パソコンの音だけが響く1人だけの空間が春樹は好きだった。カタカタカタと響く音。至福な空間を満喫出来ない理由がある。
「てめぇら、わざとか」
獣人子ども2人が両側から覗き込んできているからだ。他人を自室に入れた事は今回が初めてだ。仕事をしている所を見せた事がない。見せるようなものでもないし、面白くもないはずだから。
「なんだよ。恥ずかしいのか」
「気が散る。だいたい読めねぇだろうが」
漢字。むしろ彼らが平仮名すら読めているのか、怪しい。余計に見ていても楽しくはないだろうと春樹は思った。
「読めますよ。春樹さん。こちらから戻ってきた同居の者に教わりました。俺のことアルと呼んでいただいて構いません。俺は春樹さんと呼ばせていただきます」
「気色悪りぃ。敬語デホか。なら仕方ねぇけど。
見た目子どもだけど、本当は年上とかなら、さん付けもやめろ。俺は25だ。さん付けもデホなら諦める」
「でっ、でほはよく分かりませんが、俺は誰に対しても敬語でございます。呼び方も年下でしても年上でしてもさん付けです。仰る通り、俺は28歳です」
「そうかよ。まさか、てめぇも年上か」
狼のアルが28。生意気でチャラい豹のセフィも年上で、アルが様付けするあたり、アル達の世界では身分がかなり上か。
「オレは26歳。まっ、少しは敬ってもらってもいいけど。今のままでいいよ。特別だからな。呼び方もセフィでいい。オレはあんたの事は呼び捨てにするから」
2人とも年上。見た目幼ねぇ子どもだから、混乱する。だけどなんでわたしもこいつら追い出さないで、好き勝手させてるんだ。むかつきはした。それ以上に2人が隣にいるとしっくりきてしまう。春樹には理由が分からない。
「春樹。早く続き書いてよ」
「何言ってやがる、読ませねぇよ。読みたいなら」
春樹はせっかく読むなら途中からではなく、1巻目から読んでもらおうと本棚から、ペンギン探偵リューイの1をセフィに渡す。尻尾が勢いよく振られているから、嬉しかったのだろう。
「ありがとう」
「1冊しかないのですか」
「ああ。アル。悪りぃけど仲良く読んでろ」
活字を2人で読むのは難しいだろうから、そこは頑張れと応援するしかない。ベットの上に戻り並んで読み始めた2人。ようやく春樹は仕事を再開するのだった。