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第14話:帰還

公演の成功から数日後、健太郎は工房で左平と最後の酒を酌み交わしていた。


「健太郎、お前が来てから、俺たちの世界は大きく変わった。」


左平はしみじみとした口調で言った。彼の目には感謝と誇りが宿っていた。


「僕も、江戸で多くのことを学びました。絵に魂を込めるという意味を。」


健太郎は酒を飲み干し、深く息をついた。この時代で過ごした日々は、彼にとってかけがえのないものとなっていた。


「お前の動く絵は、人の心を動かす力を持っている。きっと未来でも、多くの人を感動させるだろう。」


左平の言葉に、健太郎の胸が熱くなった。


「はい。必ず、未来にこの技術を伝えます。そして、あなたの絵の魂を、僕の作品に宿らせます。」


二人は盃を交わし、静かに笑い合った。しかし、その時だった。


工房の隅に置かれた灯籠が、再び光を放ち始めた。


「……あれは……!」


健太郎は立ち上がり、灯籠に近づいた。光はますます強くなり、部屋全体を包み込んでいく。


「また、あの光か……。」


左平は目を細め、穏やかに微笑んだ。


「どうやら、お前の帰る時が来たようだな。」


健太郎は驚き、左平を見つめた。


「帰る……?でも、僕はまだ……。」


言葉に詰まる健太郎を、左平は優しく抱きしめた。


「もう十分だ。お前はこの時代で、やるべきことを成し遂げた。未来へ戻って、お前の世界を創り上げろ。」


健太郎の目に涙が浮かんだ。


「左平さん……僕、忘れません。あなたとの日々を。そして、あなたの魂を。」


左平は微笑み、健太郎の背中を軽く叩いた。


「行け、未来の絵師よ。お前の物語は、これからだ。」


光がさらに強くなり、健太郎の体が宙に浮かんだ。感覚が遠のき、左平の姿がぼやけていく。


「ありがとう……左平さん……!」


声にならない声が響き、光に包まれた。


——次に目を開けた時、健太郎は現代の自宅にいた。


「……戻ってきたのか?」


周囲を見回すと、見慣れた作業机と道具が目に入った。しかし、机の上には、一枚の和紙が置かれていた。そこには、左平が描いた写し絵が残されていたのだ。


「夢じゃない……。」


健太郎は和紙を握りしめ、笑みを浮かべた。


「江戸の魂を、未来に届けるんだ。」


彼は決意を新たにし、ペンを握った。左平との約束を胸に、彼は新たなアニメーションの世界を創り上げるために——。


物語は、未来へと続いていく。


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