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第8話:試行錯誤

健太郎は、左平の工房で一人、竹の枠に和紙を巻きつけていた。動く絵を作るためには、連続する絵を少しずつ変えて描き、それを素早く切り替える装置が必要だった。しかし、現代のような映写機やデジタル技術はない。すべてを江戸の道具だけで実現しなければならない。


「どうすれば……?」


健太郎は何度も試行錯誤を繰り返した。竹を軸にして和紙を回転させることで、連続した絵が動いて見えるようにする。しかし、紙がずれて動きが途切れてしまう。回転速度も一定にならず、滑らかな動きには程遠かった。


「くそっ……!」


思わず拳を机に叩きつけた。その音に気づいた左平がやってきた。


「健太郎、どうした?」


健太郎は悔しさを滲ませながら、装置を見せた。


「動きを滑らかに見せたいんです。でも、紙がずれてうまくいかない……。」


左平はしばらく装置を見つめた後、頷いた。


「竹をもっと細かく削ってみろ。滑らかな回転にするためには、摩擦を減らす必要がある。」


その言葉にハッとし、健太郎は竹の表面を丁寧に削り始めた。江戸の職人技は、細部にまで魂を込めることだった。健太郎はその技術を学びながら、装置を改良していった。


「こうすれば……!」


竹の枠が滑らかに回転し、和紙がずれることなく動き始めた。絵が連続して見え、鳥が羽ばたくように見えた。


「やった……!動いた!」


健太郎の歓声に、左平は満足そうに微笑んだ。


「なるほど……これが“動く絵”か。」


しかし、まだ動きはぎこちなく、滑らかさには欠けていた。健太郎は悔しさを噛み締め、さらに改良を重ねることを誓った。


「もっと滑らかに……もっと生き生きとした動きにするんだ!」


その日の夜、健太郎は一人で装置と向き合っていた。江戸の道具だけで、動く絵を完成させる。彼の挑戦は続く——。


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