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第13話……身代金

「この度の御援軍。誠にかたじけなく!」


 私はフィッシャー宮中伯の本陣を訪れ、援軍のお礼を言う。


「……まぁ何、貴公を見殺しにすると陛下が煩いでな」


「あはは、そんなこともありますまい」


 私がそう言うと、宮中伯は此方をじっと睨んでくる。

 彼はきっと、私のことがあまり好きではないのだろう。


「まぁどちらにせよ、貴公の領地が侵されれば、王都まで指呼の間。援軍を送らぬ手はないだろうて……」


 そう、それは正しい。

 レーベは東にあるエウロパより、西にあるシャンプールの方が近かったのだ。



「おもてなしの準備をさせますゆえ、我が領都レーベまでお越しくだされ!」


「それには及ばぬ。わしは忙しいのでな。また王都の収穫祭で会おう」


「はっ」


 そんなやり取りの後。

 戦後処理を行い、王都からの援軍は、隊列を揃え粛々と去っていった。


 こうしてロア平原の戦いは、オーウェン連合王国の勝利と記されることとなった。

 だが今回、ケード連盟は組織だって攻めてきたわけではない。

 国境境の領主同士の小競り合いに、勝利したというのが正しい見方だろう。




◇◇◇◇◇


 統一歴563年4月――。

 我々の軍は隊列を整え、レーベの街に凱旋した。


「流石はご領主様じゃ!」

「リルバーン家万歳じゃ!」


 街の大通りには、歓声と紙吹雪が舞う。

 我が方の兵士たちも家族たちと再会、無事を喜び合ったのだった。

 一部、戦乱を避け、街から逃げていた民ももどり、街には活気が戻ったのだった。



「はぁ~、疲れたな」


「お疲れ様!」


 旧臣たちとの会議の後。

 リルバーン家の館の自室で、スタロン達と寛ぐ。


「しかし、奴等は強かったな。今後どう対処してみたものか?」


 私が今後の対策を求めた際。

 口を開いたのはアーデルハイトであった。


「先日の敵将、オヴという者はタイヒ連峰の麓の領主だそうです。武勇に優れた猛将だそうで……」


「そうなのか」


 ……だよね。

 戦慣れして強かったもん。


「それとは別に、モルトケ殿を助け出さねば」


「身代金か……、一体いくら必要なんだろう?」


 モルトケは旧臣たちの筆頭格だ。

 見殺しには出来ない。


「だれかを使者をたてて。金額を聞きださねばなりませんな! なんなら拙者が行きましょうか?」


 スタロンが立候補を兼ねてそう言ってきた。



「うん、そうだね。私も行くから付いてきて」


 私がそう言うと、アーデルハイトが驚いた。


「殿! なぜ、そんなことを? 危険すぎます!」


「いやいや、私こそ、元は一介の傭兵。死して悲しむものは少ない」


 こうして、オヴの領地へは私とスタロンが向かうことになった。

 スタロンの剣の腕は頼もしいのだ。


 そして、久々の旅路だ。

 せいぜい楽しんでいくつもりであった。




◇◇◇◇◇


「気をつけてくださいませ!」


「ああ、いってくる」


 唯一の家族というべきイオが見送る中、スタロンと北へと旅立つ。

 沿道は豊かな小麦畑が広がる。


 昼時、小川のほとりで馬に水をやり、昼休憩とした。

 イオから貰ったお弁当箱を開けると、粗塩がふられ焼かれた牛タンと、焼しめた乾いたパンだった。


「旨いな!」


 牛タンは私の好物だが、オーウェン王国では嫌われおり、肉とはいえ比較的安く手に入る。

 お弁当は保温の魔法が掛かっており、温かくて美味しかった。



 それから二日後。

 領境を超えると、そこは険しい山間地であった。

 そもそもケード連盟自体が、主に山岳地を領土としていて、総じて土地が貧しかったのだった。


「ここからら北東ですね」


「ほう」


 地図はスタロンに任せ、細くなった街道を進む。

 出会う旅人は少なくなり、より険しい山間部へと進んだ。


 途中の小川は奇麗で、遥か高山を眺めれば、僅かに雪があった。



「おお!」


「着きましたな」


 洞窟のような深い茂みを抜けると、あまり広くない盆地へと出た。

 山々に挟まれた土地には、窮屈そうに畑が広がっていた。


 その真ん中に小さな集落がある。

 これがオヴの領地であった。


 狭い領地なのに、兵士の動員率は高い。

 食料の生産量が少ないために、副業が兵士という領民の割合が、とても多いという噂だった。



「ご領主様に御目にかかりたい」


 領主の館を訪ね、衛兵に用件を伝えた。


「ご領主様がお会いになるそうです」


 意外なことに、すんなり通された。

 メイドさんが館の奥へと案内してくれる。


「よくぞ参られた」


 領主であるオヴという男は、猛将らしく顔に無数の傷があった。


「かけられい」


 丸テーブルにある席をすすめられた。

 そこには料理と酒が運ばれ、オヴと私、そしてスタロンが席についた。



「……で、お話というのは、ご家臣の釈放の件ですな?」


「はい。左様です」


「では、金貨5000枚でいかがでござろう?」


「なんですと!?」


 私は、相手の提示してきた金額に驚く。

 金貨5000枚とは、中型の商船が一隻新品で買える値段であった。

 モルトケは下級貴族であったが、その値段はやはり法外と言えた。


「もうすこし、まかりませんかな?」


「あはは、商人でもあるまいし、値切るとは……」


 オヴは「貴族が値切るな」といわんばかりだ。

 確かに、生まれながらにして高貴な家に生まれた人は、きっと値切ったりしないのだろう。

 しかし、私とスタロンは粘り強く交渉した。


「……ぬぅ、分かり申した。半額の2500枚ではどうですかな?」


「むぅ。わかり申した」


 値切りに値切って妥結。

 モルトケの釈放が合意に至った。



「ところで……、我らを雇ってみませんかな?」


「へっ!?」


 突然のオヴの言葉に私は驚き、声が裏返ってしまったのだった。


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