疲れ果てた健太郎は、家路についた。夕闇が街を包み、冷たい風が頬を刺す。彼は無意識にため息をつき、肩を落とした。
「俺は、もう必要とされていないのか……?」
アニメーターとしての自信を失いかけていた。時代はデジタルへと移行し、アナログ作画の技術は過去のものとなりつつある。周りの視線が痛かった。彼のこだわりは、もう誰にも理解されていない。
自宅に戻ると、散らかった作業机が目に入った。描きかけの原画と、赤鉛筆の削りカスが床に落ちている。健太郎はその場に崩れ落ち、頭を抱えた。
「何のために、描いているんだ……?」
その時、机の隅に置かれていた灯籠が淡く光った。
「……あれ?」
健太郎は顔を上げ、灯籠を見つめた。それは骨董市で何となく購入した古びた灯籠だった。紙の部分が少し破れ、木枠も所々傷んでいる。しかし、その中から微かに暖かい光が漏れていた。
不思議に思いながら、彼は灯籠を手に取った。触れると、手のひらにじんわりと温かさが伝わってくる。まるで、生きているかのようだった。
「なんだ、これ……?」
灯籠の中を覗き込むと、光が次第に強くなり、部屋全体を包み込んだ。
「眩しい……!」
健太郎は目を閉じ、光の中に吸い込まれるような感覚に襲われた。体がふわりと浮かび上がり、足元が消えていく。音も、感触も、全てが消え去り、無限の空間に放り出されたような感覚。
——そして、次に目を開けた時、彼は見知らぬ世界に立っていた。
冷たい夜風が肌を撫で、提灯の灯りが揺れている。木造の家々が軒を連ね、石畳の道を行き交う人々の姿。遠くからは、草履の音と笑い声が聞こえてくる。
「……ここは……江戸時代?」
健太郎の冒険が、今始まる——。