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第133話……ケード連盟とリルバーン公爵家の宴

 統一歴569年1月下旬――。


 エウロパの港町にケード連盟からの特使が訪れた。

 特使はアルヴィン子爵。

 これに合わせて、王家からも外交官を招いていた。


「これはこれは、ケードの皆さんに大公家の皆さんまで……」


 宴の会場では王家の外交員はびっくりする。

 外交とは、お互いの家の爵位を対等にするのが習わし。


 ケード連盟から子爵が訪れるとは思っていなかったらしく、王国の外交官の最高位は男爵であったのだ。

 これは王国がケードに対して失礼を行ったに等しい。


「まぁまぁ、ケード連盟への失礼の段においては、当リルバーン公爵家がとりなしておきますゆえご安心くださいませ」


「あ、いや……、痛み入る」


 王国の外交官はしどろみどろで、ハンカチで汗をふきふきといった感じであった。

 もちろん、この宴は王国に対し、リルバーン公爵家は大公家やケード連盟と懇意であるということを見せつけるためのモノである。

 これによって、リルバーン家の取り潰しなど思いもよらぬようにするための政略であったのだった。


 宴の料理は四海の珍味を揃え、それは金目に糸目をつけずに豪華に行った。

 私にはあまりわからなかったのだが、元主家も参加することもあり、アリアス老人をはじめ、家中の総意で豪華に執り行うことに決めていたのであった。




◇◇◇◇◇


 三日後の政庁、領主の館。

 ケードの特使を歓待した宴は終わり。

 様々な思いを胸に秘めた外交官たちを見送った後。


「これで取り潰しの牽制になったであろう。世代代わりのケードといえど、チャド公爵さえ倒せぬクロック政権にとっては大切であろうからの」


「左様にございましょう」


 私の言にアーデルハイトは頷き、言葉をつづけた。


「しかし、やはりクロック政権を打倒し、殿下による正当な王権を擁立した方が、民のため、しいてはリルバーン公爵家のために存じまする」


「やはり、殿下を擁立すべきか?」


「はい、レーベの本城においても、殿下を擁立すべきとの意見が主流です」


「だがのう、ケードにおいても安定が今一つといった感じであるよな? クロック政権に立ち向かうのにも、ケードの援兵は必要に感じるのだが?」


「左様にございます。ケードが安定するまで、密かに味方を募りましょう」


「うむ」


 アーデルハイトが部屋から辞し、その後はラガーなどの内政官が私の部屋を訪れる。

 久しぶりの本領なのもあって、重要な決済をはじめ、事務仕事が山のように溜まっていたのであった。




◇◇◇◇◇


 エウロパ城内――。


「ぽこ~♪」

「くま?」


「みんな、まてまて~」


 ポコリナやクママと遊ぶジェラーヴリク。

 ガンター先生が言うには、先生から分けてもらった薬草での治療のほかに、彼女には運動も必要だということだったのだ。


 竜族なれば雪深い洞窟でじっとしていても健康でいられるが、人間の血が入ったジェラーヴリクはそうではないのだ。

 半分人間ということもあって、しっかりと温かいものを食べ、お日様を浴びて運動せねばならなかったのだ。


「ご飯にしますよ~」


 最近の食事は毎回イオが準備してくれる。

 レーベの本城ではリルバーン公爵家家長の代理で自由が利かないが、東にかなり離れた港町エウロパではのびのびできているようである。


「とっちゃ嫌!」


「くま~♪」


 ジェラ-ヴリクのおかずをクママが失敬。

 それにより喧嘩が勃発。


「喧嘩はだめですよ。おかずはまだありますよ」


 すかさずイオが仲裁に入る。

 ジェラーヴリクは人間と付き合うより、ポコリナやクママといった魔族のハーフのような存在と気が合うようであったのだ。


「あうあう!」


 それを横目にオパールと私は静かに食事。

 オパールは元気いっぱいというより、いくばくか病弱で寡黙な娘であった。


「まてまて~」


「ぽこ~♪」


 それはともかく、気鬱気味であったジェラーヴリクも二週間もたてば、少し元気になったようであった。

 だが、たまに喀血することもあり、その健康状態は予断を許さない。


 そもそも、彼女は人間と竜のハーフであることにより、どんな医師を呼んでも体調不良であることの診断を下せないでいたのであった。


◇◇◇◇◇


 統一歴569年2月中旬――。


 オーウェン連合王国の銀貨の質は日々劣化していった。

 王家が銀貨の質を落とすのを見て、領民も銀貨の淵を削り落とすなどして銀を採取。

 その銀をガーランド商国に売りさばくなど、王国の貨幣経済は大混乱をきたしていたのであった。


「サワー宮中伯よ、経済はいまだ混乱しておるのか?」


 クロック王が宰相に就任したサワー宮中伯に尋ねる。


「はい、混乱を修復するには、銀貨の質をもとに戻さねばならないかと存じます」


「馬鹿な! それでは度重なる戦費の捻出ができぬぞ!」

「そうだ、臨時徴税も限界がありまするぞ!」


 宰相の方針に、王宮の財務官吏たちは反対。

 だが、王家の銀貨の質が悪いことは周辺諸国に知れ渡り、多国間貿易などでも受け取り拒否が多発。


 さらには、軍事の主役たる傭兵たちが、王国銀貨での支払いを渋ったことが決定的となり、クロック政権はすべての銀貨を回収し、溶解の上、王家の負担で銀貨の質をもとに戻すことにしたのだった。


 これにより、ライスター家の質の悪い銀貨の鋳造政策は当たり、品質を落とした分だけ利ザヤを稼げたのであった。

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