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第3話  お城へ 魔力検査


 黒いドラゴンは大きな翼を広げ、あっという間に空へ高く飛んだ。

「城へ」

大賢者さんが言うと、ドラゴンは方向転換して進み始めた。


「お兄ちゃん、見て!」

愛里に呼ばれて顔を上げると、緑の広い大地と海らしき青い水面が遠くに見えた。

「えっ!? 海? ……と大地、森が多い、かな? それと……」


 空は……、紫色で赤色・黄色・桃色の3つの月が浮かんでいた。

「月が3つ?」

 愛里は不思議そうに、3つの月を見つめている。俺は自分の世界には無い、3つの月を見て『異世界に来た』と実感してきた。


「3つの月」

小さく呟いたのが聞こえた。振り向くと母が悲しく笑った。


『ワタシガ キタトキト オナジ』


「え……?」

母は手のひらをキツく握って3つの月を睨んでいた。俺はそんな見たことも無い母を、呆然と見ているしかできなかった。


「カナ」

父が母に寄り添い、肩を引き寄せた。

「ジン……」

父の胸に顔をうずめた。3つの月をバックに……二人はまるで絵画の様に、この美しい世界に似合っていた。俺は違和感を感じて身震いをした。


「もう、お父さんお母さんってば! ラブラブなのは分かったから、この異世界の事を教えてよ――!」

妹の愛里が、父と母の間に割りこんできた。

「愛里」

 父が、愛里の頭を撫でた。

「うふふ」

愛里はニコニコと機嫌良さそうに笑った。俺は愛里から母を見た。

「カケル」

俺は、そおっと手を伸ばした母に頭を撫でられた。優しく微笑む母。さっきの雰囲気とはまるで違う、いつもの母にホッとした。



 「そろそろお城に、着きますよ」

大賢者さんが振り返って声をかけてきた。

「グオオオオオーン!」

黒いドラゴンが、首を動かして下に向けて吠えた。


 「「わぁ!?」」

愛里と俺はびっくりして、体を動かした。

「城に合図しているんだよ」

母が愛里に教えた。

「そうなの?」

ピー、ピー、ピー!

「ほら、お城から合図が返ってきた」

「ホントだ!」


「微笑ましいですなぁ……。着地時に揺れますので、気をつけて下さい――」

そう言って直ぐに、またジェットコースターの落ちるような感覚がきた。

「「ぎゃあぁぁぁぁぁー!」」

全然、少しじゃない――! 俺と愛里は叫んだ。



 俺達は黒いドラゴンに乗って、ようやくお城に着いた。

まるで外見は、ディズ○ーランドのシンデレラ城みたいなお城だった。

 裏側……というのか? 

分からないけど大きなドラゴンが、着陸出来るような場所があってそこに降りた。

 ドラゴンから降りて見ると、手に骨みたいな角で出来た笛を持った男性が立っていた。先ほど合図を返した人らしい。

 大賢者さんはその人の方へ歩いて行き、話し始めた。俺と愛里は着陸のキツさで、気分を悪くしていた。


 「も、やだ……」

愛里がぐったりして、母によりかかって言った。

「そのうちに慣れる」

母がまるで『慣れた』ように言った。


 しばらくすると城の木で出来た門が開いて、鎧を着た騎士人達が現れた。背の高い男性が先頭に立ち、こちらへやってきた。近づいてきて、その男性が金髪碧眼の美形だと気が付いた。

 背が高い上に美形か? 王子サマみたいな雰囲気を醸し出している。何か美形オーラのキラキラが眩しいのは気のせいか?


 「王子様みたい……」

はっ!? と横を見ると、妹の愛里が目をキラキラさせていた。文句ないイケメンだが……。何か面白くない。


「これは、カナ様! お久しぶりです。変わらずにお美しい……」

イケメン王子サマ(仮)は、にっこりと笑って母に近づき、母の手を取ろうとしたのか腕を動かした。

 その時、スッと母の前に父が立った。イケメン王子サマと母の間に割りこんできた。

「気安く触らないでもらいたい」

父とイケメン王子サマ、互いに同じ位の身長で睨み合っている。……こう見ると父は、イケメン王子サマと並んでも負けてないと思った。父もイケメンだったんだ。


「アデル王子、紹介しよう。こちらはジン。私の夫だ」

たまに母は空気を読まない時がある。それが今かも知れない。


 アデル王子と呼ばれたイケメン。やっぱり王子サマだった。しかし、母への親しい態度が気になる。母が大好きな、父が警戒するのも分かる。あー。イケメンのアデル王子が、ポカンと口を開けて呆けているよ。

