「め、面倒くさい問題に巻き込むなよ……」
超光速通信で、蛮王様に皇帝陛下を匿う話をしたら、非常に面倒がられてしまった。
政争に巻き込まれたくない、概ねの地方諸侯の正直な意見なのだろう。
「……まぁな、でも、邪眼の持ち主は、世界を救う王を助ける戦士らしいぞ!」
「それって何です?」
……暗に、私には頑張れと言ってくる蛮王様。
「ルドミラ教の神話らしいけどな……」
「……私、信者じゃないんですけどね」
とりあえず、ハンニバルで皇帝陛下を蛮王様がいる惑星リーリヤまでお連れすることになった。
皇帝をずっと宇宙船におくのも、どうやら不敬らしい。
一路、長距離跳躍を繰り返し、惑星リーリヤの衛星軌道上にたどり着く。
同時に、蛮王様がシャトルに乗って、ハンニバルに乗る皇帝陛下に挨拶にやってきた。
☆★☆★☆
「この度は臣下として誠に遺憾。大変に申し訳ありませぬ……」
皇帝パウリーネ様に跪く蛮王様。
「正直に申せ! 朕がここにきて迷惑なのであろう?」
「……されば、ありていに申し上げれば、匿っていることが露呈すれば当地が戦乱となり、我が領は火の海となり申す……」
……この言葉に、皇帝陛下も苦渋の表情だ。
「エールパ候よ、朕はこれからどうすればよい?」
「さすれば、ここから危険宙域を跨いだ辺境地域に身を隠されるのがよろしいかと……」
「やはりか……」
凛とはしているが、未だあどけない少女のお姿の皇帝陛下。
切迫した状況に苦悶の表情だ。
……その後。
蛮王様を交え相談した結果。
辺境宙域の盟主格であるレオナルド星系のアメーリア女王を頼ることとなった。
蛮王様の計らいで、ハンニバルの皇帝陛下のお部屋に、準備していた調度品が運び込まれる。
少しは皇帝としての体面が保てる部屋となった。
「ヴェロヴェマ提督! すまぬが陛下をたのむぞ!」
「はっ!」
宇宙港で蛮王様に肩を優しく叩かれ、見送られる。
ハンニバルは惑星リーリヤを進発し、一路レオナルド星系へと向かった……。
☆★☆★☆
「大変に名誉なことですわね」
唐突な副官殿の言葉。
「え? 何が?」
「いえ、非公式とはいえ、皇帝陛下の座乗艦の艦長ですわよ!」
「ああ、そうか……」
……ああ、出来れば公式が良かったなぁ……。
バレた瞬間に沈められるかもだけど。
確信はないが、多分、クレーメンス公爵元帥は皇帝陛下のお命を狙っていると思われる。
流石に帝国の全艦艇と戦う気概は、到底ない。
……少し、現状に怖くなる私であった。
その後、ハンニバルは無事に危険宙域を抜け、レオナルド星系に到達。
ガス状惑星である惑星アメーリアの衛星軌道上に達した。
……蛮王様の時と同じく、アメーリア女王もシャトルに乗って、皇帝陛下に恭しく謁見した。
☆★☆★☆
「コノ度ハ誠ニ……」
赤い絨毯に跪くアメーリア女王様。
女王とはいえ、巨大な帝国の皇帝からすれば、地方諸侯の一人である。
「朕は出迎え嬉しく思うぞ!」
「有難キ幸セ! 我ガ地ガ戦乱ニ巻キ込マレヨウトモ、皇帝陛下ノ御身ヲ守リヌイテミセマス!」
……!?
意外なことだが、アメーリア女王は皇帝陛下に対して、強い忠義を示してみせる。
どこかのブタの王様とはえらい違いだ……。
「……イツマデモ当地ニイラシテ下サイ」
「朕はそのことば嬉しく思うぞ!」
共通語が片言のアメーリア女王の言葉に、皇帝の侍女たちは泣き崩れる。
自分達が辺境の蛮族と思っていた相手こそが、真の忠臣だったのだ……。
……その後、アメーリア女王は自分の宮殿をそのまま皇帝に譲ってしまう。
なかなか粋な計らいである。
……しかし、レオナルド星系政府としても不安は隠せない。
現実的に星系単体では、皇帝の護持は難しかったのだ。
アメーリア女王様から蛮王様への親書を預かり、再びハンニバルは惑星リーリヤを目指した。
……エンジンを換装していて良かった。
こういう時は、『時は金なり』である。
「メンテナンスが大変クマー!!」
後日、整備班には臨時手当を出さねばなるまい……。
☆★☆★☆
「……ふむう」
惑星リーリヤに舞い戻り、蛮王様に親書を手渡した。
親書には、アメーリア女王のレオナルド星系と、蛮王様のエールパ星系との、皇帝陛下を守るための秘密の軍事同盟が打診されていたようである。
「ヴェロヴェマ提督! 君はどう思うかね?」
「え? 私ですか? 到底わかりかねます!」
……考えもせずに答えてしまったが、よく考えてみたらブタ星人の星系と、タコ星人の星系の同盟だ。
絵的にはかなりユーモラスである。
「まぁ、承諾するしかあるまい!」
「今から返事を書く故、しばし待っておれ!」
「はっ!」
……その後、エールパ星系の文官たちが集まって、同盟の諸条件に向けて討議がなされた。
同盟は古より条件も大切だったのだ。
――ハンニバルがさらに往復を重ねた結果。
皇帝陛下を守るための秘密同盟は成立し、盟主はアメーリア女王。副盟主は蛮王様となった。
……そして、秘密同盟の艦隊司令官の名は。
――ヴェロヴェマ中将。
……まごうことなき私の名前であった。
責任重大であった……。