公演の成功から数日後、健太郎は工房で左平と最後の酒を酌み交わしていた。
「健太郎、お前が来てから、俺たちの世界は大きく変わった。」
左平はしみじみとした口調で言った。彼の目には感謝と誇りが宿っていた。
「僕も、江戸で多くのことを学びました。絵に魂を込めるという意味を。」
健太郎は酒を飲み干し、深く息をついた。この時代で過ごした日々は、彼にとってかけがえのないものとなっていた。
「お前の動く絵は、人の心を動かす力を持っている。きっと未来でも、多くの人を感動させるだろう。」
左平の言葉に、健太郎の胸が熱くなった。
「はい。必ず、未来にこの技術を伝えます。そして、あなたの絵の魂を、僕の作品に宿らせます。」
二人は盃を交わし、静かに笑い合った。しかし、その時だった。
工房の隅に置かれた灯籠が、再び光を放ち始めた。
「……あれは……!」
健太郎は立ち上がり、灯籠に近づいた。光はますます強くなり、部屋全体を包み込んでいく。
「また、あの光か……。」
左平は目を細め、穏やかに微笑んだ。
「どうやら、お前の帰る時が来たようだな。」
健太郎は驚き、左平を見つめた。
「帰る……?でも、僕はまだ……。」
言葉に詰まる健太郎を、左平は優しく抱きしめた。
「もう十分だ。お前はこの時代で、やるべきことを成し遂げた。未来へ戻って、お前の世界を創り上げろ。」
健太郎の目に涙が浮かんだ。
「左平さん……僕、忘れません。あなたとの日々を。そして、あなたの魂を。」
左平は微笑み、健太郎の背中を軽く叩いた。
「行け、未来の絵師よ。お前の物語は、これからだ。」
光がさらに強くなり、健太郎の体が宙に浮かんだ。感覚が遠のき、左平の姿がぼやけていく。
「ありがとう……左平さん……!」
声にならない声が響き、光に包まれた。
——次に目を開けた時、健太郎は現代の自宅にいた。
「……戻ってきたのか?」
周囲を見回すと、見慣れた作業机と道具が目に入った。しかし、机の上には、一枚の和紙が置かれていた。そこには、左平が描いた写し絵が残されていたのだ。
「夢じゃない……。」
健太郎は和紙を握りしめ、笑みを浮かべた。
「江戸の魂を、未来に届けるんだ。」
彼は決意を新たにし、ペンを握った。左平との約束を胸に、彼は新たなアニメーションの世界を創り上げるために——。
物語は、未来へと続いていく。