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第15話……山に巣食う山賊

 統一歴563年7月――。

 平野に広がる麦畑は青々しく、農民たちがいそいそと働いている。


「出陣じゃ!」


「「「おう!」」」


 私は訓練した兵たちを率い、レーベの東北に位置する山岳地帯に進んだ。

 相手は山地を根城にする山賊。

 訓練の総仕上げといった感じであった。


 兵たちの装備はキムに買い付けてもらい、歩兵には新品の皮鎧に、錆のない銀色の槍を装備させていた。

 少数ながらも良馬も買い揃え、騎兵を整備。

 騎兵には銀色の鎖帷子を装備させていた。



「あんな奴等、ほおっておいてもいいのでは?」


 この山岳地への侵攻、実は、旧臣たちは反対した。

 何故なら、目的の山地には農地が少なく、手柄をたてても得るものが無かったためだ。


 貴族家の家臣と言っても、実のところはこのような体裁で、私の手足となって動いてくれるわけでは無かったのだ。

 私は彼等の意を尊重し、直衛部隊500名のみを率いての戦いであった。


 旧臣たちは土地もちの自営業者だが、私の直衛部隊は月給取りの常備軍。

 つまり戦いが無くても給料は払わねばならない。


 オーウェン王国の貴族達は、このような月給取りの兵士を雇う者は少ない。

 有事の際は、傭兵を雇うという慣習であったのだ。


 私は部隊長にスタロン達に加え、オヴを指南役として同道。

 山岳地帯を進んだのであった。




◇◇◇◇◇


 敵が潜むであろう山の中――。

 うっそうと茂る草を分けながらの進撃。

 場所によっては、腰まで水に浸かる沼地もあった。


 ゲリラ戦が仕掛けられる山賊側が有利な気がするが、こちらの直衛部隊の兵士も、元は山賊やら、腕利きの傭兵達。

 途中の小規模な抵抗を排して、山賊どもの根城へと進んだ。



「何しに来やがった!? ここには御貴族様が欲しがるものは何もないぞ!」


 山賊の砦の門の上から、親分のような大男が声をあげた。

 私は貴族になったのはつい最近。

 もとはと言えば、彼等と同じような身分だった。


「道中の安全を脅かすお前たちを排除する!」


 私は負けずに声を大にした。

 確かに山賊たちは街道まででて追剥などをする。


 だが、本当に山の中まで軍隊を繰り出して討伐する貴族などいなかった。

 それだけコスパの悪い行為だったのだ。



「うるせぇ!」


 敵は逃走を試みるが、こちらの兵たちは素早く砦を囲んでいた。

 こういう手早い組織だった行動に、訓練の成果を感じる。


「弓放て!」


 ロングボウ兵が矢を放ち、物見やぐらにいる山賊たちを射落とした。


「掛かれ!」


 そして梯子を持った歩兵たちが、四方より塀をよじ登り、砦内へと乱入。

 スタロンとその従者が門を内側からあけ放った。


「騎兵、突撃!」


 肥えた馬に乗った騎士たちが突入。

 山賊地の砦をあっという間に陥落せしめた。


「えいえいおー!」


 鬨の声をあげ喜ぶ兵士たち。

 小さな勝利であったが、確実な勝ちであった。


 この後、更に2つの山賊のアジトを攻略。

 こうして領内の賊徒を、ほぼ完全に壊滅へと追いやったのであった。




◇◇◇◇◇


 山賊討伐から三日後。

 オヴの元へ、彼の領内から連絡が来た。


「シンカー、悪いが領地をあけ過ぎたようだ。帰らねば……」


 彼とは随分仲良くなって、最近では下の名前で呼ばれている。


「ああ、いろいろ助かったよ! 収穫祭にでもまた会おう」


 そう別れを告げたつもりだったが、彼は一匹の騎乗用のドラゴネットを連れて戻ってきた。

 ドラゴネットとは小型の竜で、大きさは馬より一回り大きいだけの代物で、もちろん空は飛べない。



「我が家門を借金から救ったお前にこれをやる」


「いいの?」


「ああ」


 本来ドラゴネットは、ケード連盟の門外不出の兵器とも言われていた。


「ありがとう!」


「大切にしてくれよ」


 こうして戦巧者のオヴは数名の従者を連れて、北の地へと帰っていったのであった。




◇◇◇◇◇


 統一歴563年8月――。

 イシュタール小麦の穂が重たくなっている。


 我がリルバーン家は、旧領として2万ディナール。

 新規開拓地として1万ディナール。

 エウロパ含め東方の征服地2万ディナール。


 全て合わせて5万ディナール。

 これはオーウェン連合王国の侯爵に比類する取れ高であった。


 私は秋の収穫を楽しみに、新たに領土とした元山賊の支配地へ旅行に行くことにした。

 イオとポコリナを連れた、完全な私的な旅程であった。


「ぽこ~♪」

「いってきます!」


 イオと共に門守る衛兵に挨拶する。

 新たに乗馬としたドラゴネットに乗り、ひたすら東北部の山岳地へと向かった。


 獣道同然の茂みを掻き分け、岩場をよじ登った。

 よくやく小川の流れる開けた地に出て、お弁当としたのであった。

 パンの良い香りが漂い、炙った干し肉に涎がでそうだった。



「美味しいね!」

「うふふ……、よろしゅうございました」


「ぽこ~♪」


 イオは政略結婚であったが、私に優しくしてくれた。

 貴族と傭兵の文化差はあったが、うまくやっていると自負している。


 イオと小川で遊び寛いでいると、ポコリナが対岸で鳴いて騒いでいた。


「どうした?」


「ぽここ~♪」


 小川の浅い部分。ポコリナが指し示すところには、砂の中に砂金が混ざっていたのだ。


「おお、凄いぞ!」

「まぁまぁ、奇麗ですね!」


 ……自領に金鉱脈がある?

 私の鼓動は、かつてなく高鳴ったのであった。

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