闇夜に浮かぶ一つの灯籠。
その灯籠は、どこか異質な気配を纏っていた。
細やかな彫刻が施された木枠には、ひび割れた痕があり、長い時を経てきたことを物語っている。蝋燭の炎が揺れるたび、影が歪み、まるで何かが這い出てくるような錯覚に襲われる。
「……何だ、この感じ。」
白井健太郎は、ぞくりと背筋を震わせた。目の前の灯籠が、まるで彼を見つめているようだった。
机の上に置かれたそれは、骨董市で偶然目に留まり、何となく手に入れたものだった。しかし、その不気味な存在感に、今さらながら後悔の念がよぎる。
東京の片隅、狭いアパートの一室。
健太郎は、山積みの原画に視線を戻す。修正用の赤鉛筆を握る手は、疲労に震えていた。
「また、描き直しか……。」
溜息を吐き、彼はデスクライトの光に照らされた紙面を見つめた。乱れた線、歪んだ構図、情熱の欠片もない低品質な原画が積み上がっている。どれも海外の下請けから送られてきたもので、全て描き直さなければならない。
「本当に、俺の技術は必要とされているのか……?」
心の奥底に、不安と虚無感が広がった。アナログ作画は時代遅れになり、デジタル制作が主流となった今、彼の職人技は次第に忘れ去られようとしていた。
目を閉じ、ほんの数秒だけ休もうとしたその瞬間——
ぼんやりと、灯籠が光を放った。
「……っ!」
瞬間、空気が張り詰めた。温度が数度下がったような寒気が健太郎を包む。
炎が揺れ、ひび割れた木枠の隙間から、かすかに低い声が漏れた。
「……待っていたぞ……。」
耳を疑った。部屋には自分以外、誰もいない。それなのに、今、確かに聞こえた。
「誰だ……?」
健太郎が灯籠に近づくと、さらに強い光が放たれ、部屋中が白く染まった。視界が奪われ、立っていられないほどの眩しさに、思わず目を覆う。
「う、うわああっ!」
次の瞬間、足元が消えた。
まるで底なしの闇に引き込まれるように、健太郎の体は宙を舞った。耳鳴りがし、全身が浮遊感に包まれる。
(何だ……これは……?)
遠くで誰かが囁く声が聞こえる。それは複数の声が重なり合った、不気味なハーモニーだった。
「……時を超え、絵に命を……。」
「……忘れられた技術を継ぐ者よ……。」
声は次第に遠ざかり、光が闇に飲まれていく。
——目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。
石畳の道、木造の家々、揺れる提灯の灯り、聞こえてくる威勢の良い売り声——。
それは、まさに江戸時代の風景だった。
時を超え、運命に導かれたアニメーターが出会う、職人たちの魂。
動く絵の挑戦が、今、始まる。
古びた木枠に彫られた細やかな模様が、揺れる炎の光に照らされては影を作り、まるで生きているかのように蠢いていた。その灯籠は、時代を超えた記憶を宿しているかのように、静かに、しかし確かに光を放っていた。
東京の片隅、狭いアパートの一室。
白井健太郎は、机の上に山積みになった原画と睨めっこしていた。修正用の赤鉛筆を握る手は疲れ切り、視線は自然と隅に置かれた灯籠へと向かった。
「何だか、不思議な灯籠だな……。」
骨董市で偶然見つけ、何となく惹かれて購入したそれは、どこか懐かしく、しかし異質な存在感を放っていた。
疲労が限界に達し、健太郎は鉛筆を置いて椅子に深くもたれかかった。目を閉じ、ほんの数秒だけ休もうとしたその瞬間——
ぼんやりと、灯籠が光を放った。
最初は気のせいだと思った。しかし、再びまばゆい光が溢れ出し、部屋全体を包み込んだ。
「……な、何だ?」
健太郎は手を伸ばした。指先が灯籠に触れた瞬間、強烈な眩しさが襲い、意識が遠のいていく。
次に目を覚ました時、彼は見知らぬ場所に立っていた。
石畳の道、木造の家々、揺れる提灯の灯り、聞こえてくる威勢の良い売り声——。
それは、まさに江戸時代の風景だった。
時を超え、運命に導かれたアニメーターが出会う、職人たちの魂。
動く絵の挑戦が、今、始まる。