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ep02.魔族の少女

「そ、そんな」


 いきなりのパーティからの追放。

 当然ながら俺はイグナスの言っていることに納得がいかない。


「俺はイグナスと一緒に――」

「足手まといはいらないんだ」


 足手まとい……確かにそうかもしれない。

 呪いの装備のせいにしていたが、肉弾戦だけの戦士はパーティの邪魔なのかもしれない。

 そう特技もなければ、魔法もない、かといって特殊なスキルもないのだ。

 地味な物理攻撃のみ……これから魔王討伐の冒険において戦力不足は否めない。


 後半につれて、肉弾戦しか能がない俺は役に立たないであろう。

 イグナスには新しい仲間、それも特技や魔法を持ったメンバーが必要なのだろう。

 自虐的になったが、あいつが言っていることも事実だ。

 辛い現実ではあるが、世界を守る勇者のために俺は身を引くことにした。


「わかった……達者でな」

「これは少なからずの手切れ金だ。どっかの教会でその武器や防具の呪いを外してもらいな」


 そう述べると、イグナスは俺に向かって布袋を投げ渡した。

 中には申し訳ない程度の金貨しか入っていない。

 正直言って酷い話だが、これ以上イグナスと揉めたくなかった。


「元気でな、案外その呪いの装備も武器屋で売れば金になるだろ」


 イグナスの言葉は何の慰めにもならなかった。

 鼻で笑いながら、俺にそう述べたからだ。

 街までこの装備で行けと、この禍々しい外見で戻れと。

 ――いやよそう。

 俺は拳を握りしめながら感情を抑え、黙って部屋を出る。


 ――ギィ……。


 乾いたドアの開いた音が、何故か俺の心に響いた。

 今、この瞬間パーティメンバーではなくなった。


          ***


 部屋に戻った俺は椅子に腰をかけた、これから眠りにつく。

 ベッドで眠ればいいのだが、呪いの装備は外せない。

 流石に鎧兜を身に付けたままベッドに寝ることは出来なかった。

 最初は苦労したが、人はどんな過酷な環境でも日々そうした暮らしをするうちに慣れてくるものだ。


 傍から見たら笑いにしか見えないだろう。

 だが、そんなことはどうでもよかった。今は冒険の疲れを少しでも癒したい。

 早朝起きて、ミラやジルにも別れを告げなければ……。

 明日のことを考え、目をつむろうとしたときだ。


「あれは……」


 部屋の窓に火の球が見えた。

 火の球の数は二つ――まさか人魂か?

 村にウィル・オ・ウィスプのような不死系の魔物が現れたのであろうか。


 いや……もしそれならば、火球の色は青白いはずだ。

 気になった俺は重い体を動かしながら外に出ることにした。

 外に出ると火の玉の方向へと近付く、そうすると火に照らされ人の顔が見えた。


 女だ。


 年齢は10代後半、幼い顔ながらどこか妖艶な相貌だった。

 髪の色は濃いイエロー、服は黒いローブを着ていた。

 両手には火の玉を練り出していた、あれは火属性の魔法『レッドショット』だ。


「そこで何をしている!」


 俺が声を出すと女は俺に気付いた。

 おそらく民家に火をつけて、村を炎で包む気だったのだろう。


「そこで何をしていると言っている」


 俺はカタストハンマーを片手に構えた。

 女の目的は分からないが、村に火を放とうとしたのは間違いない。


「あらお兄さんじゃない」

「……?」

「忘れちゃったの、残念」


 女の声に聞き覚えがあった、よく見るとこの黒いローブに見覚えがある。

 そう、あの宴で俺の隣に座った女だ。


「お前か……何をしている」


 俺はやや半身の体勢となり攻防の備えをして警戒をする。

 一方、女は薄ら笑いを浮かべながら答えた。


「何をしているって決まっているじゃない。この村に火をつけるのよ」

「何故そのようなことを」

「私の友達を殺したから」


 友達――意味はわからないが復讐か。

 だが、このまま見過ごすわけにはいかない。

 何の罪もない村人を見殺しには出来ないのだ。


「そうはさせない」

「邪魔をするの?」

「ああ」

「じゃあ……あんたには消えてもらうわ!」


 女は俺にレッドショットを放った。

 俺は前進しながら火球を受け、女に向かって突撃する。

 勇者のパーティメンバーだった時、前衛として相手を切り崩し、または盾となって戦ってきた。

 多少のダメージがあろうとも構わない。


「こいつ!」


 攻撃を当たりながら前進する俺の姿に女は焦っている。

 もう一つの火球……レッドショットを放った。


「ぐゥ……」

「アハハッ! そのまま焼き死になさい!!」


 二回攻撃か。

 相手は連続呪文のスキルを持っているようだ。

 なかなかの手練れ、ここまでの戦法を見ると相手は魔導士なのは間違いない。

 ならば、接近戦に持ち込めばこちらに分がある。


「ハァ――ッ!」


 俺は炎を振り払い、女へと突撃をかける。


「な、なんてやつなの。普通の人間ならとっくに……」


 女が次の攻撃を仕掛けるヒマもなく、俺はハンマーの柄を鳩尾に深々と突きを入れた。


「流石に頭を叩き割ることは出来んのでな」

「く、くゥ……」


 女は嗚咽を上げるとそのまま倒れ気を失った。

 何故レッドショットを浴びせられ無事だったのか。

 それは装備する『暗黒の盾』の特殊能力のお陰だ。

 火属性・水属性の呪文ならダメージを軽減させてくれる、ただしそれ以外の属性呪文は2倍のダメージを与えられてしまう。


「お前がレッドショットを放ってくれて助かった」


 俺が一人呟くと、男の声が後方からしてきた。


「どうした、何やら大きな物音がしたが」

「ジルか」


 声の主はジルだった。

 ジルは俺に近付くと、傍に倒れている女の姿に気付いた。


「こいつは」

「何者かは知らんが、村に火を付けようとした」

「ふむ……」


 ジルは気を失っている女の顔をまじまじと見ている。


「ガルア、こいつ魔族だ」

「えっ?」


 女は魔族だった。

 よく見ると口から小さな牙が見え、フードから覗かせる耳も尖っている。

 それは魔族を証明するものだった。

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