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第6話 森へ

ドラゴンで来た時に着陸した場所のお城の裏側に、家族全員で騎士さんに案内されてやってきた。


 石畳で作られた広い円形状の場所で、よく見たらゲームの世界だったらボスと戦いそうなステージみたいな所だった。

「あれ? 今日、大賢者さんはいないの?」

黒いドラゴンを操っていたのは大賢者さんだったから、てっきり今日も大賢者さんが一緒に行くものかと思っていた。


 「ドクトリングは用事があるそうだから、来られない。ついて行きたかったみたいだったけどね」

母は大賢者さんが来られない事を教えてくれた。

「え――、残念! おじいちゃん、来ないんだ」

愛里は口を尖らせた。大賢者さんをおじいちゃん呼びしたよ……。大丈夫か? 妹よ。


 「え、じゃあ誰がドラゴンを操る? の??」

俺は案内してくれた騎士さんを見た。

「えっ? 私はドラゴンを操れるほど、聖魔力を持ってません!」

騎士さんは片手をぶんぶんと左右に振った。

「じゃあ、誰が?」

愛里がキョロキョロと周りを見て、ドラゴンを操ってくれる人を探した。


 「我……コホン。いや、私がドラゴンを操る」

父が名のり出た。

「え、操れんの?」

思わず口に出す。だが、フードを深く被った父はいつもの穏やかな雰囲気とは違って見えた。


「カナ、30%解いてくれ」

父が母に話しかけた。母は「了解」と言い、父の首にいつもつけているチョーカーの飾りに人差し指を向けた。

「へ?」

突然何をするのかな……と二人を見ていた。


 「……30%、解除」

トン、っと母が軽く飾りを突いた。

「きゃっ!」

一瞬、強いつむじ風の様なのが父の周りに起こって皆の服や髪の毛をバサバサと揺らした。

「「えっ、何!?」」

愛里と俺はうろたえた。案内してくれた騎士さんも剣に手をそえた。

「大丈夫だ。……問題ない」

父が落ち着いた声で皆を制した。すると不自然に風は収まった。


 ブルリ……。何だか少し鳥肌がたっている。騎士さんは首を傾げながらそわそわしていた。

「あー、案内してくれて有難う! もう大丈夫だから下がっていいよ? ご苦労様」

母は案内してくれた騎士さんに、そう言って下がらせた。


 「呼んでくれ」

ドラゴンの着陸場? にいた、誘導員に父が話しかけた。

「り、了解です!」

変わった形の、骨で出来てるだろう笛を口にくわえて息をはいた。

ピー、ピー、ピー、ピー、ピー!

 呼ぶのは5回、吹くのか。あまり気持ちの良い音じゃないなと、何となく思った。



 ギャオォォ――ン! と遠くから鳴き声が聞こえた。


 「うわ!」

太陽の光が一瞬……曇ったかと思い見上げたら、黒い影が見えてあっという間に大きくなってこちらに近づいてきた。

「きゃあ!」

思わず愛里は両手で頭を守ってしゃがんだ。


 見上げた空いっぱいに黒いドラゴンが、バサッバサッと翼を羽ばたかせて空中でとまっていた。

「やっぱり迫力あるなぁ!」

 黒光りしている黒いドラゴン。鋭いツメをみるとやはり恐くて竦んでしまうが、物語の中にしかいなかったドラゴンを間近で見られて俺は心が躍る。

 急降下で地上へ降りる前に、一度とまって勢いを落としてからドスンと着陸場へ降りてきた。


 「じゃあ、行きましょう」

そう言って母は、俺と愛里の肩に手を乗せた。

「へっ!?」

 ……一瞬で、ドラゴンの背中のカゴの中に移動した。

「魔法、使っちゃった」

母は俺達に、にっこりと笑いかけた。

「「……」」

俺と愛里は、急なことでびっくりして声が出なかった。


 「あれ? お父さんは?」

父がいないことに愛里は気が付いて言った。

「すぐ来るわ」

母が慌てもせずに落ち着いて言う。


 「待たせた。行こうか」

シュン! と父がドラゴンを操作するカゴの前の場所に現れた。

「「ワァ!」」

 二人はびっくりして叫んだ。

「慣れろ」

慣れろって言っても……。二人は困惑した。


 困惑している二人をよそに父はドラゴンに命令する。

「森へ進め」

ギャオオン!!

