――アンドロイド。
人が作りし機械生命体。
それは大昔にこの世界の人類に反旗を翻し、人類撲滅を企てた大罪たる過去がある。
よって現在、機械生命体が反乱を起こさぬよう、機械生命体は厳重に管理されていた。
その方法とは、人間の生命反応とリンクさせることであり、それはこの社会においては義務付けられている。
人間の主人無しには、機械生命体は生きられない定めがなされているのだ。
事故などの社会的影響を防ぐために、最近のアンドロイドは3人以上の人間と生命的に紐づけされているらしい。
――ドゥン
アルベルトが件の自立型のドローンをレーザーガンで打ち落とす。
急いで解体してドローンのCPU組織を調べた。
「やっぱり生体リンクされてないクマ!」
「誰かが違法に造ったポコね!」
こんな人気のない空間にドローンが単体で飛んでいる方がおかしいのである。
機械だけで住むことは、この世界では許されてはいない。
少なくともここは、文明生命体が棲む星系から、最低500光年は離れているはずだった。
「こちらにハッチがありますわ!」
副官殿の指さす方角に向かうと、飛行型ドローン用の半球形状の発着用ハッチがあった。
さらに隣に通用口があり、下に続く階段がみえた。
……ひょっとして、人がいるのかな?
「入ってみるぞ!」
「「「了解!」」」
私はドラグニル陸戦隊を従え、階段を降りる。
――ドウゥゥゥ!
突然、向こう側の通路の影から、レーザーガンの光軸が我々を襲う。
「敵だ!」
「マカセロめぇ~♪」
地上白兵戦無双のバフォメットさんに先頭を譲る。
薄暗いが、相手も人型の様だ。
……しかし、探査機に我々以外の生体反応はない。
やはり相手は機械だ。
「抵抗勢力を実力で排除せよ!」
「「「了解!」」」
狭い通路で銃撃戦となった。
相手も装甲服を着ているようで、なかなか倒れてくれない。
激しい銃撃戦を経て、一歩一歩内部へと進む。
情報素材も欲しいので、爆薬兵器は極力使わないで前進した。
「アニキ! こっちに来てくれ!」
先を行ったアルベルトが私を呼ぶ。
呼ばれた部屋に入ると、そこには20名ほどの非武装の人たちがいた。
……いや、違う。生体反応がない。アンドロイドだろう。
「撃たないでください、降伏しますじゃ!」
「抵抗しなければ、撃ちはしない!」
「お前たちのリーダーはどこだ?」
「……ご、ご案内しますじゃ」
一人の老人型をしたアンドロイドが、さらに奥の通路に我々を案内をしてくれた。
途中の通路にも怯えたようなアンドロイドたちが多数いた。
……それはそうだろう。もし違法であれば彼らを破壊せねばならない。
その後、地下20階に相当するほどの長い通路を降りていく。
「こちらでございます」
「ご苦労!」
さらに奥の部屋に案内された。
入口のシャッターが開く。
「!?」
……そこにあったのは、女性の姿をした小さな石造りの彫像であった。
「これは、なんだ?」
「我々の主ですじゃ」
アンドロイドがニヤリと笑い答える。
……生命体でない主って何なのだろう?
私には訳が分からない。
「もしかして、ルドミラ神の像では!?」
副官殿が思い出したように言う。
「そうですじゃ! ルドミラ神は機械である我々の建国を許してくださったのですじゃ!」
「う、うそだ! ルドミラ教は人型種族至上主義のはずだ!」
龍族亜種のアルベルトが叫ぶ。
確かに、ルドミラ教国は異形他種族を差別する人型種族至上主義だった。
「この度、女神さまは、我々機械が棲む別の世界を授けて下さるのですじゃ!」
……初耳の話だった。
幕僚たちも一様に首をかしげる。
「……その証拠を出してもらおう」
私が静かに問うと、アンドロイドは古びた写真を手渡してくれた。
「ここが、私たちの楽園になるところですじゃ!」
手渡された写真に写っていたのは、地球の姿だった。
☆★☆★☆
一旦、身元不明のアンドロイドたちをハンニバルに連行して、空いている部屋に軟禁する。
艦橋にて、幕僚たちと善後策を話し合った。
「……ところで、この写真の星はどこポコ?」
タヌキ砲術長に問われる。
「……えっと、私の大切な星かな?」
適当にごまかす。
「それより、アンドロイドたちをどうしよう?」
彼等の話が本当かどうかはさておき、彼等自体が違法な存在であることは間違いなかった。
まぁ、人間サイドの法律なのだが……。
「破壊するのは可愛そうポコ!」
副長殿やクマ整備長は黙っている。
そういえば、彼らもアンドロイドだった。
「……、ルドミラ教国に送ってやってはどうかな?」
アルベルトが珍しく会議で発言した。
「そうメェ~! 本当だったら歓迎されるはずメェ!」
バフォメットさんも賛成のようだ。
「よし! アンドロイドたちは後から来る輸送艦で、極秘にルドミラ教国へ輸送しよう!」
「この件はこれで終わりだ! あとは資源採掘に励むぞ!」
「「「了解!」」」
会議を半ば強引に終える。
このアンドロイドの存在は帝国軍の軍上層部には報告せず、星間ギルドにお金を渡してルドミラ教国までの渡航を依頼することにした。
……写真の案件が少し気にかかったが、その後の豊富な資源発見の喜びに包まれて、すっかり忘れてしまっていた。
少なくともこの日、我々が莫大な良質資源を得たのは間違いなかった。