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第7話:職人たちの反発

健太郎は、左平の工房で動く絵の構想を熱く語っていた。竹の枠に和紙を巻きつけ、連続する絵を少しずつ変えて描くことで、動きを表現しようという試みだ。左平は興味深そうに耳を傾け、目を輝かせていた。


「動く絵……確かに面白いな。しかし、それは今までにない表現だ。職人たちがどう思うか……。」


左平が言葉を濁した瞬間、工房の奥から声が上がった。


「そんなもの、絵とは呼べん!」


振り向くと、最年長の職人・喜三郎が腕を組み、険しい表情で睨んでいた。


「絵は一枚で完成するものだ。何枚も描いて動かすなど、無駄な労力ではないか?」


他の職人たちも頷き、ざわめきが広がった。


「確かに……動くなんて奇妙だ。」

「そんなものが認められるわけがない。」


健太郎は反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。彼が信じてきたアニメーションの技術は、ここでは異端だったのだ。


「でも、動きの中に命を吹き込むことで、絵はもっと生き生きとするんです!」


勇気を振り絞って言葉を紡いだ。しかし、喜三郎は冷たい目で見下ろした。


「絵は魂を込めるからこそ生きる。動かすために何枚も描くなど、魂が分散してしまう。そんなものに感動など生まれるはずがない。」


その言葉は、健太郎の胸に深く突き刺さった。自分が信じていた技術が、根底から否定された気がした。


「でも……僕は、この技術で感動を届けてきたんです。動く絵には、無限の可能性がある!」


声を荒げてしまったことに気づき、健太郎は口を噤んだ。工房に静寂が広がる。職人たちは冷たい視線を向け、誰も彼を理解しようとはしなかった。


左平がため息をつき、健太郎の肩に手を置いた。


「健太郎、少し頭を冷やしてこい。」


健太郎はうなだれ、工房を出た。冷たい夜風が頬を撫でる。


「俺は、間違っているのか……?」


彼は空を見上げた。満天の星が瞬いている。江戸の夜空は、美しく、無限に広がっていた。しかし、彼の心は孤独に沈んでいた。


「俺の技術は、この時代では受け入れられないのか……。」


彼は拳を握り締めた。自分の信念を貫くべきなのか、それともこの時代の価値観に従うべきなのか。迷いが胸を締め付ける。


その時、左平の声が背後から聞こえた。


「お前の信じる道を進めばいい。だが、まずはこの時代の文化を理解することだ。」


健太郎は振り向き、左平の真剣な眼差しを見つめた。


「絵には魂が宿る。その魂をどう動かすか……それを、お前なら見つけられるはずだ。」


左平の言葉に、健太郎はハッとした。動く絵に魂を込める方法。それを見つけるために、彼はここにいるのだ。


「ありがとうございます、左平さん……僕、もう一度挑戦してみます!」


健太郎の中に、再び炎が灯った。反発を乗り越え、動く絵の可能性を証明するために——。


挑戦は、まだ始まったばかりだった。

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