今までの我々は異星人と会したことは無いとされる。
しかし、それは我々が異星人の様子を見たことがないのであって、異星人が我々の様子を見ていないという証拠はない。
異星人はその卓越した科学技術により、既に我々を監視しているかもしれないのである。
……まさしく、水槽に飼っている熱帯魚を見るように……、静かに見守っているのかもしれない。
「ケケケ……青い海と緑の木々の楽園の民よ! 近いうちに迎えに行くからな!」
暗い部屋の中。
奇怪な老婆は水晶を覗き込み、ケタケタと笑っていた。
☆★☆★☆
カリバーン帝国とグングニル共和国は、お互いの通商ラインを潜航艇で激しく攻撃し合ったせいで、攻勢に出る国力を削られていた。
さらに言えば、両国の損失船舶数は莫大で、しばらく戦闘をしていなかったルドミラ教国の造船産業などが漁夫の利を得ていた。
宇宙船の造船能力も足りなかったが、ここしばらくの造船ブームにより、その原材料たる鋼材が不足していた。
この世界の宇宙船に使われる鋼材は、一般的に超硬質鋼板が使われていたが、それはワープなどの高速航行によって安易に破損した。
真空の宇宙空間での瑕疵は、地上でのそれより遥かに深刻だった。
それを補うように、今から100年前にバクテリア浸透型の自己修復金属鉱石を発見。
この金属鉱石を精製したものがミスリル鋼と名付られ、一気に宇宙造船用の主力鋼材として浸透した。
これにより宇宙空間での宇宙船の耐久性が飛躍的に向上していく。
しかし、このミスリル鋼は鉄より遥かに埋蔵量が少なく、希少な存在であった。
この世界の国々は競うように、次々にミスリル鉱脈の採掘に乗り出す。
しかし、あっという間に鉱脈を堀りつくし、現在に鉱脈が残っているのは治安が整わない辺境の地であったり、航行が厳しい危険宙域であったりした。
今回の潜航艇の通商破壊戦により、より一層造船用のミスリル鋼の需要は高まった。
ハンニバル開発公社も、更なる造船の受注の為に、新たなミスリル鉱区を必要としていた。
☆★☆★☆
「……であるからして、軍としては君には鋼材調達のほうに全力を投じて欲しい……」
「はっ!」
カリバーン帝国軍総司令部からの通信は、なんと『軍務より一時的に資源調達を優先にしろ!』との指令だった。
今はグングニル共和国が攻めてくる気配がないらしい。
今回の作戦の戦果とは、帝国本国への資源上納の量らしい。
……本当に国防とか大丈夫なのだろうか?
少し心配になる。
まぁ、辺境に拠点を置く私には、星系の防備よりは新規の資源調査をしてほしいとのことだった。
☆★☆★☆
「ミスリル鋼材の値上がりが凄いポコ!」
「……も、もう市場では買えませんわね……」
「……ふむ」
今日日の市況では、鋼材の値上がりが凄かった。
とても買える値段ではない。
ミスリル鋼材も高いが、普通の超硬質鋼材も、燃料たるアダマンタイトも凄く高い値段だった。
「鉱山はフル稼働してますね」
「これ以上の産出は無理かと存じます」
「……ふむ」
ヨハンさんが、衛星アトラスのミスリル鉱山の稼働状況をモニターで確認してくれている。
……やはり、新規の鉱山を確保せねばならないようだった。
まぁ、軍の命令も資源確保なわけだし……。
……資源調査しますか。
「よし、みんなで資源調査だ!」
「賛成ポコ!」
「探検クマー♪」
「楽しそうですわね♪」
皆が珍しく乗り気だ。
意外と楽しい調査になるかもしれない。
……さてと、どこを調査するかだが……。
「ヨハンさん、調査予定宙域はどのあたりですか?」
「えーっと、ですね、埋蔵量が期待できそうなのは、ここらあたりですかね?」
ヨハンさんが宇宙航路図の一角を指さす。
指差された宙域は、
……なんと、星域図がない本当の未開地帯だった。
やっぱり、危険宙域にいくしかないんだよね。
☆★☆★☆
「オーライ、オーライ!」
「ストップ!」
ハンニバルに最新鋭の調査機器を積載する。
他にも食料や水も大量に積み込んだ。
不測の事態に備えて、バフォメットさんやアルベルト王子、ドラグニル陸戦隊も300人ほど連れていくことにした。
行く先で原住民に襲われるかもしれなかったのだ。
……ただの私のビビリかもしれないが。
「提督、準備完了ですわ!」
「準備OKぽこ!」
「よし、じゃあ行くか!」
「装甲戦艦ハンニバル発進!」
ハンニバルはラム星系から、カリバーン帝国とは逆方向に進路を向けた。
そこはまだ星域図がない真っ暗闇な未知の世界だった。
☆★☆★☆
ラム星系外縁から、長距離跳躍を交えて航行すること3日。
意外と危険には遭遇せず航海が続く。
……同時に、お目当ての鉱石にも出会わないが。
「提督レーダーに不思議なものが映っています!」
通信士官がモニターを見て叫ぶ。
「大型モニターへ拡大投影!」
ハンニバル艦橋の上方60度に設置された大型モニターに、半透明の蒼い繊維のようなものが投影される。
それはよく見ると、巨大な核や気孔、鞭毛などだった。
「提督、窓の外にも!」
「気持ち悪いポコ!」
「!?」
知らず知らずのうちに、どうやらハンニバルは信じられないほど大きな生物の体内に入ってしまったようだった。