「お、夫?」

信じられない、といった顔で母に聞いた。


 「ああ。そして、こっちの男の子が長男のカケルと長女の愛里。私達の子供達だ」

ニコッと笑って母は、俺達を紹介してくれた。

「……」

あ、アデル王子の顔色が悪くなってきた。大丈夫か? この王子。


 「アデル殿下! こんな所で立ち話もなんじゃから、城の中へ入ろうではないか! さあさあ……!」

場を読んで大賢者さんが声をかけてきた。

「……そうだな、案内しよう。着いてきてもらおうか」

1つコホンと咳払いし、アデル王子はクルリと体を城側に向いて歩き出した。


「行きましょう」

父が頷いて、母・父・愛里と俺が最後で王子に着いていった。大賢者さん、良いタイミングで声をかけてくれた。騎士達に囲まれながらの移動となった。



 お城の中は豪華絢爛。写真で見た、外国の宮殿のように高そうな花瓶やら置物、絵画などがたくさん飾ってあった。価値がわからない俺でも、高額な品物と分かるぐらいキラキラしている。間違って壊さないようにしないとな。


 通されたのは、フカフカの絨毯に豪華な家具が置かれた貴賓室の様な部屋だった。

「先にアデル王子の話を聞こう。カケルと愛里は別室で待っていて」

 母は、父と王子サマと護衛の騎士達が部屋に入ったら扉を閉めてしまった。


 「えー、何で?」

愛里が唇をとがらせて言った。

「何か聞かせたくない話だろ? 後で説明してくれるさ」

俺は愛里の肩をポンと叩いた。

「カケル様、愛里様はこちらへ」

大賢者さんが、俺達を違う部屋に連れて行ってくれた。案内してくれたのは先ほどの厳つい騎士達ではなく、メイド服を着た美人な女性。 

「こちらのお部屋でおくつろぎ下さい。ただ今、お茶をお持ちします」

ペコリと頭を下げて部屋から出て行った。


 「さて……。しばらくカナ様と殿下とのお話があるから、1つ水晶で能力を調べてみないかね?」

大賢者が懐からサッカーボール位の水晶を、ヒョイと取り出した。どこに隠し持っていたんだろう?

テーブルの上に、大賢者さんが左手首にはめていた金色の幅の広いブレスレットを置いて、そこに厚めの布を被せて水晶を置いた。


 「能力をみる?」

愛里がトコトコと、水晶の近くに近づいた。

「とりあえず簡単な、魔力検査をやってみるとよい。しばらくこちらで過ごす事になるんじゃからな」

しばらくこちらで過ごす?

「大賢者さん、どういうことで……」

「魔力? わぁ! やってみたいです!」

俺が大賢者さんに聞こうと思ったら、興味を持った愛里が会話に入り込んできた。


 「ホッホッホッ! 愛里様は興味がおありで。良いですね、ではさっそく魔力検査をやってみましょうか」

「はい!」

大賢者さんはまるで可愛い孫の相手をするように、デレデレとした緩みきった笑顔で愛里と話をしている。


 そこで、ガチャリと扉が開いた。

母と父が戻って来たようだ。先ほどのメイドさんもいた。メイドさんはティーセットとお菓子が乗ったワゴンを押して入ってきた。

「待たせたな。カケル、愛里」

父が俺達に話しかける。母は渋い顔をしていた。何か良くない話だったのかな?


 「きゃあ!」

愛里の声に振り向くと、水晶が眩しい白い光を放っていた。

「これは……」

大賢者さんも驚いていた。

「愛里!」

母が愛里を呼んだ。びっくりして愛里は水晶から手を離したとたん白い光は、すぅ……と消えた。

「ドクトリング……」

母は大賢者さんを睨んでいる。ちょっと恐い。


「カナ様! 愛里様は、聖女クラスの魔力の持ち主ですぞ!」

そう言って大賢者さんが、愛里の両手を取って上下に振り回した。

「え? 聖女クラスの魔力って……??」

俺はラノベに登場する、回復魔力で人々を救う あの “聖女” を思い浮かべた。

「まさしく聖女クラスの魔力の持ち主ですぞ! 練習すればこの国一番の回復魔法の使い手、いや、聖魔法のおさとなれる素質を、愛里様は持っているのじゃ!」

大賢者らしくない興奮した様子で、母に伝えている。

「ドクトリング! 勝手に魔力検査をして!」

母は怒っていたが、大賢者さんは気にしていない様子だった。それほどに興奮して愛里の魔力の高さを褒めちぎっている。


俺と父は、無言で愛里を眺めていた。


 妹は両手を握られたまま、ポーッと母と大賢者さんのやり取りを見ていた。









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