統一歴569年9月下旬――。
農村ではイシュタール小麦の刈り入れが終わり、あちらこちらで、ささやかな収穫祭が各地で行われている。
反乱連合軍は度々散発的な小さな反撃も受けたが、それらを順調に撃破。
ついに王都シャンプールを望む高台にたどり着いたのだった。
この高台に反乱軍は本営を定め、王都攻略に取り掛かった。
それに対する王宮側は、野戦での敗戦がひびき、城門を固く閉ざしての籠城を選択。
反乱連合軍は王都の外壁を取り囲むように包囲。
水の漏らさぬような包囲網を完成させたのであった。
◇◇◇◇◇
大公家とリルバーン公爵家同盟軍本営。
そこには各戦線の指揮官たちが集まっていた。
先日の野戦での大勝により、王宮側からも多くの地方貴族たちがこちら側に寝返っていたのだった。
ちなみに、先の奇襲を成功させたホール子爵もその後の戦いで捕らえられ、今は獄中の身である。
「もはや一気に攻めるのみです! 作戦などいりませぬ!」
「そうだ、そうだ!」
モルトケ将軍や新たに味方に付いた指揮官たちが口をそろえる。
先日の大きな野戦での勝利により、士気は天を衝くばかりである。
「あいやまたれい、シャンプールの王城は固い。ここは降伏を促した方がよろしいのではないか?」
どこであっても城攻めは被害が馬鹿にならない。
大勢に反し、私は交渉案を提示した。
私は一応連合軍の総指揮官であるが、軍議においては合議をもって決定する方針をとっていたのだ。
「大公様! 今や勢いは我が方が優勢。総指揮官殿は少し慎重すぎまする!」
「左様、ここは今回の城攻めの専用の指揮職を設けては?」
「それはよい! 大公様、ご判断を!」
同盟軍の指揮官は私だが、実質的な現場の最高責任者はリル大公であった。
大公は少し考えた末に。
「よかろう、王都攻撃の指揮職を設ける。ただ、現状に変わるところあれば、すぐにライスター子爵の指揮下にもどれ!」
「はっ! では早速!」
合議の末、王宮攻めの総指揮官はモルトケ将軍に決まった。
彼は、昔からリルバーン家に仕え、旧臣たちから人望もあり、周辺地方貴族たちにも名を知られた存在だったのだ。
「それでは皆の衆、総攻撃の算段をしますぞ!」
「おう! 待っておりましたぞ!」
私の部隊は総予備隊として本営の防御として配置。
城攻めには加わらない方針となったのであった。
◇◇◇◇◇
三日後――。
同盟軍はシャンプールの王城に総攻撃をかけた。
兵士を励ます銅鑼がかき鳴らされ、大きな太鼓が連打される。
突撃を支援する弓矢は、晴天を曇りと思わせるくらいに多数放たれた。
「掛かれ!」
大きな鉄の盾を構えた重歩兵を先頭に、槍を携えた軽装の歩兵が続く。
城壁の上の敵からの反撃は散発的で、同盟軍はすぐに城壁にとりついた。
「いくぞ!」
城壁のあちらこちらに梯子がかけられ、城門には大きな丸太を抱えた衝車が突っ込む。
下士官の命令一下、盾を掲げた軽歩兵たちが梯子をよじ登る。
幾らかの抵抗の末、シャンプールの城の最外郭の部分を、同盟軍はわずか一日で見事制圧したのであった。
「えいえいおー!」
勝鬨を上げたのは夕刻。
夕日に勇ましい勝者の姿が映えたのであった。
◇◇◇◇◇
二日後――。
同盟軍は包囲陣の再構成に取り掛かっていた。
王都シャンプールの城郭は、最外郭が町全体を取り囲むもので、その内側は貴族などの屋敷や重要文化施設を取り囲む第二区画の城壁で、そのさらに内側が王宮を守る王城となっていた。
とくにこの王宮を守る王城の守りはとくに堅いといわれていたのであった。
「続け!」
陣地が整うと、同盟軍は第二区画の城壁へ攻勢をかけた。
この第二区画は城壁も高いうえに、都市を流れる川を利用した水堀も張り巡らせてあった。
「石放て!」
これに対して、同盟軍は投石器などで、城壁そのものを破壊する作戦を展開。
対して王宮側は、王宮勤めの魔法使いなどを動員して反撃してきた。
「死にさらせ! 逆徒どもが!」
とくにこの防衛戦で勇名を馳せたのは、王宮筆頭魔法使いのトゲゾー師。
彼は巨大な火球を大空に召喚し、同盟軍の陣地に向けて火球を叩きつけた。
このため、投石器や攻城設備のいくつかが焼き払われ、同盟軍は一時撤退を余儀なくされてしまった。
「……ぐ、ぐぁ!」
そんな魔法使いたちを狙い打ったのが、強弩を操る狙撃兵たちだった。
彼らは指揮官や魔法使いを狙い打ち、次々に負傷させていったのである。
昼間は互角であったが、攻撃側は兵数に勝る。
人数を生かした交代制で昼夜分かたず攻撃し、三日三晩の激闘の末、ついに第二区画の城壁の占拠にも成功したのであった。
「えいえいおー!」
兵士たちの連戦の疲れは、勝利の酒がもみ消していく。
同盟軍が迫るところ敵なしといった感じであった
◇◇◇◇◇
ついに同盟軍は、宮廷側の最後の砦である第三区画への攻勢をかけた。
「放て!」
投石器が無数の石弾を城壁に叩きつける。
だが、強化魔法でコーティングされた城壁には傷一つつかない。
同じく、魔法使いたちの魔法も、建物に着弾するまえに霧散した。
王城は様々な防御魔法が施されてあったのだ。
「怯むな! 敵を休ませるな!」
「おう!」
数と士気に勝る同盟軍はその後も攻め続けた。
だが、城壁や建物に施された無数の小さな狭間からの矢や魔法により、犠牲者は続出。
翻って見て、敵の損害はわずかという結果となっていたのであった。