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第5話  俺の魔力



 「カケル様は、お強いのですな」

部屋に残された大賢者さんが、俺に話しかけてきた。


 強い?

「いや、強くなんてないけど」

別に、特技を持っていない。

「いいえ。力や外見的な事ではなくて、精神力の事ですじゃ」

にっこりと笑い、シワを深くした。

「精神力?」


 よく分からないけど、褒められたんだよな?

「ありがとうございます? ……かな」

大賢者さんはニコニコしながら、俺を見ている。

「この世界の、生活の事をカケル様にお教えしよう」

大賢者さんは俺に、簡単にこの世界の事を話し始めた。


 この世界は魔力を動力源として生活していること。

魔力検査の結果、魔力が高い者はお城で手厚い保護を受けること。そして、ほとんどこの王都に住む者は聖・魔力の持ちということ。桁外れの聖・魔力の一番の魔力の持ち主は、聖女と言われている。ここ何百年も現れてないそうだ。

また他の大陸に他の種族がいて、その中でも高い闇・魔力の持つ者は魔族と言われている……と教えてくれた。


「おお、そうじゃ。カケル様も水晶で魔力検査してみないかね?」

思いついたように、大賢者さんが聞いてきた。

 魔力検査か。やってみようかな? 愛里は聖女クラスの魔力の持ち主だったし、俺も凄い魔力持ちかもな!

「やります!」


 ワクワクドキドキしながら水晶の置いてあるテーブルの前に立ち、水晶に手をかざした。

「これでいいのかな?」

大賢者さんに尋ねた。

「はい。手をそのままに……」


 「戻ったよ、カケル」

ガチャリと扉が開いた。父が戻ってきたようだ。

「あ、父さん」

水晶に手をかざしたまま、父を見た。すると、父が驚いた顔をして急ぎ足でこちらにきた。


 「勝手にするなと、言ったはずだが?」

「あっ!?」

父が俺の手首を掴んで、水晶から離してしまった。

「大賢者。探るようなことは、やめろ」

父は、大賢者さんを咎めた。


 俺は部屋の気温が下がったような気がした。父に睨まれた大賢者さんはオロオロと焦っていた。

「俺が知りたかったの! まだ途中だったのに!」

ガッチリと父に手首を掴まれていた手を、払った。

「カケル」


 「……いえ、この水晶はすぐに魔力を測れます。何も反応が無かったようなので、カケル様はほぼ……」

大賢者さんが申し訳ない態度で話しかけてきた。

「ほぼ、何?」

嫌な予感がした。

「大賢者、言わなくていい……「俺は聞きたい!」」


 俺は父をキッと睨んだ。

「大賢者さん、言って下さい」

知りたかった。俺に何かあるのか。

「……めずらしいタイプじゃ」

めずらしい?

「どういうこと、ですか?」

俺が大賢者さんに聞いてみると、少し戸惑いながら教えてくれた。

「魔力が、聖・魔力が “ゼロ” じゃ……」


「え?」

“ゼロ”?

