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第21話……女王様との逃走劇!

「お味方潰走!」


「前線の状況はどうだ?」


「わかりません!」


 私の部隊が陣を置くのは、女王様の新鋭部隊から、さらに後方の森の中だった。

 前方から無数の敗残兵が逃げて来る。

 伝令が味方の潰走を伝えて来るが、状況がサッパリつかめなかった。



「陛下はご無事か?」


「それが分かりません!」


「馬鹿か貴様!」


 逃げて来る親衛隊に訪ねるも状況はさっぱりわからない。

 ……というか、主を捨てて逃げて来るなよ。

 しかし、女王様の無事はなんとしてでも確保せねばならなかった。


「よし、私が様子を見て来る! 我が部隊の指揮はアーデルハイトに任せる! 味方を援護しつつお前たちも後退せよ!」


「はっ!」


 私は部隊の指揮権を義姉上に任せ、ドラゴネットであるコメットに騎乗。

 逃げて来る味方を掻き分け前方へと向かった。


 森を抜けると、右手に高地が見えていたので登ってみる。

 そこから下を見ると、味方の戦線があちこちで崩壊しているのが見て取れた。


「……やはり、新手が来ていたか?」


 城からの敵兵だけでなく、他方面からの敵兵が、一斉にこの方面に押し寄せてきているようであった。

 多分考えるに、敵がはなから狙っていたのは、この女王陛下の親衛隊だったのだろう……。



「出でよ、火球!」


 敵城の城壁には数名の魔法使いが陣取り、味方の陣地めがけて魔法を放っていた。

 そのせいで、周辺が明るく照らされる。


 ……そうじゃない。

 そこじゃない。


 敵の狙いは女王様。

 逆に言えば女王様さえ助ければ、私の戦としては勝ちであった。


「……ん? あれは王家の旗!?」


 ひと際目立つ大きな旗が、燃えながらに東側に動いているのが見えた。



「行くぞ、コメット!」


 私はコメットを促し、高地から一気に駆け降りる。

 コメットは馬よりも一回り大きい龍族。

 その頑丈な足は、敵の歩兵を文字通り蹴散らした。


「敵将と見た! いざ!」


 馬に乗ったフルプレートの騎士が向かってきたが、一撃でなぎ倒す。

 私のロングソードはミスリル合金の名物。

 私は、いつもはケチだが、武器にはお金をかけていたのだ。


「あいつは貴族だ! 手柄首ぞ!」

「兜首だ! 狙え!」


「どけぃ!」


 コメットの速度が落ちて来ると、敵兵がワラワラと囲まれる。

 右に左に愛剣を振り、敵をなぎ倒すがキリがない。


 愛剣が血まみれになり、なまくらになりそうな頃。

 ようやく敵の包囲を切り抜けたのだった。


「……あ、お味方ですね? この先にシャーロット陛下が……」


 切り株で休んでいた味方の兵士に、王女様の居場所を教えてもらった。

 疲れ切っていたコメットを休ませ、徒歩で茂みを掻き分けすすんだ。



「無礼者! 放せ!」


「くくく、その態度、さては生娘だな。観念せいや!」


 茂みを掻き分けた先には、なんと敵兵に暴行されそうになっている女王様がいた。

 破れた衣服が、そこら中に散らばっている。


「貴様! 死ね」


「ぎゃぁぁ!」


 すぐさま敵兵の首を刎ね、女王様の裸体に素早くマントを被せた。



「……た、助かったぞ! シンカー。この恩には厚く報いるぞ!」


 気丈にふるまう女王様であったが、恐怖からか膝ががくがく震えていた。


「まずは、こちらへお越しください」


「……う、うむ」



 時刻は深夜――。

 だが、あちらこちらに松明を持った敵兵がおり、王女様の身柄を探しているようであった。

 私達は敵兵の姿を避け、慎重に小川まで達すると、そこでようやく水を飲むことが出来た。


 コメットはガブガブと水を飲み、私も清水で咽喉を潤す。

 王女様もゆっくりと顔を洗い、少し笑顔が戻ったのであった。


 見つかるのが怖いので、火を炊くことはできなかったが、乾いたパンを王女様と分け合い食べる。

 ……旨い!

 やはり空腹こそ最高の調味料だ。



「……では、参りますぞ!」


「はい」


「暫し、我慢いただきまする」


 私は女王様をおぶった後、背中に縄で縛りつけた。

 両手を自由にするためである。

 その状態でコメットに跨り、獣道を駆けていったのだった。



「あそこに何かがいるぞ!」


「……ちぃ」


 ところどころで敵兵に見つかり、その度に道を変える。

 もう夜が明けそうだ。

 早く敵領地から抜け出さねば。


 明るくなりかかった時、見慣れた影が現れた。

 顔の朝をぬぐい、目を凝らしてみると、ポコリナであった。


「ポコ~♪」


「おおう!」


 ……しめた。

 これで助かったぞ。


 どうやら味方部隊まで道案内してくれるらしい。

 彼女はタヌキなので夜目も効く。

 極めつけは、気配を消す魔法を使えることであった。


 彼女と更に東に走ると、味方の敗残兵と多く出会う。

 彼等に道を尋ね、更に東へと向かったのだった。



「殿ぉ~!! ご無事でしたか?」


 完全に陽が昇った頃。

 我が部隊の斥候と遭遇。

 遂に味方部隊との合流を果たしのであった。


「よくぞご無事で!」


 スタロンが心配そうに駆け寄ってきた。


「いやあ、死ぬかと思った!」


 私は笑いながらにそう言った。

 主の無事を確信し、兵士が歓呼する。

 辺りを見渡すと、義姉上の眼にも涙が……、なんだか生きて帰ってきた実感がわいたのだった。



「シンカー、礼を申すぞ!」


「ははっ」


 女王様にも改めて御礼を言われる。

 彼女の身柄は、一旦義姉上の幕舎へと移し、着替えを済ませてから、近衛隊長のオルコックへと引き渡した。


「陛下ぁ~、良かった! よぉございました! ううっ……」


 女王様の姿を見て、大男のオルコックが泣き崩れる。

 まずは、めでたしめでたしといったところであったのだった。


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