「今回の勲功第一は、客将のリルバーン殿じゃ!」
「はっ」
私はケード連盟の家臣が居並ぶ中、論功行賞で一位を獲得した。
ケードの当主から直筆の感状を頂く。
これは今回の功績を証明してもらう証書のようなものだ。
「これを機に反乱勢力を一掃するぞ。次の目標はベンソン城だ! リルバーン殿の奮闘を期待するぞ!」
……ぇ?
次も強制参加なの?
アイアースも当然だろと言わんばかりに、イカツイ顔がニコニコ笑っている。
まぁ、これも親善の一環か。
私はその後の軍議にも参加。
アイアースの麾下として作戦に次々に参戦した。
結果として、3つの城と8つの砦の攻略に貢献したのであった。
これによりケード連盟は、南ネヴィル地方の反乱勢力を一掃。
その支配地域の西端は、ガーランド商国に隣接するまでに広がったのであった。
◇◇◇◇◇
「まぁ飲まれよ!」
「頂きまする」
私はイオ達と共にケードの本拠地に帰還。
領主館での祝勝会に出席していた。
ケードは戦の強さに自信があるらしく、本拠地に城を持たないという強気さであった。
「お主のお陰で、わしも命拾いした。礼を言うぞ!」
ニコニコ顔のアイアースに葡萄酒を注がれる。
「まぁ、お互い様と言うことで!」
今回、イオにはだいぶ退屈させたと思ったのだが、フィー姫と楽しくやっていた様で安心する。
「今日は機嫌が良い。シンカー、何かとらすぞ!」
宴席での最中、ケードの当主のドンにそう持ち掛けられる。
先日までの反乱鎮圧の功で、ドラゴネットを50頭ほど褒美で頂いていたのだが、ご褒美は機嫌がいい時にねだるのが常道であった。
「さすれば、例の魔物の卵を頂戴したいのです」
「ほう? そのようなものがいいのか?」
反乱側の貴族が持っていた魔物の卵。
孵化した時に見たものを親と認識する為に、ペット用として魔物の卵は珍重されていたのだ。
「このような物、いくらでもくれてやるわ!」
半ば投げやりな感じで頂いた卵。
実は、これを欲しがっていたのはポコリナだった。
彼女は魔物のお友達が欲しいのだろうか。
すでに卵の段階で、ポコリナと同じほどの大きさがあったのだが。
もし凶悪な魔物だったらどうしようと不安がよぎる。
宴の料理は、川魚や山菜の珍味の天ぷらが主役でヘルシーであった。
豪華さは無いが、山国で武骨の風情が漂う素敵な味付けであった。
◇◇◇◇◇
「また、来いよなぁ!」
「はい!」
私はアイアースなどの将に見送られ、ケードの地を立った。
傭兵輸出業で名高いケードに、逆に傭兵として仕事した私はとても珍しい存在だろう。
馬車にもいろいろとお土産が満載で、かなり楽しい経験となったのであった。
帰り道は思ったより快適で、野越え山越え、馬車は進んだ。
途中で魔物にも襲われたが、無事に返り討ちに出来た。
しかし、国境を越え、旧臣たちの領地に入った頃になると、レーベの街の方角に見慣れぬ巨大建築が見えた。
「……ねぇ、あれは何だろう?」
「お前様、以前にお城を作る様に命じていたのでは?」
イオにそう言われ、思い出した。
……おお、でっかいお城だ。
改めて見ても、田舎にしては場違いな建築物であった。
私達は有難いことに無事に、そして久しぶりにレーベの地へと帰り着いたのであった。
◇◇◇◇◇
統一歴564年9月――。
この年の収穫祭は、新居の大広間で祝った。
いわゆるレーベの新城郭である。
細かいところは未だに工事をしているが、旧臣たちの縁者も招いて大々的な落成式典を催したのだった。
「いやあ、ご領主様。立派になられて!」
「お褒め頂き感謝です」
新城郭の威容は、分かりやすく効果を現した。
いままで私を領主と認めない、古老系の旧臣までもが私におべっかを使ったのだ。
確かに、見た目だけでも効果は十分と言えた。
他にメリットと言えば、城がないとして田舎扱されてきたレーベの住民たちの好感度も良く、街のシンボルとして愛されそうな雰囲気だったのだ。
「今年の収穫に乾杯!」
「乾杯!」
私は今年の収穫祭には、堂々と主催者として挨拶をした。
なかなかに出自がわるいと苦労するものである。
このお祭りの日ばかりは、領民総出で貴重品の羊肉などを焼いて祝った。
新しい城の効果もあり、多少も町は観光客でにぎわったのだった。
◇◇◇◇◇
「ポコ~♪」
ポコリナはケードで貰った魔物の卵を毎日温めている。
母性本能なのか、最近少しピリピリさを感じるくらい卵にご執心だ。
「おお!」
そしてついに孵化の時。
ポコリナの前に姿を現したのは、岩の魔物であるゴーレムだった。
ゴーレムにしてはピカピカしているので、アリアス老人に見せたところ、これは希少なミスリルゴーレムとの事。
……いや、希少だと言っても、あんまり可愛くないのだが。
むしろ赤子なのに、風貌が怖い。
「ポコ~♪」
「お前様、でもポコリナは気に入っているようですよ」
イオはそう言うが、赤子の状態ですら結構でかいのに、大きくなったらどうなるんだろう、これ……。
まさか、新築のレーベ城とか壊されないよね?
「この子、餌は何を食べるの?」
「さあて、人間がミスリルゴーレムを飼育したという例は、未だ聞いたことがありませんでな」
アリアス老人がまるで他人事なことを言う。
翌日になってわかったのだったが、この魔物は雑食性だった。
「ポコ~♪」
翌日からポコリナが、甲斐甲斐しく外で虫などを採ってきて食べさせている。
が、当然に足らないので、雑穀やらなんやらも食べさせることにしたのであった。