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第136話……レッドドラゴン

 敵の護衛は怪しい詠唱を終えると、周囲に眩い光がほとばしり巨大なレッドドラゴンとなった。

 その巨体は凡そ25mはあるだろうか?

 そして、ドラゴンは凶暴な姿で我々を威圧してきたのだ。


「……グハハ、人間ドモメ、皆死ンデシマエ!」


「殿下、ここは逃げましょう!」


 私はすぐに殿下に撤退を進言。

 だが、彼女は退かなかった。


「奇怪な術を使いおって、我が剣の錆にしてくれん!」


 殿下はドラゴンの鋭い爪をかいくぐり、敵の腕に鋭く斬りつけた。

 だが、甲高い金属音がして、殿下の剣戟は敵の堅い鱗にはじかれる。


「殿下、かような怪物を相手にしてはいけません。後方に配備されている投石器や大型バリスタに任せましょう」


「ならぬ! これは勇名を馳せるチャンスなのだ!」


 殿下は何度か斬りかかるも、敵の鱗は強靭で傷一つつかなかったのだ。

 そして、ドラゴンの鋭い爪での反撃を躱し損ねて殿下は転倒、脇腹に重傷を負ってしまう。


「殿下!」


 私は急いで血まみれになった殿下のもとに駆け寄る。

 だが、それを待っていたかのように、敵は口から高熱の炎を吐いてきたのだ。


「させるか!」


 私は殿下と竜の間に割って入り、鉄製の盾を構えた。

 すさまじい熱風とともに、私の体はすぐに高温の炎に包まれる。


 信じられないほどの高温により、次第に盾が溶けていくのを感じる。

 だが、私の鎧は小型竜の鱗でできており、幾らか炎に耐性があった。


「誰か! 早く殿下を!」


「はっ!」


 駆け寄ってきた騎士が二人、殿下を抱えて後送に成功。

 だが巨大なドラゴンの吐く炎を受けて、無事な人間などいようはずがない。


 私の衣服と全身の表皮が酷く焼け爛れていき、激しい痛みが全身を駆け巡る。

 そしてついに、私は地面に膝をつき動けなくなったのだった。


 ……もはや、ここまでか。

 全身を激しい炎に焼かれたまま、私の意識は遠のいていったのであった。




◇◇◇◇◇


 ライスター卿が焼かれていく様を見て、ジェラーヴリクは激高した。


「私の旦那様を返せ!」


「アハハ、小娘ニナニガデキル」


 ドラゴンは消し炭になったライスター卿を踏みにじり、文字通りバラバラにしたのであった。


「ドウダ、灰ナラクレテテルゾ! フハハハ!」


 そう笑うドラゴンを彼女は睨みつけた瞬間、彼女の周囲が轟音をたてて爆発。

 彼女は巨大な黄金竜に姿を変えたのであった。


「下賤の邪竜よ、消し飛ぶがよい!」


 レッドドラゴンより一回り大きい黄金竜は、口から巨大な青白い魔法弾を無数に吐き出す。

 その魔法弾はレッドドラゴンの体を次々に貫通し爆発。

 あっという間にレッドドラゴンの巨体を塵に変えたのであった。


「旦那様、こんな姿になって……」


 黄金竜はライスター卿だったもの灰をかき集め、どこかへと飛びさっていったのだった。




◇◇◇◇◇


 レッドドラゴンの出現は、ケード連盟の諸将を大きく驚かせたが、その消滅によって再び戦意は向上。

 逃げる魔族の軍に対し、次々に追撃戦を開始したのであった。


「逃がすな!」


 この追撃戦でも主役はケードが誇る竜騎士。

 彼らは、湿地などの悪路も難なく踏破し、逃げるゴブリンやリザードマンを次々に打ち取った。


 ジャイアントやトロルなどの大物は、対グリフォン用の強弩で負傷させ、足が止まったところを歩兵が取り囲んで、長槍を次々に突き立てたのであった。


 残念ながら、レッドドラゴンの出現の隙をついて、魔族の最高指揮官は逃亡に成功したようであった。



「勝鬨!」

「「えいえいおー!」」


 追撃は日没とともに終了。

 結果としてケード連盟連合軍は魔族の軍隊に快勝した。

 この追撃戦で、名のある魔族の貴族の幾人かが捕虜になった。


 その後の小さな戦を経て、北部ローランドの地からレビンの勢力は一掃。

 こうしてケード連盟の支配が確立したのであった。


 そしてコーデリア山脈の結界を再構築、再びレビンの魔物たちが大挙して押し寄せないように手を打ったのであった。


「各隊、引き揚げよ!」


 戦後政策を一通りこなした後。

 総軍代理のアルヴィン子爵によって軍は率いられ、ラムの街に凱旋したのであった。


「魔物をよくぞ打ち破った!」

「さすがのケードの戦士たちだ!」


 戦勝で街の人々は大いに喜び、戦いから帰った兵士たちを歓呼でもって迎えた。

 そして、周辺諸国も新たなケードの棟梁の実力を認めざるを得なくなったのだった。


 だが、勝ったものの激戦であったために、ライスター子爵などをはじめ沢山の竜騎士や兵士たちが討ち死に、そしてリル大公爵をはじめ上級貴族たちの多くが負傷したのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴569年4月上旬――。


 各地から派遣された援軍が続々と帰還に向けて進発。

 ラムの地を後にしたのであった。


「……ふう、イオ殿になんといっていいものか」


 自分を助けるために業火に焼かれたライスター卿のことを思い、リル大公爵は大いに後悔していた。

 自分さえ変な功名心に駆られなければ……。


 確かに多くの者が死傷したが、ケード連盟から十分すぎるほどの見舞金をもらった。

 そのお金は、主に遺族や傷病者に払われるものであったのだ。


 だが、それで戦死者が生きて帰ってくるものでもない。

 勝ち戦での兵士たちの高揚も冷め、亡くなった戦友を懐かしむ気持ちが大きくなっていたのであった。


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