今日もまた、いつもと同じように電車がたくさんの部品を運んでいる。
ぼくはある日、気づいたら「軸受」になっていた。
軸受は、とても小さな部品だ。
この世界が、とてつもなく大きなひとつの機械なのだということを、ぼくはもう知っている。
そしてその機械は、いくつもの単純で小さな部品を組み合わせて構成されている。
四月になってぼくは、いつも自分が乗る車両の中に見知らぬ顔を見つけた。
なんと、ニンゲンが乗っているのだ。真新しいスーツを身にまとった彼の表情は希望に満ちていた。
◇
朝、いつもの電車が止まった。信号待ちをしているらしい。
「ったく。早くしろよ」
声の主は、彼だった。疲れた顔をしている。希望に満ちていた、あのときの彼の面影はもうどこにもなかった。
そして、よく見ると、彼はいつの間にか立派な「渦巻ばね」になっていた。
とても良い部品だ。ぼくはそう思いながら、電車が動き出すのを今か今かと待ち望んでいた。