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第16話……金鉱脈と収穫祭

 北の山地への旅行から帰って、急ぎキムを連れ、ポコリナと再び探索に来た。


「ぽこ~♪」


「おお! 凄い!」


 ポコリナが教えてくれるところ、キムが調査するのだが、素人目にもわかるくらい金鉱が露出しているところもあった。

 私はポコリナの特技は凄いなと感心。

 そして、キムは拡大鏡を手に金鉱を査定する。


「殿! これは凄いですぞ! ワシが今まで見てきた中でも、最高の金脈かもしれませんぞ!」


 どうやら凄い金山になりそうだ。

 ポコリナではないが、頭の中で狸の皮算用が始まった。



「殿、このことはご内密にした方が良いですぞ!」


「……へ?」


 自慢したいわけではないが、キムが神妙な顔で話を続ける。


「下手に王家に話せば、領地転換ということにもなりかねません」


「……あ、なるほど」


「コッソリと隠しながら、内密に掘れる金衆を探してまいりまする。それまで下手に動いてはなりませぬぞ!」


「……は、はい」


 私は現場を、キムとポコリナに任せて帰ることにした。


 ……このことは、アーデルハイトや旧臣たちにも内緒にしなければならないだろう。

 旧臣たちはともかく、アーデルハイトにはなんだか悪い気がした。




◇◇◇◇◇


 統一歴563年9月――。

 いたるところで、黄金色になったイシュタール小麦の刈り入れが始まる。

 ヤクト芋などの収穫も重なり、各集落は収穫期として賑わう。


 館の塔の上からイオと城下を眺める。



「今年は無事に刈り入れが終わりそうですわね」


「ああ、そうだね」


 例えば、戦争があれば畑は荒れる。

 そうした、人災以外にも、台風や大雨に遭っても満足な収穫を得ることはできなかった。


 最低限の収穫を得られなければ、生きるために他人から奪うしかなくなる。

 それが、戦火が絶えなくなる原因であり、私のような傭兵が必要悪として存在する理由でもあった。



「お前様、そろそろ王都での収穫祭ですわね」


「ああ、準備を頼む」


 毎年九月の中頃。

 王都シャンプールで、王家主催の収穫祭が催される。

 又、地方の貴族が一堂に集う祝賀会でもあったのだ。



「連れて行くのはスタロン様になさいます?」


「……いや、義姉上にしよう」


「いいのですか?」


「……ああ」


 私は今まで、旧臣たちの首領格であるアーデルハイトを遠ざけてきた。

 しかし、もうそれは過去のものとしたい。

 私は一丸となった家臣団が欲しかったのだ。



◇◇◇◇◇


 三日後――。

 私とイオは王都に向かう街道にて、馬車に揺られていた。

 馬上の護衛にはアーデルハイトを含め4騎。

 秋の天気は健やかで、私たちは何事もなく王都へと入った。


 大きな城門を潜り、シャンプールの城下町へと入る。

 やはり大きな王国の都らしく、収穫期とも重なってものすごく賑わっていた。



「まずは女王陛下に挨拶せねばな」


「はい」


 私はラガーがオーナーを務める宿屋で部屋を取り、貴族としての正装に着替えた。

 片田舎の領主であるため、正装なんて何か月ぶりだろう。



「正装って堅苦しくて嫌だな」


「あら? 私は奇麗なドレスが着れて嬉しいわよ」


 ドレスを着るイオはすこぶる嬉しそうだ。

 私はその美しさに、少し見とれてしまった。


「奇麗だな」


「ぇ? 何です?」


「……いや、何でもない」


 少しの休息をとった後。

 私はイオの手をとり、王城へと向かったのであった。




◇◇◇◇◇


「女王陛下におかれましては、益々の……」


 私はシャーロット陛下に挨拶するが、めったに口にしない言葉で、舌をかみそうになった。

 それを見た侍女たちがクスクスと笑う。



「シンカー、ここは公式な場ではないのですから、堅苦しい言葉でなくていいわよ」


「有難き幸せ」


「本当に久々ね。たまには会いに来てくれるといいのに。まぁ、お茶でもいかがかしら?」


 陛下に用意されたテーブルに案内される。

 給仕が温かいお茶を持ってきてくれた。



「ねぇ、シンカー。収穫の後は何か用事がある?」


「いえ、特に予定はありませんが……」


「この収穫祭が終わると、ガーランド商国へ出兵なのです」


「先王陛下の復讐戦ですね?」


「……はい。で、そのときに私の直轄軍に入って欲しいのです」


「御意のままに」


「ありがとう。オルコック将軍に伝えておくわ」


「将軍はお元気ですか?」


「ええ、とても」


 その後。

 私とイオは楽しく陛下と談笑。

 次の貴族との面談ということで、部屋を後にしたのであった。



「お茶、美味しかったですわね」


「ああ、流石は王宮。良いお茶を使っているね」


 私とイオはそんな会話をしながら、宿へと帰着。

 晩御飯の時間までのんびりと過ごしたのであった。




◇◇◇◇◇


「シェフ、今日のメニューは何だい?」


「いや、お祭りということもありまして、海鮮焼きにいたしとう存じまする」


 私とイオ、そしてアーデルハイトの前に、網をのせたコンロが運ばれてきた


「おお!」

「おいしそうですわね」


 その網の上に、新鮮な栄螺や鮑、伊勢エビなどが生きたまま焼かれたのであった。


「これの料理は地獄焼きっていいまさぁ」


 シェフは自慢げにそう言い、焼けたのを取り分けてくれる。

 私は、焼かれた出汁一杯の貝を殻から慎重に取り出し、塩をかけて食べる。


「旨い!」


 どの海鮮も、アツアツのジューシーでとても美味しかった。


「あー美味しかった!」


 イオもアーデルハイトもとても満足そうであった。



 ……ん、まてよ?

 これってお会計が凄いことになるのでは……。


 私の性根はケチで、やっぱり生粋の貴族へは遠い道のりであるようだった。

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