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第138話……蘇生。

「ぽこ~♪」

「クマ!?」


 なんだか喧しいな。

 ところで一体、ここはどこだろう?

 私がゆっくり瞼を開けると、そこにいたのは一人のみすぼらしい老人だった。


「目が覚めたか?」


「……えっと、どちら様ですか?」


 私は痛みをこらえ、上半身だけ起こしながらに尋ねる。


「まだ無理せん方がいい。ゆっくり休みなされ」


「はぁ、有難うございます」


 老人の言う通り、気を抜けば体中に激痛が走る。

 自分の体を確かめると、全身が包帯で覆われていた。


「……そうだ。私は戦場で焼き殺されたはず。これは一体?」


「ほっほっほ、思い出しなさったか。二度目の命、大切にしなされよ」


 そういうなり、老人は煙のようにどこかへと消え去ったしまった。



「御館様、お気づきになりましたか? 包帯をお取替えしますね」


 老人と入れ替わりにやってきたのはジェラーヴリクだった。


「……ねぇ、私ってやっぱり一度焼け死んでいるよね?」


「そうですよ。蘇生には手間がかかっているんですよ」


 彼女はぷーっと頬を膨らませ、拗ねてみせた。


「……そうか、彼女の父親はなにしろ上位種ドラゴンなのだ。何が起こっても不思議はないように思えたのだ」


 彼女は慎重に私の包帯を外し、見たことのない謎の薬を塗りこんでいく。

 びっくりしたのは薬ではなく、変わり果てた自分の肌だった。


 焼け焦げた部分もあれば、謎の鱗が生えている部分もあった。

 何やらいろいろな生物の皮膚を、たくさんつなぎ合わせて縫ってあったのだ。


「この鱗は一体?」


 私は特に不思議に思った鱗の生えている部分を指さして言う。


「ええ、竜族の秘薬を塗ったので、いろいろと不都合は許してくださいね」


「……ああ、というか助けてくれてありがとう」


「いえいえ、大したことはしてないですよ」


 ……大したことはしていない?

 彼女たちからすれば、人間の蘇生などもたやすいということか?


「でもね、蘇生の秘術は二度も使えないです。次は気を付けてくださいね」


「ああ、わかった」


 なんだかよくわからないが生き返ったようだ。

 周りを見回すと、ここは大きな洞窟のようであった。

 日が差し込む方向を見ると、ポコリナとクママが楽しそうに走り回って遊んでいた。


 魔法生物である彼らは、魔法の巻物の中に潜んでいたので無事だったのかもしれない。

 それとも、私と同じく蘇生したのであろうか?


 私は動きにくい体を引き摺り、痛みをこらえて洞窟の入り口まで這って進んだ。

 外を見れば雲のはるか上。

 どこぞの高山の頂上付近の断崖絶壁にある洞窟のようであった。


「御気が済みましたか? あと三日は寝て過ごしてくださいね」


「三日!?」


「はい、三日でいくらか傷はふさがると思います」


 ……竜の秘薬は凄いな。

 だが、彼女に分けてくれと言えば、門外不出とのこと。

 まぁやはり、そんなものであろうがね……。


 私は三日間。

 彼女の丁寧んな看病を受け、ゴロゴロと寝て過ごしたのであった。




◇◇◇◇◇


 三日後――。


 私の火傷はかなり癒えたようだ。

 激しい痛みも少ない。


「!?」


 だが、自分で包帯を外して唖然。

 皮膚の上にスケイルメイルのように、金色の鱗がびっしり生えそろっていたのだ。


「……あの、これって?」


 私は朝ご飯を運んできたジェラーヴリクに問うた。


「私もこの薬を人間に試したことはないのです。でもお顔には鱗はないみたいですね?」


 そう言われて、私は慌てて鏡を見た。

 醜く焼けただれた顔。

 だがそれは見慣れた自分の顔であったのだ。


「……ふむ。夏でも長袖を着ておけば問題ないかな?」


「そう思います」


「私は蘇生して貰ったが、それに見合うだけのお礼はできないと思う。……でも何かあれば?」


「御屋形様のところで、毎日お薬湯ももらっていますし、ポコリナやクママにも遊んでもらっています。今までの暮らしができれば特に何もいりませんよ」


 ……確かに、ガンター先生の薬湯は彼女に効いているみたいなのだ。

 たぶん、半分人間の血が入っているからであろう。

 たしかに、彼女は以前より元気のようであるのだ。


 私は昼ご飯を食べた後に話を切り出した。


「そろそろ、自分の家に戻りたいのだが、帰してくれはしまいか?」


「もうですか? もう少し休んでいかれては如何ですか?」


 言葉とは違い、涙を浮かべながらに懇願するジェラーヴリク。

 私にしばらくここにいてほしいのだろうか?


「わかった」


 命の恩人の言葉は断れない。

 私はもう少しこの広い洞窟生活を堪能することにした。


 三食昼寝付きのこの生活。

 体も全快ではなかったので、この機会にしっかり休むことにしたのだ。


 夜は寒いので皆で身を寄せ合って寝る。

 それはまるで一介の貧しい傭兵時代を思い出す懐かしさであった。




◇◇◇◇◇


 凡そ一か月後――。


「そろそろ、帰るか!」


「ぽこ~♪」

「くま~♪」


 流石にポコリナたちも退屈した頃合い。

 私たちは帰ることに決めた。

 誰に運んできてもらったのかは知らぬが、外は切り立った断崖絶壁である。


「出でよ! ミスリル銀の巨魁、ガウよ!」


 私は焼け残った荷物から、召喚の魔法書を取り出しガウを召喚した。

 地面に描いた魔方陣が光輝き、眩い光の中から、ミスリルゴーレムのガウを呼び出すことに成功したのだった。


「……ガウ?」


「すまんが、山の下まで運んで行ってくれ!」


「ガウ!」


 私たちはガウに抱きかかえられながら、慎重に険しい崖を降りていったのであった。

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