ドラゴンはひと鳴きしてから地を蹴り、翼を羽ばたかせて空へ向かった。

「え、父さんドラゴン操れるんだ……」


 俺達の知らなかった両親の秘密。凄すぎて何だかそろそろ頭がマヒしてきそうだ。

「もう何でも来いや! って感じ」

「私も……」

俺と愛里は、苦笑いしながら言った。


 父が操る黒いドラゴンは、何だか大賢者さんが操っていたよりも安定して早く飛んでいるように思えた。

「わりと、自然が多いな」

たぶん湖や川や森などが視界に見えた。空には太陽と月……。

「あれ? 月が1つだ」

空は薄紫色で月と太陽が1つずつ。昨日見た空には月が3つだった。


 「昨日が特別だったのよ、カケル」

横を向くと母が寂しそうに笑っていた。

「特別?」

「そうよ。特別な日」


 俺は母の寂しそうな顔に訳が分からなかったが、胸が痛んだ。


 「もうすぐ着く」

父の短い声かけに母の顔から目を逸らした。

「掴まって! カケル、愛里!」

母の呼びかけが聞こえたかと思っていたら、グンッと急降下した。

「またなの――!? キャアア――――!」

愛里の絶叫と、落ちる感覚が混ざって身体中がビリビリッとした。

「あ、安全運転! お願いしま――す、ギャアアアア!」


 大賢者さんより着地は荒かった、父のドラゴン操作。

あっ……、母が『慣れた』ってこれ!?


 某遊園地の、ジェットコースター並みに恐いんですケド!


 「絶対に慣れない! 無理!」

「うぅ……。気持ち悪……」

俺と愛里は、また着地時に気分が悪くなった。

これが異世界では普通なのか? 慣れそうにない……。


 「気分が良くなるまで休みましょう。ちょっと私が周りを調べてくるから、じんは二人についていてくれる?」

母が父に話しかけて父が頷いた。

「気をつけて。何か異常があったらすぐ戻って」

「分かった」


 そんな父と母の会話を、大きな木の下で愛里と背中をぐったりと木にあずけて座りこんで聞いていた。何かの鳥の鳴き声や、葉っぱの揺れる音が聞こえる。

「……武器とか持って無いようだけど、母さん大丈夫なの?」

俺は父を見上げて聞いた。


 「母さんは、大丈夫だよ」

父は二人を見て、微笑んだ。


 父と母の絶対的な信頼関係。俺達の知らない二人の過去。勇者と魔王……。聞いてみたいような聞きたくないような……。

「この国は、自然が多いね」

気分の悪さが少し楽になってきたので、父の立っている後ろの木々を見て思い、口にした。


 「ああ。この世界はカケルが生まれた “” と違って、あまり手を加えられてないからな」

腕を組んで、母の向かった方角に振り返った父。

 “” と単語を使うのを聞いて、父は “違う世界の人” と初めて感じた。皆より若い姿の父。ちょっと世間離れしただけの人と思っていたけど……。


 視線を下に向ける。

地面からはえている雑草を見つけ、指で触った。同じ植物なのに、見たことのない色と形をしていた。ここは異世界なんだ、とあらためて感じる。


 「お兄ちゃん」

隣に座る愛里が、俺に話しかけてきた。

「何?」

悪かった顔色がマシになっていた。ちょっと戸惑い気味に腕を真っ直ぐ上げて、人差し指を示した。


 「お母さんの向かった方角の先に、強い闇の魔力を感じるの……」

「え?」

強い闇の魔力? まさか魔物が!?


