白井健太郎は、スタジオの会議室でディレクターの叱責を受けていた。
「また修正だ。線が荒い、動きが硬い。納期は迫ってるんだぞ!」
ディレクターの声は苛立ちを隠せない。健太郎は苦々しい思いを飲み込み、頭を下げた。
「すみません……すぐに直します。」
会議室を出ると、若手アニメーターたちが小声で囁き合っていた。
「白井さん、最近ミス多いよな……。」
「やっぱりアナログは時代遅れなんだよ。」
背中に突き刺さるような視線を感じながら、健太郎は作業机に戻った。彼の机だけが紙と鉛筆で溢れていた。周りは液晶タブレットが並び、効率的に作業が進められている。
「俺の技術は、もう必要とされていないのか……?」
心の中に広がる喪失感。かつては憧れの的だった作画監督という肩書きも、今では重荷に感じられていた。
デジタル化によって品質管理が徹底され、修正のスピードも格段に上がった。しかし、健太郎は一本一本の線に命を吹き込むことにこだわっていた。だが、それが今では「非効率」と言われる時代になっていた。
その時、ディレクターが若手のタブレットを覗き込み、満足そうに頷いた。
「いいね、この動きはスムーズだ。さすがデジタルだな。」
健太郎は拳を握り締めた。彼の描く動きには、感情が宿っていると信じていた。しかし、その価値が理解されなくなっている現実に、彼の誇りは次第に崩れていった。
「俺は、何のために描いているんだ……?」
その問いは、やがて彼を江戸の世界へと導くことになる——。