北の山地への旅行から帰って、急ぎキムを連れ、ポコリナと再び探索に来た。
「ぽこ~♪」
「おお! 凄い!」
ポコリナが教えてくれるところ、キムが調査するのだが、素人目にもわかるくらい金鉱が露出しているところもあった。
私はポコリナの特技は凄いなと感心。
そして、キムは拡大鏡を手に金鉱を査定する。
「殿! これは凄いですぞ! ワシが今まで見てきた中でも、最高の金脈かもしれませんぞ!」
どうやら凄い金山になりそうだ。
ポコリナではないが、頭の中で狸の皮算用が始まった。
「殿、このことはご内密にした方が良いですぞ!」
「……へ?」
自慢したいわけではないが、キムが神妙な顔で話を続ける。
「下手に王家に話せば、領地転換ということにもなりかねません」
「……あ、なるほど」
「コッソリと隠しながら、内密に掘れる金衆を探してまいりまする。それまで下手に動いてはなりませぬぞ!」
「……は、はい」
私は現場を、キムとポコリナに任せて帰ることにした。
……このことは、アーデルハイトや旧臣たちにも内緒にしなければならないだろう。
旧臣たちはともかく、アーデルハイトにはなんだか悪い気がした。
◇◇◇◇◇
統一歴563年9月――。
いたるところで、黄金色になったイシュタール小麦の刈り入れが始まる。
ヤクト芋などの収穫も重なり、各集落は収穫期として賑わう。
館の塔の上からイオと城下を眺める。
「今年は無事に刈り入れが終わりそうですわね」
「ああ、そうだね」
例えば、戦争があれば畑は荒れる。
そうした、人災以外にも、台風や大雨に遭っても満足な収穫を得ることはできなかった。
最低限の収穫を得られなければ、生きるために他人から奪うしかなくなる。
それが、戦火が絶えなくなる原因であり、私のような傭兵が必要悪として存在する理由でもあった。
「お前様、そろそろ王都での収穫祭ですわね」
「ああ、準備を頼む」
毎年九月の中頃。
王都シャンプールで、王家主催の収穫祭が催される。
又、地方の貴族が一堂に集う祝賀会でもあったのだ。
「連れて行くのはスタロン様になさいます?」
「……いや、義姉上にしよう」
「いいのですか?」
「……ああ」
私は今まで、旧臣たちの首領格であるアーデルハイトを遠ざけてきた。
しかし、もうそれは過去のものとしたい。
私は一丸となった家臣団が欲しかったのだ。
◇◇◇◇◇
三日後――。
私とイオは王都に向かう街道にて、馬車に揺られていた。
馬上の護衛にはアーデルハイトを含め4騎。
秋の天気は健やかで、私たちは何事もなく王都へと入った。
大きな城門を潜り、シャンプールの城下町へと入る。
やはり大きな王国の都らしく、収穫期とも重なってものすごく賑わっていた。
「まずは女王陛下に挨拶せねばな」
「はい」
私はラガーがオーナーを務める宿屋で部屋を取り、貴族としての正装に着替えた。
片田舎の領主であるため、正装なんて何か月ぶりだろう。
「正装って堅苦しくて嫌だな」
「あら? 私は奇麗なドレスが着れて嬉しいわよ」
ドレスを着るイオはすこぶる嬉しそうだ。
私はその美しさに、少し見とれてしまった。
「奇麗だな」
「ぇ? 何です?」
「……いや、何でもない」
少しの休息をとった後。
私はイオの手をとり、王城へと向かったのであった。
◇◇◇◇◇
「女王陛下におかれましては、益々の……」
私はシャーロット陛下に挨拶するが、めったに口にしない言葉で、舌をかみそうになった。
それを見た侍女たちがクスクスと笑う。
「シンカー、ここは公式な場ではないのですから、堅苦しい言葉でなくていいわよ」
「有難き幸せ」
「本当に久々ね。たまには会いに来てくれるといいのに。まぁ、お茶でもいかがかしら?」
陛下に用意されたテーブルに案内される。
給仕が温かいお茶を持ってきてくれた。
「ねぇ、シンカー。収穫の後は何か用事がある?」
「いえ、特に予定はありませんが……」
「この収穫祭が終わると、ガーランド商国へ出兵なのです」
「先王陛下の復讐戦ですね?」
「……はい。で、そのときに私の直轄軍に入って欲しいのです」
「御意のままに」
「ありがとう。オルコック将軍に伝えておくわ」
「将軍はお元気ですか?」
「ええ、とても」
その後。
私とイオは楽しく陛下と談笑。
次の貴族との面談ということで、部屋を後にしたのであった。
「お茶、美味しかったですわね」
「ああ、流石は王宮。良いお茶を使っているね」
私とイオはそんな会話をしながら、宿へと帰着。
晩御飯の時間までのんびりと過ごしたのであった。
◇◇◇◇◇
「シェフ、今日のメニューは何だい?」
「いや、お祭りということもありまして、海鮮焼きにいたしとう存じまする」
私とイオ、そしてアーデルハイトの前に、網をのせたコンロが運ばれてきた
「おお!」
「おいしそうですわね」
その網の上に、新鮮な栄螺や鮑、伊勢エビなどが生きたまま焼かれたのであった。
「これの料理は地獄焼きっていいまさぁ」
シェフは自慢げにそう言い、焼けたのを取り分けてくれる。
私は、焼かれた出汁一杯の貝を殻から慎重に取り出し、塩をかけて食べる。
「旨い!」
どの海鮮も、アツアツのジューシーでとても美味しかった。
「あー美味しかった!」
イオもアーデルハイトもとても満足そうであった。
……ん、まてよ?
これってお会計が凄いことになるのでは……。
私の性根はケチで、やっぱり生粋の貴族へは遠い道のりであるようだった。