1 休日のお昼ご飯の時に
「カケル――! お昼ご飯よ――!」
母の呼ぶ声で、二階の自室から一階にあるリビングへあくびをしながら降りてきた。
「ふわぁあ……。良く寝た……」
今日は休日。
特に何も用事がない休日だったので、遅くまで夜更かししてダラダラとお昼近くまで寝ていた。俺の両親は、やることをやっていれば文句を言わない人達だったので何も用事がない休日をゆっくり過ごしていた。Tシャツにズボンのラフな格好。家族も似たような部屋着を着ていた。
「いただきます!」
家族全員そろって、お昼ご飯を食べ始める。
俺、
妹の
「
卵焼きに醤油をかけて食べたい。醤油が妹の目の前にあったのでお願いした。
「はい、醤油」
腕を伸ばして愛里は、醤油を俺に渡してくれた。
「サンキュー」
受け取って醤油をかけて食べる。今日の愛里の髪型は、普段しないツインテールをしていた。
「今日、愛里の髪型はツインテールなんだな」
そう言うと愛里は、ニコッと笑った。
「お母さんにツインテールをやってもらったの! 似合う?」
「ああ。似合うよ」
本当に似合っていたので褒めてみた。
「ありがとうお兄ちゃん! お母さん、似合うって!」
嬉しそうに母に言った。
「良かったわねぇ。ね? あなたも、愛里が可愛いと思うでしょう?」と母が父に話しかけた。
「もちろん! 僕の愛里は一番可愛いよ」
肩まで長い漆黒の髪を揺らした父が、ニコニコと笑って言った。我が父だけど、四十歳すぎた男性にしてはいつまでも若くみえる。
「あら? 私が一番じゃないの? あ・な・た」
母が父を睨んで言う。この母もなぜか、年齢よりずっと若い。友達からよく言われるが、母は美人らしい。
「い、いやっ!? 君が一番だよ!」
オロオロと母に、慌てて訂正する。長身な父は、母には弱い。椅子から立ち上がって母の頬にキスをする。
「もう! またイチャイチャしてる! 見えないところでやってよね、もう!」
妹がプリプリ怒る。いつもこうだ。父と母は、いつまでも仲が良い。
両親の仲が良いのは良いことだが、思春期の兄妹がいるのだから控えて欲しい……と思う。――と、その時。
「
母が、父の名を呼んだ。家族全員揃って、お昼ご飯を食べていたリビングが真っ白な光に包まれた。
「え、なに?」
「光った!?」
「……!」
父が、何かを叫んだのが聞こえた。何て言ったのかは分からなかった。
瞬間、体の浮き上がった感覚がして、俺は恐怖のあまり目をつぶった。……意識が遠退くのを感じた。
「……お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
妹の声で気が付いた。気を失っていたらしい。
「……愛里? 何が……、あった?」
気を失う前に、体の浮き上がった感覚がした。地震とは違う、感覚だった。
「まわりをみたら分かる……、よ」
妹の愛里は横たわっていた俺の側に座っていて、自分の胸の前に両手をぎゅっと握っていた。
「葉っぱ?」
横になったまま顔だけを動かして見ると、葉っぱが見えた。おかしい。リビングで昼ご飯を食べていたはずだ。
ここは外?
あたりを見まわしてみたら、空が見えた。鳥よりも大きい、何かが飛んでいた。
「はあ!?」
「きゃあ!」
ガバリと起き上がって辺りを見る。妹が急に、起き上がった俺にびっくりしていた。
見渡すと、だだっ広い草原。風が俺の頬を撫でていく。座っている妹のすぐ側には、父と母が立っていた。
「と、父さん! 母さん! ここどこ!?」
キョロキョロと右・左と、辺りをうかがう。
「え? ……ここ、どこだよ!? 家は!?」
見たことの無い場所に、突然飛ばされた俺は動揺していた。
「
「
遠くを見ていた父と母は、そう言った。
また? は? どういうこと?
「と、父さん。
俺は立ち上がって、父に詰め寄った。父は驚きもせずに、俺の両肩に手を置いた。
「ここは異世界、父が生まれた場所だ」
「はぁ!?」
えっ!? 父は異世界人!? そんな馬鹿な!
「だ、大丈夫? 頭、ぶつけた?」
父の頭にそっと触れてみた。
「カケル。父は頭なんてぶつけてないし、おかしくなんてなっていない。本当のことだ」
母がエプロン姿のまま、腰に手をあてて俺に話しかけてきた。
「……母さん」
母は普段、冗談を言わない。今日はエイプリルフールでもない。
……と、いうことは。
「マジ!? 異世界、来ちゃった――!?」
俺は叫んだ。思いっ切り腹の底から。草原の辺り一帯に響き渡った。
「お兄ちゃん、マジうるさい」
妹の愛里が冷たい目で言った。ううっ……悲しい。
「だって、異世界だぞっ? 愛里!」
「だから?」
あれ? 可愛くない。愛里はスッと立ち上がって、スカートについた土をパンパンと払った。
「お父さんとお母さんが、何か知ってそうだし守ってくれるでしょう?」
腕組みし、顔を上げて母の方へ体を向けた。
「その通りよ、愛里」
母がエプロンを外して愛里に歩み寄った。
「お母さん」
二人は抱き合った。……美しい。親子の愛を俺は見た。
「……あの、母さん、愛里。すみません」
二人の親子愛の邪魔をしたくないが、気になることが。
「「何よ!」」
「ひっ!」
そっくりな女子二人に睨まれて、俺は怯える。
「まあまあ。カナ、愛里。カケルを睨まないで」
父が女子二人から俺をかばってくれた。
「で、なんだい? 何か聞きたいことがあるのかい?」
いつもの、のんびりとした口調で父は俺に聞いた。
「あれ。あれは……、何?」
さっきから気になっていた、空に浮かんだ影を指さした。あれ? だんだん近づいてないか?
「
指さした方向に、父は顔を向けた。ちなみに父は、シャツにズボンの普通の服装だ。
「うわっ!」
うわ? 父から聞き慣れない言葉が聞こえた。
「あれは……」
母が目を向ける。やっぱり、だんだん近づいて来てる。
「……あいつ、だな」
父が母に言った。やつ? 人なのか?
「呼び出したのは、あいつしかいない」
母が、くっく! と笑った。え? そこ、笑うとこ?
だんだん影が近づいて来て、姿が見えるようになってきた。あれ……? 気のせい?
「ドラゴンに乗ってないか!?」
バサバサっと翼の音が聞こえてきて、大きなドラゴンが俺達のいる草原へ降り立った。
「嘘だろ――!? ど、ドラゴン!!」
黒い大きなドラゴンが俺の目の前にいる!
黒い大きなドラゴンは、翼をバタバタと激しく動かして伏せの状態になった。
翼のせいで風が強く吹いた。父の肩まである髪の毛が、サラサラと流れた。
「カナさまぁ――!!」
ローブを被ったいわゆる魔法使い、いや、賢者? 風な男性が、ドラゴンから降りてきた。
「え? 知り合い?」
しかも『カナさま』?? 母は何者だろう。
って、家に帰れるんだろうな!?