「であぇ、であぇ!」
哨戒中の敵がさらなる敵を呼び寄せる。
「我が道をあけろ!」
今すぐ逃げたいところだが、秘密通路が見つかるわけにはいかない。
女王陛下を逃がしつつ、私は待たしていたコメットに跨り、敵哨戒兵2名に突撃。
愛剣を鞘から振り抜き、続け様に首を刎ねた。
「いたぞ! あそこだ!」
敵陣から槍を構えた歩兵が、丘陵を駆けのぼってくる。
やってくる敵兵は多い。
やはり、手段として逃げるしかないだろう。
「こちらです!」
「うむ」
私はコメットに女王陛下を乗せ、一気に斜面を駆けのぼっていく。
それを逃がすように、女王護衛隊の白薔薇隊が敵を食い止めた。
「こいつら、女だぞ!」
「生かして捕えろ! 楽しませてもらえ!」
「いや~!」
白薔薇隊の奮戦と犠牲もあって、私は敵の勢力圏を離脱。
自陣へと無事に帰りついたのであった。
◇◇◇◇◇
陣地にて――。
「よくぞ! ご無事で!」
必死の形相のスタロン。
いままで心配をかけたのだろう。
「……悪い。だが女王陛下はこちらにおわす! 陣を引き払え! レーベ城に帰るぞ!」
「はっ」
私の個人的な目標であった女王の身柄の保護。
それはどうにか達成できたようである。
「敵の追撃を誘うな! 旗は立てたままにせよ! あたかも人がいるように装うのだ!」
「はっ」
我が軍はひっそりとシャンプール城の近くから撤退。
街道に出た頃には、強行軍で我が領地へと走ったのであった。
◇◇◇◇◇
「おかえりなさいませ!」
城門をくぐり、政庁に辿り着くとイオが出迎えてくれた。
そして、女王陛下の姿を見るとビックリする。
「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」
「うむ、すまぬが、やっかいになるぞ」
「陛下を頼む! あと皆を呼び寄せてくれ!」
「はい」
私は政庁に諸将を集めた。
そして、女王を庇護する方針を伝えたのだった。
「陛下をお逃がししたのを公表するので?」
スタロンがまず聞いてくる。
「いや、影武者が頑張ってくれる限りは内密にする。皆にもかん口令を敷いておけ!」
「はっ」
「あと、後方攪乱についてはどうなっておる?」
「はっ、ナタラージャ殿がすでに敵の補給隊を急襲している模様。成果はジワジワ出ていくと思われます」
「……うむ」
侵略地に侵攻した軍隊は、敵地にて略奪し、現地調達を行う。
だが、今回の共和国軍は約三万。
共和国本国から、糧秣を補給せねば到底成立出来ないほどの規模であった。
「城の警備以外は、全軍で敵補給路を襲え! 敵に一粒の小麦も渡すな!」
「はっ」
リルバーン家としては全力を挙げて、共和国の補給線を破壊する方針とした。
その晩、城の吊り橋が揚げられ城門が開く。
粛々と各部隊が出撃、分散して闇夜に消えたのであった……。
◇◇◇◇◇
オーウェン王国の王都シャンプール城。
その巨大な城壁は二重に施されており、その外側の城壁は城下町全体を囲っていた。
「掛かれ!」
四方を取り囲んだ共和国軍は、一斉に攻撃を開始。
共和国の魔法使いの部隊は火球を作り出し、次々に城門へと叩きつけた。
「怯むな、撃ち返せ!」
城側も弓矢と弩で応戦。
迫りくる敵軍に向け、雨あられと矢を浴びせた。
「重装歩兵を前に出せ!」
「はっ」
大きな盾を構えた全身鎧の大男たちが、一列になって城壁に近づいた。
これには矢も大して効果的ではなく、城側は接近を許した。
「破城槌を出せ!」
さらに、城門近くに矢盾を備えた破城槌が接近。
これには城側は巨大な石を落とす。
「梯子を掛けろ! 敵を城壁から追い落とせ!」
櫓を構える指揮所の各個の命令に際し、伝令が各隊へと急ぐ。
共和国軍は一斉に城壁に押し寄せ、城壁めがけて梯子を掛けた。
「掛かれ! 掛かれ!」
「押し寄せろ!」
守る王国軍は三千、攻め寄せる共和国軍は三万。
衆寡敵せず、王国軍は次第に劣勢になっていったのだった。
「勝鬨!」
「えいえい! おー!」
共和国軍は攻撃開始から三日間で外側の城壁を陥落させた。
その為、王都シャンプールの街に共和国軍の雑兵が雪崩れ込んだ。
家々には兵卒が押し入り、略奪の坩堝となったのだった。
だが、王城には二番目の強固な城壁が無傷であり、その壁は未だに王宮を堅固に守っていたのであった。
◇◇◇◇◇
リルバーン伯爵家領北端。
共和国領境、ジフ村周辺。
「敵の輜重隊を襲え!」
「火を掛けろ!」
「はっ」
リルバーン家の軍隊は、共和国軍の補給線に殺到。
時により、場所や仕掛けを替え、次々に糧秣を強奪していったのだった。
「将軍、イシュタール小麦だけでも大変な量ですな」
「ああ、それに矢も沢山手に入ったな」
私はスタロンと話しながら、手にした補給物資をレーベ城へと運んでいったのであった。
「ラガー! おるか?」
「はっ」
「商人のホップに頼んで、この糧秣をエウロパへと運べ」
「かしこまりました」
レーベ城に入らぬ量の糧秣は、急いで東の港湾都市エウロパへと運ばせた。
ここレーベ城は前線から近い。
万が一のことを考え、後方地帯へ運ぶのは常套手段だったのだ。
「女王陛下、万が一に備え、御身柄を東に移しませぬか?」
「……うむ、良きに計らえ」
私は、女王陛下にも東に逃れてもらうことにした。
護衛には白薔薇隊が付いているが、私は護衛責任者にスタロンをつけた。
スタロンは五感の優れた傭兵だ。
正規兵には無い良さを備えた護衛だったのだった。