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第7話  黒い魔力を纏う者 アカツキ



 俺と愛里は急いで、父と母のいる場所へ向かった。

道など無い。獣道のような、膝丈ほどの草木が倒れて道になっている所を進んで行く。


 「愛里、大丈夫か?」

裾や袖が小枝に引っかかる。アスファルトで舗装された道路を歩くのになれた俺達には、ひどく疲れる。

「う、うん」

ちょっとフラつきながら進んで行く。この道を父は走って行った。家で執筆の仕事をしている時と違って別人の様だ。


 細い木々の間を何分か二人で歩いていると、目の前が開けた。ポッカリとそこだけ木がなく、広場になっていた。

「何? ここだけ木が無くなっている?」

愛里が一歩踏み出す。


 「愛里危ない!!」

俺は向かってくる風が顔に当たって気が付いて、咄嗟に愛里を抱えて横倒しにした。

「キャア!」

 ザザザザッ! と地面が爪の様にえぐれ取られていた。


 「な、何だ?」

地面に倒れ、愛里を腕に抱き込んだまま顔を上げた。


「ちっ、外したか」


 冷たい男の声が聞こえた。

砂埃を払いながら目を凝らすと地面から二、三メートル上に浮かんでこちらを見ていた。


「死ねば良かったのに」

 ニィ……と口の端だけあげた、俺と同じ高校生くらいの男が言った。全身真っ黒な服を身に着け、長いマントをはためかせて宙に浮いている。

 ただ、全身から禍々しい黒いオーラのようなものが湧き出て辺りを暗くしていた。


 「カケル! 愛里!」

右の方へ向くと父と母がいた。母は座って……いや。負傷したのか、しゃがんで顔をしかめている。

「母さん!? 大丈夫?!」

俺は思わず叫んだ。


 「へぇ? 親子なんだ。……面白い」


 面白い? なんだこいつ。母の様子も気になるが、いきなり攻撃してきた相手から気を反らせない。

「お兄ちゃん、あの人……とても強い闇の魔力を持っているよ……」

愛里はカタカタと震えだした。俺は愛里を立たせ、背中側に隠した。

 父は母を庇っているようだ。二人とも怪我をしていないといいけど……。


 「お父さんからも、闇の魔力があふれている……」

俺達と別れた時よりも強い力を感じる。

「あれ?」

何で俺……、闇の魔力を感じるんだ?


「女からは聖・魔力。男は闇・魔力を感じる。お前ら、ただ者じゃないな……」

闇の魔力を禍々しいほどまとっている男は、瞬時に母と父の魔力を正確に当てた。こいつこそ、ただ者じゃない!


 黒髪に黒目。

「お前は日本人か?」

ゴクリとツバを飲み込んで、宙に浮く闇の魔力を感じるヤツに聞いた。

「お兄ちゃん……」

ああ、分かっているよ。無謀だよ。でも何者か、探っておかないと……。もしかしてこいつは……? 愛里はギュッと俺の背中側の服を握りしめた。


 「ふん……。元は、な……」


 あ、答えた。元は? 何だか深い事情がありそうだな。

「お、お兄ちゃ――ん……。よく話せるね……私、あの人の闇魔力が強すぎて……動けない」

ん? 俺は平気だけど。……何とか父と母の方へ行けないかな?

「愛里、俺の背中に乗れるか?」

チラと、後ろを振り返って愛里に言う。

「う、うん。大丈夫……」


 「愛里をおんぶしたら直ぐにお父さんとお母さんの所へ移動するから、危なくなったらさっきみたいに聖魔法の盾で皆を守ってくれないか? 出来る?」

小声で愛里に伝える。

「うん、出来る」

コクリと頷く。


 「じゃイチ、ニのサンで行くから乗って」

愛里は言われた通りに、俺の背中に飛び乗りしがみついた。

「三!」

ヤツは考え事をしていたのか、俺達が動き出してから気が付いた。

「クソッ!」

愛里を背負いながら、父の方へ走って行く。


 愛里は軽いから苦にならない。父のびっくりした顔が見えてきた。

「父さ……」

走りながら呼ぼうとした時、ヤツから闇の魔力が集まったのを感じた。

「!?」


 ヤバい。さっきみたいな攻撃をされたら皆……やられてしまう!

「ハァッ!」

一か八か、服に付いてあったアクセサリーを引き千切って、ヤツにぶん投げた!

「カケル!」

あと少し。母の姿も見えてきた。


 「ウワァッ!? なんだよなんだよっ!! くそぉっ!」

ヤツのうめき声が聞こえた。

「へ? あっ!?」

ヤツの方へ顔を向けると、黒い魔力の玉がこちらへ放たれているのが見えた。

「「カケル! 愛里っ!」」

父と母の声が重なる。


 「「護りの盾!!」」



 それは、さっき愛里が守ってくれた盾にさらに大きな盾が重なって二重の盾となり自分達を守ってくれた。

 キラキラ、キラキラと二重に、白と薄桃色の綺麗な光の盾だった。


 「父さん! 俺、どうしたらいい!?」


 母と愛里が聖・魔法の “守りの盾” で俺達を守ってくれている。だが、いつまで持つか。

「くっ……! ジン! 今のうちにカケルを連れて逃げて!」

母は両手で “守りの盾” を作りながら父に言った。俺を連れて逃げろ!? 愛里や母は?


