我が第10艦隊は比較的に交戦戦力が低い艦隊である。
戦艦は一隻だけで、空母はいない。
なにしろ初任務が後方支援と警戒だったのだ。
……重武装なわけがない。
リーゼンフェルト大将が率いる主力艦隊がアルデンヌ星系を攻撃する間、私は前線部隊への補給任務と周辺星域の治安向上や警戒任務を与えられた。
……もっとも苦手なのは治安向上任務だった。
廃墟と化したマールボロ星系に中型輸送船で食料を配布し、民生の向上に務める。
私がよく読むWEB小説の世界だったら、孤児院に食料を配ればいいだけなのだが……。
「仕事をくれ!」
「食料だけでは困る! 仕事をよこせ!」
……と言われてしまった。
古代王朝から現代の中央銀行まで、主眼政策目標は雇用率の向上であって、食料配布率の向上ではない。
人は社会的尊厳なしには生きられないのだ……。
「困りましたわね」
「どうするポコ?」
多くの人がすぐにお金になるスキルを持っているわけではない。もし、そのようなスキルがあるならば世界に社会問題など発生しようがなかった……。
「道路工事でもしてもらうか?」
「重機の手配はどうしますか?」
「高濃度セメントもってきてないニャ!」
「とりあえず、スコップだけでやってもらおう!」
ということで、ありあわせのスコップだけで作業してもらうことにする。
募集に応じた人数は、なんと3万人以上。
共和国の無差別攻撃で、道路がアチコチ寸断されていたのだ。
……工事責任者はくじ引きで決まった猫耳のマルガレーテ嬢。
当然にへなちょこ道路になっていたが、給料は必ず日当で帝国軍部が発給した。
3万を超える労働者の賃金が発生すると、そこに飲食などのサービス業が自然発生し、その店に品物を収める人たちも沢山出てきた。
市が形成され、経済がだんだんに復旧していった。
……ただ、食料を配ればいいだけでは、社会経済は復活しないのかもしれない。
☆★☆★☆
「おぬし、巨人族のくせによくわかっとるじゃないか? 感心感心!」
マールボロ星系の視察に来たアーベライン伯爵に褒められる。
「しかし、この工事はいつまでやるのかね?」
「わ、わかりません……」
「ずっと続けられると、帝国の財政が破綻するぞ! あっはっは!」
老伯爵に笑顔で肩を叩かれる。
「貴様のように、後ろ側の苦労が分かる軍人が増えてくれると、帝国の未来も明るいのだがな……」
「皆、派手な戦果が好きで困るわ……」
「いえ、私もできるなら派手な戦果が挙げたいのですが……」
「まぁ、そう言うてくれるな。貴様とはいつかゆっくり酒でも飲もうや!」
「恐縮です!」
……この視察の時、帝国の内政の要であるアーベライン伯爵から好評価を受けたことで、私の後方勤務の評価は、軍部内でストップ高になった。
かの伯爵はあまり人を褒めないらしかったのだ。
その件はおいておいたとしても、マールボロ星系の治安はぐんぐん向上していった……。
☆★☆★☆
アルデンヌ星系の攻防戦は、概ね我が帝国に有利に運んでいた。
――その後方、帝国軍輸送部隊。
「敵機64機、右舷後方より襲来!」
「防空態勢、急げ!」
「敵艦載機、我が輸送船団に対艦ミサイルを投射しました!」
「迎撃ミサイル発射!」
「ハンニバル急速回頭!」
「重力シールド出力最大!」
ハンニバルはその巨体に迎撃し損ねたミサイル群を受け、輸送船団を守る。
まさに身を挺した形だ。
「第五防護区画大破!」
「第二倉庫区画火災発生!」
「忙しいクマ!!」
艦のダメージコントロールを担うクマ整備長には悪いが、800mを超える装甲戦艦がそう簡単には沈まない。
「敵機24機、右舷より襲来!」
「俯角をとってまわり込め!」
「了解!」
ハンニバルは直列式の3基のエルゴエンジンを搭載しているのもあり、重装甲重質量ながら、ある程度は動き回れた。
「主砲! 対空射撃!」
大口径レーザーの光条が、敵の艦載機群を次々に消し飛ばす。
この世界のエネルギー兵器の攻撃力は、主にエンジン出力に依存していた。
「第二戦隊のマルガレーテより報告!」
「敵、空母を発見! 撃沈せり!」
共和国の攻撃をしのぎ切った帝国補給部隊に対し、共和国の補給部隊はかなりの被害を受け後退した。
よって、それの補給物資に比例した戦力が前線で戦った結果。
――当然に帝国軍が勝利した。
……はずだったが、同盟軍であるはずのルドミラ教国艦隊に突然裏切られ、帝国軍は這う這うの体でアルデンヌ星系より逃げ帰る始末となった。
☆★☆★☆
この裏切り行為により、背後からの砲撃を受けた帝国軍旗艦の双胴空母セトは大破。
座乗していたリーゼンフェルト大将も負傷。
病院に緊急入院してしまう事態となった。
こうして帝国軍のN国救出作戦は失敗してしまった……。
ルドミラ教国はついに念願であった聖地アルデンヌ星系を奪取した。
それは、ワームホールによる地球への航路をもルドミラ教国が手にしたということだった……。
『ついに青い海と緑の木々の楽園は我がものとなった!』
ブロンズ枢機卿はルドミラ教国の国民に高らかにそう宣言したのだった。