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第151話……リドリー城攻略戦

「よくぞ決心為された」


 私は手厚く降伏の使者を迎え入れた。

 降伏の使者は貴族階級と思しき服装だったので、それに相応する席を急いで設ける。


「城内の様子は如何かな?」


「いや、お恥ずかしいことに伝染病が流行りまして……」


 話を聞くに、城の中に大量の住民を招き入れたところ、病人なども多く交じり伝染病が拡大。

 手が付けられなくなったとのことだ。


「至急、薬を取り寄せさせよう」


「かたじけのうございます」


 防衛兵三千のうち、二千五百はファーガソン地域の者だったので、無事に帰れるよう保証。

 さらには、伝染病を拡散しないように、しばらくワット城自体を治療施設とすることで合意したのであった。

 今回、防衛側が地元の貴族ではなかったために、あまり領地問題は発生せず、戦後処理はあまりむつかしくないことが予想されたのだった。



「剣を掲げよ! 我らの勝利だ!」


「「おう!」」


 調略を使ったとはいえ、重要拠点を手早く占拠したのは紛れもない事実。

 兵士たちの士気は上がり、次の作戦に弾みをつけたのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴569年12月中旬――。

 本格的に冬将軍が到来した。


 今年の降雪はあまり深くなかったが、所によっては交通網が寸断。

 物資の輸送が困難になっていた。


 そのため私は、ワット城にある港湾設備を活用し、王都からの物資を海路から運ぶ手はずを整えたのであった。


 私はしばしの休息を兵士たちに与えた後。

 我が軍は、王国軍本隊が包囲中のリドリー城に向かった。


 リドリー城はソーク地方の中心府であり人口も多く、これを攻略すれば王国につくか公国に付くか迷っている在地貴族たちの気持ちが変わるはずであったのだ。



「宰相閣下に敬礼!」


 我が軍が包囲陣地に到着すると、オルコック将軍以下諸将から恭しく敬礼を受けた。

 私は仮面をとり、火傷だらけの素顔で返礼。

 双方ですばやく再編成を行い、合流を果たしたのであった。


 こうして包囲軍の総大将は私となり、オルコック将軍は副将の地位に就いたのであった。




◇◇◇◇◇


 昼間は陽が出ていくらか寒さがましだが、夜はしばしば吹雪いた。

 リドリー城は市街地をぐるりと城壁で囲むタイプの城で、防御力より通商や交通重視の地形に位置していた。

 その城の周囲を、王国軍は柵などを施して封鎖。

 包囲陣地を敷いていたのであった。



 リドリー城包囲陣地。

 オーウェン連合王国本営。


「宰相殿、ここは力攻めでいいのではないでしょうか」

「左様、城を守る兵は四千。我が方は二万五千でございますれば……」


「……ふむう」


 兵数は十分だが、今が兵士にとって厳しい冬なのが気になる。

 だが、リドリー城は大きい為に、四千の兵では手が回らない大きさだったのだ。


「よかろう。兵士たちを寒空の下に長くとどめるわけにはいかぬ。明日の朝に総攻撃とする」


「「はっ」」


 軍議が終わり、諸将が馬を駆り自らの陣へと散る。

 各隊は明日の総攻撃に向け、梯子などの整備に余念がなかった。




◇◇◇◇◇


 翌日――。


 空には粉雪がちらほらと舞う。

 だが、視界は開けており、気温が低いために足場の地面も堅かった。


「攻撃開始!」


 私は指揮刀を翳し、全軍に攻撃の命令を発した。

 大きな銅鑼が叩き鳴らされ、長い角笛が吹き鳴らされる。


 その音とともに、我が方の戦士たちが城壁に群がる。

 塀の上からは弓矢や魔法が飛んでくるが、寡兵であるがゆえにその攻撃はまばらであった。


「掛かれ!」


 城壁にたどり着くと、前線の下士官たちが個々に指揮。

 場所や戦況に応じた采配を振るった。


 私は物見櫓にのぼって見ていたのだが、やはりケードの下士官たちは練度が高い。

 彼らは野戦だけ強いとの評判だったが、そんなことは過小評価であったのだ。


 弓矢と魔法の援護のもと、各所で歩兵たちが梯子をよじ登る。

 それを妨害しようとすれば、あらかじめ弩を構えた狙撃兵の的となったのだった。


「一番乗り!」


 どこかで声が上がる。

 今回の城壁の上への一番乗りは、金貨25枚の報酬を約束していた。

 それは貧しい村落では、十分に錦を飾れる金額であった。


 我が軍は各所で城壁を占拠。

 さらに城門の周辺の敵を追い散らし、堅固な城門を開け放つ。


「突入!」


 城門が開いたことで、城外に待機していた騎乗の騎士たちが突撃。

 その日の昼過ぎまでに、一気に勝負を決めたのであった。



「勝鬨だ、剣を掲げよ!」


「「おう、おう!」」


 各所で勝鬨が上がり、その後は掃討戦に移行したのであった。



 その日の夕方――。

 私は煌びやかな儀仗兵を率い、リドリー城の城門をくぐった。


 人の噂はすさまじい勢いで拡散する。

 私は、如何に我が軍が強いかを民衆にアピールすることに努めたのであった。


 今回の城攻めは戦後統治も考えて、兵士たちに略奪や放火を禁じた。

 その分、兵士たちには臨時給与を払うこととなり、軍資金や物資が乏しくなったのだった。


 ……もうすぐ新年。

 新年を兵士たちに戦場で越冬させるのも士気にかかわる。


 リドリー城から西進したとしても、そこに待ち構えるのは難攻不落のハーディー城。

 作戦としては、ここらが引き時であった。


 私は防衛用の五千の希望者を募り、その他の兵士や軍属をオルコックの指揮のもと、郷里に帰させたのであった。


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