 二人の聖魔法でも何とか防げているようだ。いきなり俺達に向けて放ったえぐるような闇魔法は、じりじりと母と愛里の聖魔法を押しているようだった。

「カケル……」

父は俺の名を呼んだ。二人を残して逃げるのに戸惑っている。……当たり前だ。今、四人が離れたら、駄目な気がする。


 「お前は何なんだ!! 急に現れて攻撃してくるなんて、ふざけるな!!」

俺は何だか頭に来て、奴に向かって叫んだ。

「「カケル!?」」

父と母の声が被った。



 ふ……、と奴からの攻撃がやんだ。

「お兄ちゃん……」

愛里と母の手から聖魔法が消えた。愛里の額には汗がうっすらと浮かんでいて、ペタンとお尻を地面に着けた。

 母は背中に庇うように愛里の前に立ち、剣を握っていた。


 「何なんだよ!? いきなり攻撃してくるし、ふざけんな!」

俺は思わず奴に向かってまた叫んでしまった。

「カケル……」

父と母はびっくりした顔で俺を見ている。愛里を見ると、顔を真っ青にしている。



 「……へぇ? 俺様の魔力に怯まないとは、オマエ、何者だ?」

俺達に攻撃してきた奴は、虚を衝かれたかのように腕をダラリと下げて地面に降りてきた。そしてこちらに歩き近づいて来る。


 「カケル……、刺激させるな」

奴が降りてきたのを見て母は、コソリと小声で言った。剣を握った母の手に力が込められていた。真っ直ぐに奴を険しい顔で見つめている。普段の母の穏やかな表情とうって変わって別人のようだ。ピリピリとしたオーラのようなモノが伝わってきた。


 「そこの女のその魔力……。お前まさか?」


 奴にも母のピリピリとしたオーラを感じたのか、一歩だけ後ろに下がった。奴との距離は……十メートル位。

「おにい、ちゃん……」

座りこんだ愛里を見ると、母の服に掴んで震えていた。泣きそうだ。


「カナ、僕の……いや、俺の封印を解け」

愛里の肩をそっと撫でた父が母に話しかけた。封印? なにそれ?

「ジン、駄目だ。絶対に駄目だ」

母は、一歩一歩とこちらに進んで来る黒い魔力を纏った者から目を逸らさずに言った。


 「オマエ、勇者だな?」

ゾクリ……!

黒い魔力を纏った奴は、禍々しい黒い魔力を更に高めた。

「きゃあ!」

「愛里!」

悲鳴を上げた愛里は、くたり……と父の腕の中で気を失っていた。

「愛里!? 大丈夫か!?」

青い顔をしている愛里を父は抱えた。


 「……ジン」

母が父の名を呼んだ。俺と父は視線を母に向けた。

「私が奴に一撃をくらわせてる隙に、皆で逃げろ」

父と俺は耳を疑った。母を置いて、逃げる?

 母が勇者だとしても、強いだろうとも……。近づいてくる奴は、ヤバい。俺でもヤバいと感じる。


「カナ……」

 父は迷っている。

母と、俺と愛里を。どちらかなんて選べない。


 「生かしておけば、後々面倒だな。勇者……か、ケッ!」

奴は顔を歪めた。

「反吐が出る。正義の味方気取りか?」

奴の手に力が集まっていくのが分かった。母はスッと立ち上がり、剣を抜いた。


 母が掲げた剣の鋭利な刃は、太陽の光を反射してキラキラと光っている。何か加護がたくさん付属していそうな、聖なる物のようだった。



 空気がピンと張りつめる。どちらかが動いたら、戦いが始まってしまう。イヤな汗がこめかみを流れた。

ヤバいヤバい、ヤバいヤバい、ヤバいヤバい!

「やめろー!!」

 何とか、とめないと!

 「母さん、ごめん!」

母が持っていた剣を、俺は飛び出した。


「なんだとっ!?」


 何も考えずに俺は奴に剣を向けた。

ガッ!! と金属の鈍い音がして気がつけば、奴と剣を交えていた。

「「カケル?!」」


 「いい加減にしろよ!」

俺はムカついて無我夢中で剣を振り回した。

 ガキンッ! ガツッ!

アカツキは俺に押されながら剣を受け止めていた。

「なんだ、こいつ……!?」

 アカツキは俺の怒りにまかせた無茶苦茶な剣に、押されていた。

 ガッ! ドガッ!

「ぐっ……!?」

剣の柄で、アカツキの腹に一撃を入れた!

「アカツキ!」


 よろめき、倒れる寸前に黒いローブを被った男が音もなく現れてアカツキを抱えた。

「体が痛むと使い物にならない。ここは一旦引くぞ」

男の声はまるで、機械の音のようだった。

 突然現れた黒いローブを被ったこの男は!?


「……、…………!」

なにかの呪文を唱え始めた男は、アカツキを軽々と肩に乗せた。

 ここから去るつもりか!?

「ま、待て!」

俺はとっさに追いかけようとした。


「う……。くそッ……! 俺は、次の魔王 アカツキ。……覚えて、おけ!」

アカツキは、黒いローブを被った謎の男に担がれながら、俺達に言った。

「あっ!」

あっという間に黒いローブの男は、魔法を使ってアカツキと共にその場から消えてしまった。


「アカツキ……。次の魔王だって?」

アカツキが消えた地面を見ながら俺は呟いた。

「魔王? 魔王って!?」

振り返って父と母、父の腕の中の愛里を見た。

「アイツ、次の魔王とか言った!」


 父と母はお互い顔を見て、次に俺を見た。





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