ハンニバルと3隻の僚艦の奮闘は続く。
真昼のような爆発の光が漆黒の宇宙を照らし、天文学的なエネルギーの浪費の応酬が続いた。
しかし、戦力差に圧倒され、次第に後退を余儀なくされていた。
「硬X線レーザー至近!」
「電磁障壁出力最大!」
僚艦である核融合動力艦3隻の前で、殿(しんがり)を務めるハンニバル。
エルゴ機関は核融合機関に比べ、防御シールドの出力が段違いに高かったためだ。
敵砲火の光軸を重力シールドで減殺し、じりじりと4隻足並みを合わせて後退する。
しかし、敵艦12隻の集中砲火には如何ともし難く。
「敵砲火4列目、鋭角度で直撃。シールドのエネルギーが大幅に相殺されます!」
「シールド展開能力13%減衰!」
この世界のシールドの防御効率は、エネルギーの二乗に比例する。
これは僅か13%のエネルギー減少が、防御力の劣化に致命的な影響を意味していた。
「仕方ない! 追加でクエーサーEカプセルをエンジンに投下!」
「シリンダー内にカプセル投下開始!」
「…………3」
「……2」
「1……臨界! ガンマ線のマイクロバーストを確認!」
「エネルギーブースト率368%!」
……ハンニバルの主機である大型エルゴ機関が息を吹き返す。
「余剰エネルギーを主砲に回せ!」
「了解ポコ!」
タヌキ軍曹殿の砲術指揮の下、ハンニバルの75口径50.8cm口径連装レーザービーム砲4基が一斉に火を噴く。
第一射撃は惜しくも夾差(きょうさ)する。
そして、僚艦とともに行った第二射目が敵巡洋艦に直撃。
収束したガンマ線が、敵の重力シールドを透過。
積層構造の装甲に、大きな破孔を開け爆発。
敵巡洋艦はセラミック装甲の破片をバラまき、大破炎上した。
……しかし、過剰なブーストは何度も使えない。
彼我の火力差により、ハンニバルはじりじりとシールドのエネルギーを削られていた。
☆★☆★☆
(……二時間経過)
「大型対艦ミサイル来ます!」
「2時の方角にイールド・フレア発射!」
敵はやはり準備万端でこちらを襲っているようだった。
暴風雨のようにミサイルが飛翔してきた。
迎撃しようにも、きりがない。
「エネルギー中和スプレッドのカートリッジが切れましたわ!」
「もう主砲に回すほどのエネルギーが無いポコ!」
防御弾幕を張るエネルギーがようやっとのハンニバル。
僚艦である重巡洋艦アーチャーは中破。装甲戦艦サンダーボルトは小破。中型装甲艦クルセイダーに至っては炎上のために消火中であった。
――万事休す。
「……!?」
「敵が爆発していますわ!?」
「こちらの弾はあたってないポコよ!」
……どうやら、敵が味方を撃ってしまったようだ。
同士討ちの為、敵の艦列が乱れる。
最新鋭のシールドも、まさか味方の方向へは展開しない。
戦力は敵方に集中展開するのが基本だからだ。
……尚も、敵は混乱し、右往左往している。
「事故ポコ!?」
「わかりませんけど、今のうちに逃げましょう!」
「そうだね、僚艦にも伝達。反転離脱!」
「了解ポコ!」
「了解!」
ハンニバルと三隻の僚艦は、一斉に反転。
敵に背後を見せるが、敵に追ってくる気配はない。
自分たちのことで精いっぱいの様だ。
それを確認して、一気に敵との距離を確保する。
その後、航行速度にエネルギーを投じて長距離跳躍を果たした。
――結局、我々は戦場を這う這うの体で離脱。
隣接する他星系に逃げ込み、九死に一生を得た。
☆★☆★☆
結局、中型装甲艦クルセイダーは被害が甚大で長距離跳躍が出来ないため自沈。
乗員は他の三隻に分乗して帰投した。
――我が帝国軍の損害は甚大だった。
帝国軍全体では、この作戦に参加した帝国軍32隻のうち、貴重な8隻が永遠に失われた。
この中にエルゴ機関をもつ船が三隻含まれる。
残った半数も甚大な被害を受け、しばらくは戦線に復帰できないというありさまだった。
後に、この作戦の引き金となった情報は偽物と判明。
件の将校の遺体の背広に入っていたレシートまで本物だったという、共和国軍の作戦力の神髄を垣間見た戦いであった。
……しかし、我々が辛くも撤退できた原因はなんだったのだろう。
不自然な同士討ちが、私の頭から離れなかった。
――しかし2日の後。
全文明宇宙に衝撃的なニュースが伝わることで、その謎は解明されることとなる。
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〇装甲戦艦ハンニバル
全長・798m
全幅・96m
全高128m (アンテナ展開拡張時)
艦型・不明
【主砲】
75口径50.8cm口径連装レーザービーム砲4基
【装備】
レーザーエネルギー収縮システム。
各種ミサイルVLS・108セル×4ユニット。
12.7cm連装対空ビーム砲16基
ガトリング・レーザーキャノン砲4基。
レーザーバルカン砲56基。
【防御】
重力波シールド。
電磁障壁。
結晶ミスリル前部装甲モジュール。
エネルギー中和スプレッド。
フレア 他。
【主機】
改装型エルゴエンジンD-Ⅳ型1基
【補機】
核融合炉エンジン4基。
【備考】
艦船内蔵型・簡易修理ドック。