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第10話:幕府の介入

動く絵の試作品が成功し、町中で話題となっていた。人々は工房の前に集まり、竹の装置で犬が走る姿を興味津々に眺めていた。


「まるで生きているように動いている!」

「こんな絵は見たことがない!」


健太郎は人々の驚きと喜びの声を聞き、胸が高鳴った。自分の技術がこの時代でも人々を感動させていることが嬉しかった。


しかし、その噂は幕府の耳にも届いていた。


ある日、工房の戸が激しく叩かれた。


「奉行所の者だ。開けろ!」


鋭い声に、健太郎と左平は顔を見合わせた。戸を開けると、黒装束の役人たちが険しい表情で立っていた。


「左平、お前の工房で奇妙な絵を作っているとの報告があった。詳しく聞かせてもらおう。」


左平は冷静に答えた。


「これは、動く絵という新しい表現方法です。人々に楽しんでもらうためのもので、決して害をなすものではありません。」


しかし、役人の目は鋭く光った。


「奇妙なものだ。動く絵など聞いたこともない。妖術ではないのか?」


その言葉に、健太郎の胸が強く締め付けられた。この時代では、未知の技術は恐れや疑念の対象となってしまうのだ。


「これは妖術ではありません!ただの絵を連続して見せているだけです!」


必死に説明する健太郎。しかし、役人たちは納得しなかった。


「何枚も絵を描いて動かすなど、不気味な技術だ。人心を惑わす危険がある。この装置は没収する。」


無情にも、役人たちは竹の装置を取り上げ、工房から出て行った。健太郎は悔しさで拳を震わせた。


「くそっ……!」


左平は肩を落とし、深いため息をついた。


「時代が、これを受け入れるには早すぎたのかもしれないな。」


健太郎は唇を噛み、うつむいた。せっかくの成功が、一瞬で奪われてしまった。だが、諦めるわけにはいかない。


「まだ、終わりじゃない。僕たちは、これを完成させるんです!」


左平は驚いたように健太郎を見つめた。彼の目には、決意の炎が宿っていた。


「幕府に認めさせてやる。動く絵が、人々に喜びを与えるものであることを。」


左平はしばらく黙った後、微笑んだ。


「面白い。ならば、徹底的にやってみるか。」


こうして、二人は幕府の圧力に立ち向かうことを決意した。逆境の中で、彼らの挑戦は新たな局面を迎える——。


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