「ポコ~♪」
ゲイルの地の海岸でノンビリしていると、ポコリナが光る何かを咥えてきた。
……ん?
なにかとよく見てみると真珠だ。
きっと、ここには天然の真珠貝があるのだろう。
「ちょっと潜ってみてみるね」
「気をつけてね」
「ポコ~♪」
手を振るイオとポコリナを背に、私は海に潜ってみる。
驚くことに、ここの海底にはホタテが沢山生息していた。
色とりどりの海藻を掻き分け、更に深く潜ってみる。
美しい珊瑚が生い茂る中。
巨大な真珠貝が呑気に口をあけていた。
コイツは本で見たことがある。
確か、大王真珠貝といった魔物であった。
その貝殻の内側には、見たことのない大きな真珠があった。
直径10cmといった感じだろうか。
王都のシャンプールの宝石店で買えば、きっと金貨2000枚はくだらないだろう。
私は持ってきた短刀を駆使し、大王真珠貝をあまり傷つけずに真珠を取り出すことに成功した。
他にもたくさん泳いでいた伊勢海老を捕獲。
麻の袋に沢山入れた。
「ただいま」
「おかえり」
「ポコ~♪」
砂浜にあがると、西の空に夕焼けがまぶしい。
「こんなのが採れたから、イオにあげるよ」
「ありがとう。……でも、こんな高価な物じゃなくても、お前様が下さる物ならなんでもいいのよ?」
嬉しいことを言われ、私の方が照れてしまう。
イオは貴族家の次女に生まれたのに、質素な暮らしを尊ぶ珍しい女子であったのだ。
「お前様、ご飯にしましょう」
「ポコ~♪」
「……よおし!」
私は、沢山獲ってきた伊勢海老を串にさし、焚火の炎にかざした。
パチパチとはじける音がし、濃厚な磯の香りが漂ったのだった。
私達は焼けた伊勢海老を殻から外し、豪快にかぶり付いた。
濃厚なミソも相まって、肉汁沢山のエビは大変に美味しかった。
お腹がいっぱいになって、砂浜で寝転がる。
明日の朝には、自然豊かなここを出発する予定だ。
空には、数えきれない数の星が輝いていた。
「なぁ、イオ」
「なんです? お前様」
「私と無理やり夫婦になって、嫌な気にならなかったのか?」
私は以前から気になっていたことを聞いてみた。
「ええ、全然。というか以前に町中でお前様を一目見て、惚れていたのでございます」
イオは顔を隠しながら小声で言った。
「……あと、私は妾腹でしたので、将来のことは諦めていました。さらに、父上が死んでからは、我が家の先は真っ暗。あの時のお前様は、王子様にも見えたものですよ」
「ははは……、王子様ねぇ」
なんだかいい話を聞いてしまった。
私の心は温かい気持ちになって、深い眠りへとついたのであった。
◇◇◇◇◇
翌朝――。
ロボスの船に乗り込む。
「錨をあげろ!」
面白い地を発見したものだ。
毛皮以外にも、ホタテ貝に海老、真珠も手に入る土地だ。
しかも誰のモノでもないらしい。
きっとあの海獣が人の手が入ることから守っていたのだ。
「帆を張れ!」
出港後。
更に三日かけて、ゲイル地方を測量。
詳しい地形を地図に記した。
その作業を終えると、私達は少し名残惜しさを感じつつも、調査という名の旅行を終えた。
五日の航海の後、エウロパに帰港。
王宮宛てに早馬を仕立て、ゲイル地方の地図を進呈。
更に、その地の領有権を願い出た。
王宮の東部担当の行政官には日ごろから、高価な心付けを渡してある。
きっと申請は通るだろうと予想された。
◇◇◇◇◇
その晩――。
エウロパの港でのロボスの船で、小さな宴が催された。
まぁ、航海の無事を祝う祝賀会であった。
「ガハハ! もう海獣はいねぇ! これからはロボス様の時代だ」
ロボスは樽いっぱいのラム酒を飲み、ご機嫌だ。
料理は船上であるので、真鯛やうちわ海老の刺身、温かいものではアンコウなどが入った鍋が出た。
「うめぇぞ! もっと酒持ってこい!」
「ポコ~♪」
この宴での小さな出来事なのだが、ポコリナが誤って葡萄酒を口にしてしまい泥酔。
酔っぱらって海に落ちてしまうなど、彼女にとっては散々な日になったのだった。
その翌日――。
私はイオとポコリナを伴い、馬車でレーベへと出立。
楽しい海の男たちとの日々に、別れをつげたのであった。
◇◇◇◇◇
「殿!」
レーベの館で、ここ最近滞っていた書類仕事をしていると、スタロンが血相を変えて駆けこんできた。
「どうした?」
「そ、それが、オヴ殿の使者と申す者が参りまして」
「それが、どうして慌てることなのだ」
「それが……、外にお出になってくだされ」
彼に促されるまま、外へと出てみると、傷ついたドラゴネットの横で、女騎士が深手で蹲っていた。
「急ぎ薬師を呼べ!」
「はっ」
呼ばれて来たのは、なんとイオとその侍女だった。
後から聞いたのだが、イオは趣味で薬の勉強をしており、さらに紅い眼が為せる血統として、最近魔法が実用的なレベルに達したとのことだった。
「急ぎ、部屋に運んでください。あとこの矢は毒矢です。急いで毒消しを持ってきて!」
「はっ」
普段の呑気なイオとはうって変わり、きびきびと指示。
まわりの者も急いで騎士を館へと運んだのだった。
「……こ、これを」
女騎士が震えながらに私に渡した手紙。
そのなかをあらためると、間違いなくオヴからのものであった。