統一歴565年3月――。
オーウェン連合王国は再び大規模な動員令を発出。
各地の貴族達は、傭兵や農兵を集めにかかった。
「行くぞ!」
「おう!」
リルバーン家も例外ではなく、各下級貴族なども集い、三千名の兵士を率いての出陣となったのであった。
「スカーレット提督、頼みますよ!」
「任せろ!」
リルバーン家の軍隊は、行軍効率を上げるため海路をとった。
船には人員の他、馬車や食料、矢束などを満載する。
「出発!」
我々はレーベの東に位置するエウロパの港を出港。
遥か西方へ向けて船を進発させた。
船は順調にオーウェン連合王国領の沿岸を通り、無事にガーランド国境近くの港で上陸。
そこから陸路を通って、前線基地であるノイジー城塞に入城したのであった。
◇◇◇◇◇
ノイジー城塞執務室。
「国境境の情勢はどう?」
私は城主のミエセス子爵に問う。
「そうですな。お互いの下級貴族共が勝手に村々を荒らしまわっております」
「そうなのか~」
この世界の貴族達の独立性は強い。
よって中央の外交姿勢とは関係なく、村同士や小領主同士が争うことは多かったのだ。
争いの種は、水源や狩場、いわば生きるための縄張りのようなのもので、誰が悪いという訳ではない。
しかし結果として、それらの抗争は拡大。
それぞれの安全保障を担う、国家を巻き込む戦乱となっていったのだった。
「早く商国の奴等を焼き払ってください!」
「そうじゃ、そうじゃ!」
今もこの辺りの軍権を預かるミエセスの元に、陳情しに来る地主は絶えない。
「援軍が来てからの話じゃ。皆暫く辛抱せい!」
ミエセス子爵は皆を宥めるのに精一杯のようであった。
だが、そうこうしているうちに、王国の諸侯の軍勢が続々と前線にやってきたのであった。
◇◇◇◇◇
統一歴545年3月中旬――。
ノイジー城塞近くの高地に王国軍は布陣した。
その王国軍野営キャンプ地の本営。
「まずは宣戦布告をせねばなりませんな……」
「そうじゃのう、停戦協定があるからのう」
実際、第三者の仲介あっての停戦条約だと破棄は難しいが、今回は当事者同士などで安易に破棄は出来た。
だが、文官たちや、実際に交渉を行った貴族たちの反発があり、宣戦布告は4月にずれ込んだのであった。
それまでの間。
王国軍は情報収集に専念。
多くの有益な情報が舞い込んだのであった。
まず、商国の主力は北部の大規模な反乱の鎮圧に追われており、こちら側へ来る気配がない。
その代わりに、国境線には中小様々な防御施設が造られており、それを迂回するには北部の深い森を通る必要があるとのことだった。
◇◇◇◇◇
統一歴545年4月――。
用意万端の上、王国は商国に宣戦布告。
両軍の兵士たちに緊張が走った。
「よし、我らは北部の森へと迂回する!」
王国軍の主力を日いるクロック大元帥の部隊は、正面の防御施設を迂回する方針となった。
「あとはオルコック殿、頼んだぞ!」
「はっ」
この世界には、石造りの大砲などはあったが、それは日に3回も撃てれば上出来であり、防御城塞に対する有効な攻撃手段はあまりなかった。
よって商国に素早く有効打を与えるためには、防御線迂回は妥当な戦術だったのだ。
主戦派の貴族達を中心に、精鋭部隊がクロック大元帥の部隊に多く配属され、士気の低い非主戦派の貴族達の部隊が、親衛隊長オルコックの指揮下へと配属させられた。
今回の作戦に賛成しなかった私の部隊も、当然のようにオルコック殿の支配下に組み込まれたのであった。
その結果。
クロック大元帥率いる森への迂回部隊が一万五千人。
親衛隊長オルコックが率いる、正面の防衛施設攻略部隊が二万人となったのであった。
森への迂回部隊は、奇襲攻撃とされ日が暮れた後に進発。
翌朝、正面攻勢部隊も出撃。
戦いの火ぶたは切られたのであった。
◇◇◇◇◇
私の率いるリルバーン家の部隊も進発。
親衛隊長オルコックの指揮のもと、ガーランド商国が築き上げた防御陣地の前に布陣した。
「キャンプを設営しろ!」
「はっ!」
オルコック率いる正面部隊。
もちろん作戦目標としては、防御施設を攻略することにあったが、最低限の働きとして商国の国境防衛部隊を引き付けることにあった。
それゆえ急いで攻める必要は無かったのである。
「攻城塔を寄せろ!」
「投石器、前へ!」
王国軍は準備時間もあったことで、敵を上回る多くの兵士たちが動員されていた。
更には多くの大型の攻城兵器が投入。
時間はかかるが、防御陣地を攻略することは確実視されたのだった。
「破城槌を前へ!」
王国軍の投石器が唸りを上げて、石弾を城壁に浴びせる。
敵の防御線は広範囲に施されていたが、そのため木造の脆い壁の部分も多く、投石器は絶大な効果をあげていったのであった。
「寄せろ!」
高い城壁の上にも攻城塔が襲い掛かり、沢山の兵士を城壁の上へと送った。
「そぉーれ!」
各城門には破城追が張り付き、厚い門扉を次々に壊していった。
「矢を放て!」
各部隊の攻撃の際には、必ず弓部隊が掩護射撃。
盾が無いと、頭も上げられないくらいに矢の雨を降らしたのであった。
そのような堅実な攻勢が功を奏し、開戦三日目には、王国の攻撃部隊の優勢は鮮明になっていたのであった。
「全軍突撃!」
敵の防御施設の崩壊を見て、親衛隊長のオルコックは、ついに全軍突撃の命令を出したのであった。