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第148話……宰相就任

 私が伝えた処分とは、所領の75%を削減ということであった。

 もちろん削減した分は、今回味方になってくれた貴族たちに分け与えるのだ。


「降伏すれば所領を安堵すると申したではないか?」

「リル女王は嘘をおつきになるのか? 書面に署名もあるぞ」


 諸将は一斉に女王への悪態をつく。


「書面に誰の署名があるかよく目で確かめてくだされ。女王陛下の署名はどこにあるかと」


 私は諸将に確認を取らせた。


「……あ!!」


「お気づきになられたかな? 署名をしたのは私です。約束を守らなかったのは私だけなのですぞ!」


「そんな方便聞きたくはない!」

「そうだ、そうだ」


「聞いていただけぬなら、この広間からはお出しできませぬな」


 私はそう言いながら魔法を詠唱。

 骸骨やらゾンビやらの不死属性の魔物たちを召喚した。


「我らを脅すのか!?」

「我らはリル女王の遠い縁戚でもあるのだぞ!」


 そう、先日の戦いで味方になってくれたのは、王宮から政治的に遠い地方貴族ばかりであった。

 翻ってみて、敵となった多くは王家の親類ばかり。


 つまり、今回の大幅減俸は、政治的に発言力が大きい貴族の勢力縮小を狙ったのだ。

 そうすれば、反対に女王の発言力は大きくなり、政治がやりやすくなるのだ。


 オーウェン王家は専制君主であったが、それは最初の頃だけであり、世代が移るにつれ、王の発言力は低下。

 近年はほとんど、有力な王族や縁故貴族の合議制になっていたのであった。


 国を強くするには、統治者の権限を強くせねばならない。

 それが私の考えであったのだった。


「皆さまがご一族であることなぞ、重々承知。よって手に掛けるのは魔物たちでござる」


 女王から処分を任された私の裁量であろうとも、王宮の衛士たちは王家のご親類を手に掛けるのは躊躇われる。

 それゆえの魔物たちの登場であったのだ。

 魔物たちは、貴族たちを舌なめずりして見つめている。


 くさい腐臭に汚い涎。

 死肉を腐らせ虫を這わせた姿が、貴族たちを震え上がらせたのだ。

 このような連中に殺されるなど、誇り高い貴族にあっては絶対に駄目だったのだ。


「……わ、わかった。応じよう」

「うむむ、やむなしか……」


 貴族たちは仕方なく私の提案に応じた。

 それぞれ王家に領地を寄進することを書面にて誓わせたのであった。


 尚、敵方の首謀者格のサワー宮中伯は逃亡中にて、領地は没収。

 クロック前王には、所領を半減させたうえ、幼い子供に家督と爵位を譲らせ、政治的に失脚させたのであった。


 このようにして私は、着々とリル女王の権威を高めていったのだった。




◇◇◇◇◇


 処分を行った翌日。

 今度は論功行賞に移った。


 いち早く味方に付いた貴族家には、とくに厚く領地を与えることになった。

 もちろん最大の貢献をしたのはリルバーン家。

 リルバーン家の当主は、加増のみならず様々な特権を与えられたのであった。


「ライスター卿。そなたをオーウェン連合王国の宰相に任じる」


「ははっ!」


 実質上、総司令官として戦功をあげた私は、リルバーン家の推薦もあって再び宰相に抜擢される。


 こうしてリル女王の政権はスタートしたのであるが、支配している領地は以前の三分の一である。

 それは動員できる兵士も三分の一になったということである。


 軍事的、外交的に多難なスタートであったといえるのであった。




◇◇◇◇◇


 三日後――。

 私は居を、歴代の宰相が使った公邸に移した。


 さらに、業務を手伝ってくれる下級文官も住まうので、彼らの生活を支える料理人やメイド、馬車の御者など幅広い職種の使用人も雇ったのだった。


 その日のうちに、水利権などの訴訟を受け付け、細かく裁定を下していく。

 特に、王家の親類であった有力貴族たちの今までの横暴を断罪していく過程で、地方貴族からのリル女王への信頼は高まっていったのであった。


 ……だが、いいことばかりではなかった。

 今まで西の協力者であったチャド大公国の領地は、現在のオーウェン連合王国の二倍となっていた。


 その力を背景に、オーウェン連合王国領との領地を侵食、小さな小競り合いを起こしていたのであった。

 これはれっきとした盟約違反であり、毅然とした対応が迫られたのであるが、ずるずると戦を継続しては、クロック王家と変わらない惨状になるのは明白であったのだ。



「……では、どうするのだ?」


 文武百官が居並ぶ大広間で、女王陛下に下問され、筆頭武官格のオルコックがこたえる。


「まともに戦っては勝つ見込みはございませぬ」


「……そうか、宰相はどう思う?」


「今こそ、ケード連盟との友好を生かすべきです。彼らの軍をこの地に招きましょう」


 私がそう発言すると、居並ぶ家臣たちがざわつく。

 そして良識の誉れと言われる王家の長老たちが苦言を呈した。


「いや、やつらは確かに戦に強い。だが所詮は獣のようなもの。国内に呼び寄せてはなりませぬ」

「そうじゃ、そうじゃ!」


 文明国を自認する国からすればケードは蛮族。

 なにをされるかわからないという恐怖感があったのであった。


「……ではほかに、お歴々には妙手があるのか?」


 私がそういうと、皆静まり返ってしまったのだった。

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