 「ハッ!?」

父が何かに気が付いたように走り出した。

「父さん!?」

立ち上がって父を追おうとした。

「お前達はここに居なさい! 動いては駄目だ!」

走りながら俺達に言って父は、スゴイ早さで行ってしまった。多分俺は追いつけないだろう。言われたとおり、動かない方がいいのか。


 「愛里、闇の魔力って感じるのか?」

愛里から二メートル位の場所で振り返り聞いた。

「あ、うん。この森に来てからあちこちに感じていて……。ここから遠いし、こっちに向かってはないから危険はないと思うけど。1つ……、強い闇の魔力が急に現れて」


 そわそわと落ち着きなく、手を動かしている。

「あまりよくない感じ……なの」

「よくない感じ?」

眉をひそめ、父と母の向かった方角を気にしている愛里。

「うーん……。敵意? って言うのかな? それを感じる」

「……敵意」


 俺には愛里の感じる、その〖敵意〗分からないがゾクリと悪寒がした。


「お、お兄ちゃん!」


 名を呼ばれて愛里を見る。

ほんの数秒間、スローモーションのように動いて見えた。

 愛里は立ち上がって俺に駆け寄り、肩に掴んだと思ったら引き寄せ倒して俺の前に立った。バランスを崩した俺は地面に転ぶ。


 「まもりの盾!!」


 愛里の大きな声が響く。

地面に転んだまま愛里を見ると、軽く足を開いて両手を前に突き出していた。

 次の瞬間、愛里の手のひらから光が輝き溢れた。

「眩しいっ!! 何っ!?」


 バシィィィン!!

「お兄ちゃん!!」

 愛里が叫んだ。バサバサッと風があたり、愛里の髪の毛や服がはためく。


 「愛里、大丈夫か!?」

後ろ姿の愛里に声をかける。徐々に光が消えて、愛里はグラリと倒れそうになった。

「愛里!?」

慌てて起き上がって愛里をささえた。


 抱きとめて、ぎりぎり地面に倒れるのを防げた。

「愛里、愛里! 大丈夫か!?」

俺の肩に愛里はアゴを乗せて息を荒くしている。

「だ、大丈夫……。危なかったよ、二人とも」

そう言い、愛里は俺から離れた。


 「お父さんとお母さんの向かった方角から、何か強いがきたの」

え!? それって……。

「こちらへ狙った魔術か分からないけど、モロに受けていたら……」

ゴクリとノドを鳴らす。

「……死んでた?」

俺は何となく、確信を持って言った。

「当たり」

愛里は土の付いた服を払った。


 「お父さんとお母さんが、心配」

キッと愛里は父と母のいる方角を睨んだ。

「行こう!」

俺は愛里の手を握り、歩き始めた。

「うん!」


 「愛里。守ってくれてありがとう、な?」

咄嗟に守ってくれた。

「うん」

少し愛里は照れているみたいだ。

「すごいな。誰かに教えてもらったのか?」

そんな時間あったかな。大賢者さんに教えてもらったかな?

「ううん。ゲームとか漫画とかに出て来るイメージで、出せた」

「へぇっ!?」

イメージで出せた? ……さすが、聖女。


 「俺は何にも力は無いけど、愛里を守るよ」

魔力は無かったから、捨て身で……。

「ありがとう、お兄ちゃん。私も守るね」

うふふ……と、愛里は俺を見て笑った。二人で少し照れながら笑う。地球では “守る” なんて普段言わない。


 「……でもお兄ちゃん、聖・魔力は無いけど違う能力がありそうなんだよね――?」

愛里がポソリと言う。


 歩く先の木々が、ボロボロになっていて所々倒れていた。

さっきまで鳥の鳴き声が聞こえていたのに、今はシーンとして静まり返っていた。

「何か嫌な感じだな」

「うん……」

愛里は俺の手を強く握った。



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