大要塞リヴァイアサンを護る防衛艦隊は、共和国軍コーディ中将率いる艦隊。
周辺星域からの援軍をかき集め、48隻もの星間航行戦闘艦と、その他小艦艇を合わせ98隻もの艦艇で防衛陣を備えた。
98隻だと不利に思うが、彼らには大要塞リヴァイアサンがあるのだ。
補給や修理整備拠点があることを考えれば、決して不利ではない。
そもそも古来より、攻め寄せる側は防御側の3倍の兵力を必要とされていた。
☆★☆★☆
帝国軍宇宙連合艦隊司令長官パウルス上級大将は、前面にミサイル艦や装甲艦などを多数展開。
乾坤一擲、麾下の新鋭高速部隊を右翼に集結する作戦をとった。
これに対する共和国軍コーディ中将は、正面戦線に戦艦などの主力を展開し、周辺を各星系から集めた艦船を布陣させた。
「攻撃開始!!」
「迎撃せよ!」
両軍は激しい砲火を交錯させる。
爆炎がとどろき、金属がきしむ音が鳴り響く。
「撃てポコ!!」
「攻撃は控えめにね!」
「わかっているポコ!」
ハンニバルは参加予定ではなかったが、パウルス司令長官に『一隻でも多く参加して欲しい』と言われ、正面戦線であるミサイル艦群に混ざって参加した。
お仕事は主に守備。
味方のミサイル艦の盾になる任務だ。
むろん、シールドを貼るだけではない。
敵のミサイルを叩き落とし、味方艦隊を支援する。
敵が突出して来たら、突出した敵艦だけに砲火を集中した。
正面戦線は流石に敵戦艦に対し、ミサイル艦では分が悪く、徐々に後退を余儀なくされる。
「撃ち返せポコ!」
しかし、敵が前に出ようとしたところを、ありったけのミサイルと砲火で機先を制して、撃退することに成功していた。
ハンニバル達、輸送部隊が沢山の弾薬を運んできた成果だった。
……とにかく、どちらが優勢なのか分からないような戦いが続く。
「ポコ! B-68ブロックの戦艦のシールドが薄い!」
「了解ポコ!」
一般的に、相手のシールド出力は攻撃してみないと分からない。
攻撃するときは、エネルギー干渉を下げるためにシールド能力を低下させるのだが、これが私の『羅針眼』には薄ぼんやりと見えたのだ。
よって、もっとも攻撃しやすい敵が判別できた。
指示を受けたタヌキ軍曹殿は、ハンニバルの長砲身砲を統合リンクさせ、全て同じ敵の同じ部分に叩き込む。
流石に、戦艦と言えども、攻撃する瞬間を狙われると弱かった。
敵戦艦の複合装甲板が飛び散り、集中防御区画内にもハンニバルの攻撃が飛び込む。
敵艦船外殻部分が小爆発ののち出火。
しかし、共和国の誇る戦艦はそれくらいの攻撃では沈まず、出鼻をくじく程度にしかならない。
ハンニバルにも多数のミサイルが飛来。
撃ち落とせないミサイル、少なくとも3発が増設装甲板に命中。
大きな破孔をもたらし、爆煙と閃光が轟いた。
しかしそののちも、ハンニバルとミサイル艦群は連携して、敵の攻撃をよく堪えていった。
☆★☆★☆
ハンニバルが苦戦する最中。
帝国軍主力は、迂回攻撃を仕掛けていた。
この度は、足の速い巡洋戦艦を主力として右翼に精兵を配置。片翼包囲を目論んだ。
予想通り、敵の防衛陣は周辺星系から集められた雑多な艦隊であったが、山のような機雷が敷設されており、意外なほど頑強に抵抗された。
うかつに突っ込めば、機雷によって破壊される可能性があったのだ。
帝国軍の勇士ヴァイケル艦長の乗る巡洋戦艦シュトルムが触雷。爆発が起こり破損する。
しかし、彼はなおも突進し、味方の為に前進し血路を開く。
巡洋戦艦シュトルムは大破、ヴァイケル中佐は重傷を負うも、敵防衛陣にほころびが出来た。
「突破せよ!」
「続け!!」
これを機に、帝国の高速艦艇は、もともと士気の低かった共和国左翼を突破。
要塞防衛部隊主力の後背に回った。
「逃げるな! 踏みとどまれ!」
コーディ中将が叫ぶが、彼の麾下の艦隊は後背に回られた瞬間に、多くの艦艇が負けを悟って各自に逃走を図る。
コーディ中将の旗艦が、味方の逃走を阻もうとすると、旗艦が味方に撃たれる始末。
旗艦に被弾したのを見るや、勇敢に踏みとどまっていた艦も退き始めた。
退避しようとする艦と、踏みとどまろうとする旗艦ニューモントが接触。
この時ニューモントの戦術リンクシステムが破損してしまう。
大要塞リヴァイアサンは迎撃戦術システムが老朽化しており、そのシステムを旗艦ニューモントが肩代わりしていたのだが、それが崩れたのだ。
その様子を見たパウルス上級大将は、要塞リヴァイアサンに総攻撃を下命。
味方艦隊の援護射撃の中、後続の惑星揚陸艦が進出。
揚陸艦は降下上陸に成功し、要塞内は地上戦に移行した。
パウルス上級大将率いる帝国軍は、逃げる共和国艦隊を追撃し、残敵を掃討する。
しかし、要塞内の地上戦は、さらに3日間も戦闘が続いた。
……4日目に、兵士の助命の条件と引き換えに要塞防御司令官は降伏した。
☆★☆★☆
相次ぐ政変により、帝国軍だけでなく共和国軍も地方有力者の力が強まり、一旦不利になると全軍が潰走するケースが目立っていた。
それは艦艇や部隊そのものの実質所有者が、中央政府の軍司令部ではなく、地方有力者のものになっていたためである。
この戦いも、以前の共和国艦隊ならば、簡単に防衛できたであろう戦いであった。
先に国の崩壊を始めた帝国が、それに先に気づいて作戦を立てたという、なんとも皮肉な戦いであった。
ハンニバルは直接的な戦果として、敵艦2隻を大破させるという武勲を挙げた。
他にも要塞戦に、バフォメットさんをはじめとする陸戦隊500名を無事に上陸させている。
それに伴い、私は宝石に彩られた勲章を頂いた。
……が、昇進は見送られた。
なかなか大佐より上になるには難しい様だ。
多くの方の軍歴が大佐どまりな話も、どこかで聞いたことがある。
「嬉しいニャ~♪」
勲章は以前の約束通り、マルガレーテ嬢にあげた。
戦勝のボーナスを手にした私は、要塞リヴァイアサンのステーキハウスで、高級肘川牛を皆で味わった。
とても美味しく、ほっぺたが落ちそうになった。