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ep01.ガルア、追放される

 それにしても体が重い、呪いの装備により倦怠感が俺を襲っていた。

 体を引きずりながら、やっとの思いで迷宮の森深くまで到着した。

 そこには、青の暴君と戦闘を繰り広げるイグナス達がいた。


 ――グオオオーーッ!


 青の暴君は咆哮を上げていた。

 サファイアのような美しい青い鱗、瑠璃色の瞳と角……。

 凶暴なモンスターとは聞いていたが、俺はその美しさに少し見とれていた。


雷鳴の一閃アラメイ・スラッシュッ!」


 イグナスは剣を構えると魔法剣を発動させた。

 十八番とも呼べる雷属性の剣技、勇者の得意技だ。

 光り輝く剣を横一文字に放つと、青い暴君の固い鱗を切り裂いた。


 ――ギャオオオーーッ!


 皮膚からは鮮血が噴き出る。

 さながら一輪のバラが散ったような感じだろうか。

 そして、青い暴君はそのまま事切れた。

 これにて、迷宮の森でのクエストは終了である。


「これでクエスト終了だな。後は村に戻って報告するだけだ」

「お疲れ様、イグナス」


 傷ついた体のイグナス、相当な死闘だったのだろう。

 ミラが近付き回復魔法リカバルを唱えると体中の傷が癒えていった。


「流石、ミラの回復魔法だな」

「えへへ……」


 イグナスに褒められたミラは顔を赤くしていた、本当にあいつのことが好きなんだな。

 そんな惚気な場面を見せられた俺は少し虚しくなった。

 やっとの思いで合流したのに、何の協力も出来ずにただ見守るしかなかったからだ。


「青の暴君か、それに――」


 青い暴君の死骸を見るジル、振り返ると俺のカタストハンマーを見ていた。

 何だろうか……俺はジルに尋ねた。


「どうした?」

「いや……何でもない」


 そう述べるとジルはイグナス達のところへと戻っていった。


          ***


 青の暴君を討伐した俺達は村に戻り、祝勝会を開いてもらっていた。


「勇者様、ありがとうございました。これで村は救われます」

「あのドラゴンに何人もの村人が殺されましたからな」


 村長を始めとする村人達は俺達にお礼の言葉を述べてくれた。

 豪勢な食事が運ばれ、ジョッキには酒が注がれる。


「ハハッ!いいってことよ」


 イグナスは酒を飲みながらの上機嫌だ。

 片や俺はというと……。


「ところでイグナス様、あちらの暗そうなお方は……」

「あいつか、一応俺の仲間みたいなもんだな」


 俺は呪われた装備のせいで、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

 下手をすると、魔王軍の手先としか思われない身なりをしている。

 戦士ならぬ魔剣士といった装備だ。気まずくなった俺は隅の席に座り、一人酒を飲んでいる。


「体が重いな……」


 呪われた装備の一つであるブラッドアーマー。

 こいつを装備すると、防御力が格段に上がるがその反動として素早さがかなり下がる。

 それもその筈だ、これを着てからずっと体が重たい。だが装備は呪われているので外せない。

 早くどこか教会のある町で呪いを解いてもらいたい。


「お兄さん、一人で寂しそうですね」


 ふと気づくと隣には、黒いローブを着た女がいることに気がついた。

 幼い顔立ちながらも、妖艶な雰囲気だ。

 フードから覗かせる瞳は赤く美しい。この村の住人だろうか。


「あなた、勇者様パーティの戦士ですって?」


 彼女は片手で頬杖をしながら俺に尋ねて来た。


「ま、まあ一応」

「ヘェ……じゃあ青の暴君を倒したのはあなたですか」

「いや俺じゃない、あそこのイグナスさ」

「ふーん……」


 その女性は静かにイグナスを見据えていた。

 その視線はどこか冷たく恐ろしい、不思議に思っているとイグナスが大声で俺を呼んだ。


「ガルア、後でちょっと話があるから来てくれ」

「あ、ああ、わかった」


 何だろうか。

 俺が酒を飲み終えるとあることに気付いた。

 先程まで俺に話しかけていた女性が消えていたのだ。


「あれ――」


 どこか不思議な女性だった。

 まァそんなことはどうでもいい、宴が終わると俺は滞在する宿でイグナスの部屋に向かう。

 一体どういう用件だろうか。


「よく来たな」

「イグナス、この装備なんだが――」


 俺が呪いの装備について言及すると、イグナスは溜息をついた。


「フゥ……とりあえずそこに座れよ」


 イグナスの視線の先には簡素な椅子があった。

 ここは仕方がない、何を話したいのかはわからない。

 俺は促されるまま、部屋にある椅子に座った。

 イグナスはベッドの上で胡坐をかくと俺に尋ねた。


「お前さ、あの時の戦闘でまるで役に立たなかったよな」


 あの時の戦闘とは、青の暴君との戦いの事だろう。

 俺は呪われた装備の影響で合流に遅れ、戦闘で活躍することはなかった。

 心苦しいのは間違いないが、それもこれもイグナスが呪いの装備を俺に押し付けるからだ。


「それはお前がこんな装備を……」

「俺のせいにすんなよ。だいたい前から思ってたんだけどよ、お前さ特技ある? 冒険で役立つスキルとかさ?」


 俺は黙ってしまった。

 確かに俺は戦士であるが特技はない、攻撃方法は肉弾戦のみ。

 だが、これまでパーティの壁となって守ってきた自負がある。

 戦士として、勇者イグナスを体を張ってサポートしてきたのだ。


「俺は俺なりに……」

「これからの冒険でさ『特技なし』『スキルなし』の仲間を連れ回すのはリスクが大きいんだよね」

「何が言いたい」


 俺が静かに睨むと、イグナスはヘラヘラしながら答えた。

 その言葉は俺にとって衝撃の回答だった。


「お前は戦力外、要するにパーティから追放ってこと」


 ――戦力外。

 ――追放。

 俺は自分の耳を疑った。

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