### 第4章:逆境と決断
#### **第11話:裏切りと破壊**
幕府の介入から数日後、工房の中は張り詰めた空気に包まれていた。役人たちが持ち去った装置は戻ってこず、動く絵の制作は中断を余儀なくされていた。
「動く絵が禁じられるなんて……。」
健太郎は拳を握り締め、悔しさを滲ませていた。左平もまた、無力感に苛まれていたが、決して諦めることはなかった。
「もう一度、最初から作り直すしかないな。」
二人は新たな装置の制作に取り掛かろうとしていた。だが、その決意を打ち砕く出来事が起こった。
夜更け、工房の戸が軋む音がした。
——ギィ……。
微かな音に、健太郎は目を覚ました。薄暗い中、影が動くのを見て、慌てて起き上がる。
「誰だ!」
影は一瞬怯んだが、すぐに駆け出した。健太郎は追いかけようとしたが、足元に何かが散らばっているのを見て言葉を失った。
「……装置が……!」
竹の枠は無残に割れ、和紙は引き裂かれていた。何日もかけて描いた連続絵が、破れたまま床に散らばっている。
「嘘だろ……。こんな……!」
震える手で和紙を拾い集めたが、絵は元には戻らない。健太郎の目に、悔しさと悲しみが溢れた。
その時、左平が灯りを持って駆け込んできた。
「健太郎、どうした!?」
工房の惨状を目にし、左平は愕然とした。
「誰が……?」
健太郎は唇を噛み、震える声で答えた。
「誰かが、動く絵を恐れて……妨害しようとしたんです。」
左平は目を細め、深いため息をついた。
「幕府の者か、それとも……。」
その言葉に、健太郎の胸が強く締め付けられた。もしかすると、この工房の誰かが密告したのかもしれない。技術に対する恐れや嫉妬が、裏切りを生んだのではないか。
「信じていたのに……。」
健太郎は拳を握り締め、唇を噛み締めた。しかし、左平は静かに健太郎の肩に手を置いた。
「怒りに飲まれるな、健太郎。技術が恐れられるのは、それだけ強力だからだ。だが、恐怖に屈してはならない。」
左平の言葉に、健太郎は目を見開いた。
「屈しない……。」
左平は深く頷いた。
「そうだ。動く絵が本当に人々を喜ばせるものであるならば、その価値を証明するしかない。」
健太郎は涙を拭い、立ち上がった。
「はい。もう一度、最初から作ります。今度は、誰にも壊されないように。」
左平は微笑み、竹を新たに削り始めた。
「よし、ならば一緒に作ろう。何度壊されても、何度でも作り直せばいいのだからな。」
二人の決意は、より強く固まった。裏切りと破壊を乗り越えて、動く絵を完成させるために。
——挑戦は、まだ終わっていない。