、淡い円状の光が現れた。現れた光をボーッと眺めた。


 「さあ、帰ろう」

母がゲート(扉)に入って行き、父が愛里をおんぶして母に続いた。

俺も父に続いてゲートをくぐろうとした。


 「アカツキ……!」

振り返り、ヤツの名を呼んだ。アイツが消えた場所に微かに闇の魔力が残っているのが、みえた。





 お城に戻り、母は陛下と殿下と大賢者 ドクトリングに森であった事を報告した。

愛里はお城に戻って来て、横になっていたがしばらくしてから目を覚ましソファに座っている。

「……闇の魔力が、凄かった。何て言うか……。この世界の全てを憎んでいるような……」

愛里がそう言い、父に入れてもらったミルクティーを飲んだ。


 俺達、家族が使っているリビング代わりにしている客室に居た。もちろん地球の俺の家のリビングとは違い、高級品ばかりの物ばかり。

「次期魔王か……」

父は腕組みをし、考え込んでいる。愛里は、メイドさんが運んで来てくれたケーキを食べ始めていた。母はまだ王様達と話しているのかまだ戻って来ない。


 「お兄ちゃんはケーキを食べないの?」

すっかり顔色が良くなった愛里は俺に話しかけてきた。

「あ、ああ」

さっきの事が頭から離れなくて、飲み物やケーキも手を付けてなかった。

「あ、じゃあ……ケーキもらっていい?」

ケーキをねだりだした。食べる気がしなかったので譲ろう。

「いいよ」

返事をすると、愛里は笑顔になった。


 「ありがとう! もらうね♪」

良かった。元気になったみたい。ニコニコとケーキを美味しそうに食べている。

「日本のケーキよりは甘くはないけど、さすがお城の一流の料理人さんね。美味しい」

あ、俺も食べれば良かったかな?



 カチャリと扉が開いて母が戻ってきた。カツカツと早足で俺達に向かってきて、ソファにドサリと座った。

「……面倒な事になりそうだ」

母のウンザリした顔を見て、何か厄介な問題を言われたと考えた。

「カナ?」


 心配そうに母の隣に座った。

「何か温かい飲み物をいれよう。コーヒー?」

「コーヒー、お願い」

母がコーヒーをお願いすると、父はソファから立ち上がってコーヒーを淹れに行った。


 母もあの闇の魔力にあてられたのだろう。顔色がよくなかった。

「母さん、顔色がよくないよ。コーヒーを飲んだら少し休んで」

そう言うと母は、フーッと体の力を抜いてソファの背に寄りかかった。

「……そうする」


 父がコーヒーを淹れて戻ってきた。

「ありがとう……」

肩をポンと軽く叩いて、当たり前のように母の隣に座った。



 とりあえず、今日は夕方になってしまったのでゆっくり休む事にした。


 疲れていたけれど、俺は全然眠れなかった。あの圧倒的な闇の魔力。強力な魔法、殺意。思い出して、身震いした。俺はよく奴に体当たりをしたな。


 俺は無力だった。魔法も、力も、何も無い。

勇者の子、……なのに。このままじゃ、お荷物だ。何か……? たとえば、剣が使えるとか良いな。

明日、母にたのんでみようか?


 次の魔王候補のアカツキ。

何が目的なんだろう? 考え込むと眠れない。とりあえず、考えるのをやめて寝よう……。

皆、無事で良かった。本当に良かった。



 次の日。

俺はお城の騎士団の訓練施設に来ていた。


 「はぁ? 剣術を教わりたいだと? お前が?」

騎士達を訓練していた、強そうな指揮官らしき人に思い切って声をかけてみた。ジロジロと頭から足先まで見られた。

「ハイッ。お願いします!」


 圧倒的な強さを見せられた俺は、少しでも強くなれるように騎士達から剣術を教えてもらうようにお願いをしに来た。俺みたいに何も持って無いヤツは努力するしかない。


 「うーん。人手不足だから歓迎する。だがお前、勇者様の家族だろう? 勇者様に教わらなくていいのか?」

ごもっともな意見だ。だが勇者とはいえ、母親に教わるのはなんだか嫌で……。


「カケル、俺が稽古してやろうか」

後ろから声をかけてきたのは、父。小さい頃から遊んでもらったが、はしてもらったことはない。


 「いいの?」

 魔王……? だった父ならば強いだろう。変な言い方だけど。

「ああ。――木刀を貸してもらえないか?」

 父が騎士に向かって話しかけた。

 「ああ。いいぞ」

 魔王だった父。騎士達は父の正体は知らないのだろう。複雑だ。


 立てかけてあった木刀を二本借りて、訓練場の端っこに移動した。

「カケル。俺は騎士みたいな剣の型は知らない。それでもいいか?」

 剣の型? あ――たぶん俺はそういうの苦手かも。

 「その方がいいかも。……できるか分からないけれど、教えてください」 

 俺は父に頭を下げた。習うには父も、子も関係ない。先生に教えを乞う者だ。


 「よし。とりあえず、持ち方から教えよう」

 父は俺に、手取り足取り丁寧に教えてくれた。


 「横からこう来た時には……。こう持って反す。次にこう来たときは……」

 父は基本的な事から、実用的な使い方まで教えてくれた。


 だんだん慣れてきて、剣の打ち返し? っていうのかな。楽しくなってきた。

「いいぞ! カケル」

 素人の俺の相手だから手を抜いているだろうけど何ていうか……上手だ。身のこなしや姿勢などキレイだしキリリとした表情。俺は普段、父の何を見ていたのだろう。


「はぁっ!」

頭上に木刀を振り上げて、渾身の力を込めて振り下ろした。

 ガツッ!

「うわっ!」

 横から払われて、俺は木刀を離してしまった。手に衝撃が伝わって、しびれた。


「振り上げると、スキが出来る。慣れないうちはやらない方がいい」

 立っていた位置から足を動かさず、俺の打ち込みをで受け流していた父。

俺はハァハァ……と呼吸を乱していたが、父は涼しい顔をしていた。


 もしかして俺は、とんでもない人に剣を習っているのか? 疲れて、カクリ……と両膝を地面につけてしまった。


「今日はここまで、だな。まずは基礎体力をつけないと話にならない」

 うっ……。確かにもっと体力をつけないと駄目だ。

「明日から走るよ」

 ふぅ……、と呼吸を整えて立ち上がった。汗をかいたけど気持ちがいい。


「ありがとう御座いました」

父親だけど、礼をする。教えてくれたのは嬉しかった。

「うん」

 顔を上げて父を見ると、普段見慣れた穏やかな顔をしていた。父の知らない一面を見られて良かった。




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