「右翼の皆様方にご伝達。一気に敵を撃破して、敵後背にまわりこまれたし!」
「承った!」
本陣からの伝令にいち早く反応したのはリル殿下。
「皆、掛かれ!」
殿下の号令に従い、私もコメットに乗ったまま、愛剣を掲げて敵陣に突っ込んだのだった。
まずは敵陣に、双方空が暗くなるほどの矢が放たれる。
その弓兵の支援に乗じて、我が方の騎士や竜騎士たちが突っ込んだのだった。
「どけい!」
ケード連盟の騎兵隊や竜騎士隊は精強で、自慢の得物でゴブリンたちを次々に葬る。
私も負けずに愛剣を振りかざして、魔物を薙いでいったのであった。
「……ぬ!?」
ゴブリンたちで構成された前衛を突破すると、ジャイアントやトロルなどの巨人族が待ち構えていた。
「重騎士隊! 巨人を蹴散らせ!」
「「おう!」」
巨人族には馬鎧と全身金属鎧を装備した重装備の騎兵が巨大なランスを掲げて突っ込んでいく。
さすがの巨人族もランスでの衝撃は耐えがたかったようである。
巨人族はランス突撃の前に、次々に膝を折っていったのだった。
我々右翼の機動部隊は、いくらかの損害を出しながらも敵陣を切り裂いていったのだった。
「見えた、敵の後ろに回り込め!」
敵左翼を突破した我々は、敵中央部隊の側面に突っ込もうとしていた。
だが、そのころ合いを見計らって、例のグリフォンたちが我々の頭上に現れたのだった。
「!?」
弩隊の援護を受けようにも、我々は徒歩部隊からかなり離れたところまで進撃していたのだ。
きっと、敵はこれを待ち受けていたのであろう。
「ひけい、ひけい!」
右翼の機動部隊を指揮していたモルトケが撤退を合図。
実は、事前の打ち合わせで、敵飛行部隊を味方陣地に引き込む手はずであったのだ。
我が方の右翼の騎馬隊は馬首を返して、味方陣地へと急ぐ。
逃げ遅れたものは、愛馬をグリフォンに襲われ、落馬したところを敵歩兵に囲まれ打ち取られていった。
「強弩隊、放て!」
十分に敵飛行部隊をひきつけ、ずらっと整列した弩隊が一斉に矢を放つ。
この弩兵の弩は、機械巻き上げ式の強力なものだった。
さらに、矢じりにはあらかじめ火の魔法が付与してあったのだ。
「ギャァァア!」
この攻撃はグリフォンたちに効果てきめん。
バタバタと地面に落下したところを、投石器や大型バリスタの攻撃がとどめを刺した。
この攻撃により、敵の飛行部隊はおおよそ壊滅。
右翼の騎兵や竜騎士には、再びの突撃の命令が下ったのだった。
「掛かれ! 生きて返すな!」
「「応!!」」
天敵のグリフォンを撃退したこともあって、騎兵部隊の意気は天を突かんばかり。
その快速と衝撃力を生かして敵陣を再び蹂躙したのであった。
「殿下! 深入りは厳禁ですぞ!」
「わかっておる。だが、敵はすでに逃げに入っているのだ。名のある魔族を倒してみたいのだ!」
確かに我が機動部隊の攻撃は右翼を突破し、敵中央部隊の側面を攻撃中。
敵の中央部隊も崩れ始めていたのだ。
攻撃の好機といっても過言ではない。
「怯むな!」
「掛かれ!」
だが敵の中央部隊は、下級小型竜族のリザードマンがたくさん配備されており、これがなかなか厄介な敵であったのだ。
彼らの鱗はなかなかに強靭で、剣や槍が通らない場合があったのだ。
「全軍突撃!」
ついにケード連盟軍は全軍総攻撃に転じた。
機動部隊の騎兵や竜騎士だけでなく、重歩兵や傭兵、農兵にも突撃命令がでたのだ。
こうなると、魔物たちも浮足立ち、一斉に逃げにかかる。
時には、部隊長である中級魔族が逃げ遅れ、農兵たちに袋叩きにあう光景も見受けられた。
「ライスター卿、早く来い」
「はっ」
リル殿下は逃げる敵兵を薙ぎながら、敵の総指揮官の首を狙う。
魔物といっても中級クラス以上になると、羽織っているものが煌びやかでわかりやすかったのだ。
リル殿下の馬は選び抜かれた駿馬。
重装備の私を乗せて駆けるコメットは青息吐息であった。
そして、私の後ろには馬に乗るヴェラーヴリクが続く。
この戦いについてきたいというから、一時も私から離れないように指示していたのだった。
「ライスター卿、あれを見よ!」
「確かに!」
リル殿下が細剣で指し示す方向に、炎を纏う馬の化け物に乗る魔族が見えた。
その護衛も鎧や旗指物が美しい。
きっと、あれが敵の総大将であろう。
「待てい!」
リル殿下が叫ぶと、敵の護衛の何人かが馬首を翻し、こっちへ突っ込んでくる。
「……でやぁ!」
私と殿下は敵の護衛と切り結び、一刀のもとに倒していく。
……意外に弱いな。
そう思ったが、敵の護衛はどうやら魔法使いらしかったのだ。
距離が離れるとまずい。
私と殿下は敵の総司令官の馬群との距離を一気につめ、敵に魔法を使わせないように白兵戦に持ち込んだのであった。
我々は敵をどんどん切り倒し、敵は総司令官とひときわ大きな護衛のみになる。
「もらった!」
リル殿下は護衛を私にひきつけた後。
一気に敵の総司令官の首を狙った。
惜しいところで躱されるも、馬に剣戟が当たり落馬させることに成功したのだった。
敵の最後の護衛もそれを見て馬を降り、私と殿下の前に立ちふさがった。
後ろからは、味方の騎士たちが駆け寄ってくる。
……勝ったな。
私がそう思った瞬間。
敵の護衛が剣を掲げながらに、何やら不思議な魔法を唱えたのであった。