目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第11話 ぼくは軸受

 今日もまた、いつもと同じように電車がたくさんの部品を運んでいる。


 ぼくはある日、気づいたら「軸受」になっていた。


 軸受は、とても小さな部品だ。


 この世界が、とてつもなく大きなひとつの機械なのだということを、ぼくはもう知っている。


 そしてその機械は、いくつもの単純で小さな部品を組み合わせて構成されている。


 四月になってぼくは、いつも自分が乗る車両の中に見知らぬ顔を見つけた。


 なんと、ニンゲンが乗っているのだ。真新しいスーツを身にまとった彼の表情は希望に満ちていた。





 朝、いつもの電車が止まった。信号待ちをしているらしい。


「ったく。早くしろよ」


 声の主は、彼だった。疲れた顔をしている。希望に満ちていた、あのときの彼の面影はもうどこにもなかった。


 そして、よく見ると、彼はいつの間にか立派な「渦巻ばね」になっていた。


 とても良い部品だ。ぼくはそう思いながら、電車が動き出すのを今か今かと待ち望んでいた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?