「ゼロ……? いや、俺は異世界人だし。王都にゼロの人も居ても、おかしく無いですよね? ハハ……」

「……」

大賢者さんが無言になった。


 「大賢者さん?」

俺は心配になって、大賢者さんに話しかけた。

「ハッ! あ、ああ。すまん、カケル様」

何か考えていたのか、大賢者さんがびっくりして返事をした。


「聖・魔力が “ゼロ” だと何か問題があるのか?」

父が大賢者さんに話しかけてきた。

「ま、魔力 “ゼロ”だと、生活するのに不便じゃ。それに……」

父に怯えながら大賢者さんが答えた。父はゆっくりと近寄って大賢者さんを見下ろした。

「“魔力石” があるだろう」

父は大賢者に言った。


 「ありますな。だが、一般人には高価なもので実用的ではありません」

「カケルの為だけに、愛里に “魔力石” を作らせれば問題ない。石は私が持っている」

父は大賢者さんにそう言って、首からヒモに通してある石を指で摘まんで見せた。

「おお……!」

大賢者さんから声が思わず漏れ出した。

「綺麗な石だ」


 青黒く、鈍く光っている。中で渦を巻いているように見えた。

「人によって、使える魔法や魔力量が違うために “魔力石” が作られた。これさえあれば、王都で生活出来る」

父は俺に説明してくれた。

「だから、心配するな? カケル」

ニコッと父は笑って、背中をポンと叩いた。

「分かった」

俺は父に笑い返した。


「聖・魔力が “ゼロ” の人間はめずらしいのじゃ……」と大賢者が、小さな声で呟いたのはカケルには聞こえなかった。



「あっ! そういえば、愛里は大丈夫?」

俺は父に、愛里の様子を聞いた。

「カナがついているから大丈夫。急な環境の変化で疲れたのだろうから、休ませれば明日には回復するだろうとの話だ」

良かった。


 「愛里が心配なので失礼する。部屋で休ませてくれ」

父が大賢者さんにそう言った。

「……分かりました。お部屋へ案内させます。お待ち下さい」

また、何か呪文を唱えている。メイドさんに連絡しているようだ。


 「失礼いたします。お部屋へ案内いたします」

さっきいた美人のメイドさんが案内してくれる。

「では、また明日にでも。ジン様、カケル様」

大賢者さんが頭を下げた。


俺達は、異世界転移してから一日が過ぎようとしていた。部屋に案内されて父と少し話をしてから、俺は一人部屋で過ごした。


 父と母は直ぐにでも帰る気だったが、何だか直ぐには帰れないような予感がした。

こちらの一年が向こうでは十年だなんて……。ちゃんと帰れるのか?


 それに俺の魔力 “ゼロ”だなんて!

はぁぁぁぁ……。異世界に来たらチートがあると思ってたんだけどな?

「まあ、仕方がない……か?」

 考えていたら中々寝付け無かったが、そのうちに疲れてきてふわふわのベッドでいつの間にか眠りについていた。



 異世界で迎えた朝。

ギャアギャアと、何かのうるさい鳴き声で目が覚めた。見慣れぬ天井に驚く。

「朝? ……あ、そういえば異世界に来たんだった」


 寝起きの頭で、ぼーっと五分位考えて思い出した。西洋風のベッドや家具類、オシャレで豪華だ。そりゃ、お城の客室だからな。旅行でも行って目覚めたなら最高なんだけど、ここは異世界。

