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第36話……エネルギー限界の撤退戦

 ハンニバルと3隻の僚艦の奮闘は続く。

 真昼のような爆発の光が漆黒の宇宙を照らし、天文学的なエネルギーの浪費の応酬が続いた。


 しかし、戦力差に圧倒され、次第に後退を余儀なくされていた。



「硬X線レーザー至近!」

「電磁障壁出力最大!」


 僚艦である核融合動力艦3隻の前で、殿(しんがり)を務めるハンニバル。

 エルゴ機関は核融合機関に比べ、防御シールドの出力が段違いに高かったためだ。


 敵砲火の光軸を重力シールドで減殺し、じりじりと4隻足並みを合わせて後退する。

 しかし、敵艦12隻の集中砲火には如何ともし難く。



「敵砲火4列目、鋭角度で直撃。シールドのエネルギーが大幅に相殺されます!」

「シールド展開能力13%減衰!」


 この世界のシールドの防御効率は、エネルギーの二乗に比例する。

 これは僅か13%のエネルギー減少が、防御力の劣化に致命的な影響を意味していた。



「仕方ない! 追加でクエーサーEカプセルをエンジンに投下!」


「シリンダー内にカプセル投下開始!」


「…………3」

「……2」

「1……臨界! ガンマ線のマイクロバーストを確認!」


「エネルギーブースト率368%!」


 ……ハンニバルの主機である大型エルゴ機関が息を吹き返す。




「余剰エネルギーを主砲に回せ!」

「了解ポコ!」


 タヌキ軍曹殿の砲術指揮の下、ハンニバルの75口径50.8cm口径連装レーザービーム砲4基が一斉に火を噴く。

 第一射撃は惜しくも夾差(きょうさ)する。


 そして、僚艦とともに行った第二射目が敵巡洋艦に直撃。


 収束したガンマ線が、敵の重力シールドを透過。

 積層構造の装甲に、大きな破孔を開け爆発。

 敵巡洋艦はセラミック装甲の破片をバラまき、大破炎上した。




 ……しかし、過剰なブーストは何度も使えない。

 彼我の火力差により、ハンニバルはじりじりとシールドのエネルギーを削られていた。




☆★☆★☆


(……二時間経過)



「大型対艦ミサイル来ます!」

「2時の方角にイールド・フレア発射!」


 敵はやはり準備万端でこちらを襲っているようだった。

 暴風雨のようにミサイルが飛翔してきた。

 迎撃しようにも、きりがない。



「エネルギー中和スプレッドのカートリッジが切れましたわ!」

「もう主砲に回すほどのエネルギーが無いポコ!」


 防御弾幕を張るエネルギーがようやっとのハンニバル。


 僚艦である重巡洋艦アーチャーは中破。装甲戦艦サンダーボルトは小破。中型装甲艦クルセイダーに至っては炎上のために消火中であった。




――万事休す。




「……!?」


「敵が爆発していますわ!?」

「こちらの弾はあたってないポコよ!」



 ……どうやら、敵が味方を撃ってしまったようだ。

 同士討ちの為、敵の艦列が乱れる。


 最新鋭のシールドも、まさか味方の方向へは展開しない。

 戦力は敵方に集中展開するのが基本だからだ。


 ……尚も、敵は混乱し、右往左往している。



「事故ポコ!?」

「わかりませんけど、今のうちに逃げましょう!」


「そうだね、僚艦にも伝達。反転離脱!」


「了解ポコ!」

「了解!」


 ハンニバルと三隻の僚艦は、一斉に反転。

 敵に背後を見せるが、敵に追ってくる気配はない。

 自分たちのことで精いっぱいの様だ。


 それを確認して、一気に敵との距離を確保する。

 その後、航行速度にエネルギーを投じて長距離跳躍を果たした。




――結局、我々は戦場を這う這うの体で離脱。

 隣接する他星系に逃げ込み、九死に一生を得た。




☆★☆★☆


 結局、中型装甲艦クルセイダーは被害が甚大で長距離跳躍が出来ないため自沈。

 乗員は他の三隻に分乗して帰投した。



――我が帝国軍の損害は甚大だった。


 帝国軍全体では、この作戦に参加した帝国軍32隻のうち、貴重な8隻が永遠に失われた。

 この中にエルゴ機関をもつ船が三隻含まれる。


 残った半数も甚大な被害を受け、しばらくは戦線に復帰できないというありさまだった。



 後に、この作戦の引き金となった情報は偽物と判明。


 件の将校の遺体の背広に入っていたレシートまで本物だったという、共和国軍の作戦力の神髄を垣間見た戦いであった。



 ……しかし、我々が辛くも撤退できた原因はなんだったのだろう。

 不自然な同士討ちが、私の頭から離れなかった。




――しかし2日の後。

 全文明宇宙に衝撃的なニュースが伝わることで、その謎は解明されることとなる。




☆★☆★☆


〇装甲戦艦ハンニバル


全長・798m

全幅・96m

全高128m (アンテナ展開拡張時)

艦型・不明


【主砲】

75口径50.8cm口径連装レーザービーム砲4基


【装備】

レーザーエネルギー収縮システム。

各種ミサイルVLS・108セル×4ユニット。

12.7cm連装対空ビーム砲16基

ガトリング・レーザーキャノン砲4基。

レーザーバルカン砲56基。


【防御】

重力波シールド。

電磁障壁。

結晶ミスリル前部装甲モジュール。

エネルギー中和スプレッド。

フレア 他。


【主機】

改装型エルゴエンジンD-Ⅳ型1基


【補機】

核融合炉エンジン4基。


【備考】


艦船内蔵型・簡易修理ドック。

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