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第20話

 どれくらい時間が経っただろう。服の袖を春樹は引っ張られて意識が、小説の世界から現実へ引き戻された。


「なんだ」


「誰か来る。嫌な感じだ。ここから出た方が良い」


 セフィの言葉に、春樹はアルを見るが同じように頷いている。2人が言うのなら間違いはない。


「分かった。てめぇら、その服はどうなってんだ」


「これ。これは元着てた服が小さくなっただけ、獣姿になれば服は消えて人型になれば着てた服が着用されるだけ。分かった」


 セフィは何ら難し事はないみたいに語るが、魔法なんかないこの地で、そんなこと言ったら頭がおかしい人扱いされるだろう。出来れば獣姿になってもらった方がいい。西洋風のきらきらした、パーティーなんかで着るようなマントまでついた服をセフィは着ているし、アルはタキシードだ。コスプレにしか見えない。誰か、頼れる人は。ここに来ることを桜庭以外に話した人。春樹の主治医だ。あの人なら力になってくれる。スマホで電話をかけるとすぐに繋がった。


「春。どうした。具合悪くなったか。心配でお前の言ってた住所まで来てる。店入っても良いか」


「世良先生。もしかしたらあいつらがここに来ようとしてる」


「本当か。店にいろ。後3分で着くから。ワタシが出ろって言ったタイミングで店から出な。なんとかするから」


「ありがとう。世良先生」


「礼はいらん。先に助けてもらったんはワタシ。このぐらい恩返しにもならないからな。スマホは通話のままにしとく。鍵はしっかり閉めとけよ」


 荷物を全て鞄に詰め込み、一応桜庭にはスマホでメールを送る。


「セフィ。見てなくても分かるのか」


「獣人は耳が良いから。それに嫌な気配と甲高いヒステリックな声は大嫌いなんだよ」


 ヒステリックな声。春樹はビクリと体を震わせた。スマホからも大嫌いな声が聞こえてきて、床にスマホを落としてしまった。


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