 窓の外に目を向けると、ギャアギャアと地球では見かけない派手な七色の羽の鳥がバサバサと飛んでいた。

「……あんまり可愛くない鳥だな」と独り言をベッドの上で言った。


 トントントン、と部屋の扉がノックされた。

「カケル様、お早う御座います。起きていらっしゃいますか?」

「は、はひッ!」

メイドさんだ。俺は慣れない、“様” つけに緊張して噛んだ。かっこ悪い……。


 「失礼いたします」

そう言い部屋にメイドさんは入ってきた。

「カーテンを開けますね? 良く眠れましたか?」

笑顔で話し掛けてくるメイドさん。肩までの長さの明るい茶色の髪で、クルッと丸い茶色い瞳。この人も可愛い。

「ぐっすり眠れました!」

朝からこんな可愛いメイドさんに起こされるなんて、最高だな! と、ニヤニヤしてしまう。


 「ぐっすり眠られて良かったです。朝食はもう出来ておりますよ。皆さんお待ちです」

にっこりと笑う、メイドさん。

「え、皆さんお待ち? ヤバっ!」

一瞬で目が覚めた。ガバリと布団をめくり、ベッドから飛び起きた。

「着がえは? どこ?」

キョロキョロと、自分の服を探す。

「あ、カケル様の服はお洗濯しておりますので、こちらをどうぞ」

手渡されたのはこちら(異世界)の見慣れぬ服だった。

「お手伝いいたしますか?」

さすがにメイドさんとはいえ、同じくらいの年齢の女子に着がえを手伝ってもらうのは遠慮して断った。


 「ではお着替えが終わりましたら、テーブルの上にあるベルを鳴らして下さいませ。私は外にて控えております」

メイドさんは慣れているようで、頭を下げ部屋から出て行った。


 「さてと、急いで着がえないと」

平日の朝は、皆で朝食を食べることを約束している。遅れると母と妹に怒られるから急がないと。バタバタと渡された服を広げてみる。

「へえ……。異世界の服ってかっこいいな」

 どこかの国の騎士の服みたいだ。薄地の黒いタートルネックの上に薄い青い色の学生服みたいな上下。前を留めて、腰の部分には革のベルトに革のブーツ。

「お? ぴったり」

部屋の隅に鏡らしきモノが立て掛けてあったので、着がえて見に行く。


 「なかなか似合っている……かな?」

前、後ろと鏡に自分の姿を映して見てみる。俺の体にぴったりなその服は、腕を上げても屈伸やスクワットをしても窮屈ではなかった。こんなにぴったりなのにキツくは無い。こちらの生地の植物は地球と違うのかな?

「あ! 急がないと!」

ハッと気がつき、昨日使い方を説明してもらった洗面台で顔を洗った。愛里に、魔法石へ聖・魔力を込めてもらった石を身につけているので不便は無くなった。

 テーブルにあるベルを鳴らしてメイドさんを呼んだ。


 「遅い」

「お兄ちゃん、遅いよ? お料理が冷めちゃう!」

案内されて行くと家族全員集合していた。

「ごめん、ごめん!」

 一番遅かったみたいだ。

「まあ昨日異世界に来て、カケルも疲れていたはずだからそう責めるな」

父がフォローしてくれた。

「まあ、そうだな」

母はそう言い、父を見た。


 「あ。愛里は体調、大丈夫なのか?」

見たところ大丈夫そうだが昨日気を失ったし、声をかける。すると愛里はにっこり笑った。

 「うん」

 愛里は俺と同じ様な、薄い青い色の異世界の服を着ていた。ただ俺と違ってスカートで、袖が着物のように長く金色の縁取られていた。全身白いレースがたくさんついてあった。

 何となく、聖女の衣裳……なのかなと、考えてしまう。

母も青い色の衣裳で、動きやすいズボンで俺と似たような感じ。父はなぜかローブを身に着けていた。


 「心配かけてごめんね? お兄ちゃん。もう大丈夫!」

その時、愛里のお腹がクゥ~と鳴った。

「きゃっ、お腹が鳴っちゃった!」

真っ赤になって恥ずかしそうに顔を下に落とす。

「さあ、食べようか。お腹が空いたね」

母の一言で皆は、朝ごはんを食べ始めた。


 異世界料理は……。良かった。俺達と変わらなさそうなメニューだ。パンにスープ、サラダに肉……。ただ材料は同じじゃ無さそうだけど。


 「美味しかった」

愛里はデザートのプリンらしきものを食べ終わり、そう言った。確かに美味しかった。さすが、お城の料理人さんが作っているだけある。父も母も食べ終わったようだ。食後の飲み物をそれぞれ頼み、皆でくつろぐ。


「とりあえず少し休んだら、魔物が目撃された地域へ行こうか」

母はコーヒーを飲みながら皆に話しかけた。

「そうだな」

父は窓の外を見て、返事をした。

「私達も行くの?」

妹は紅茶の入ったカップを、ソーサーに置いて聞いた。

「危なくはないと思う。ドラゴンで空から見てみよう」と母が愛里に言う。

「分かった」

愛里は頷いた。


 俺はまたドラゴンに乗れると思い、ワクワクした。

後でちょっと後悔するのだけれど。




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