「連れ戻す。相手を間違っている。わたしはお前ら、お前達を知らない。帰れ。時間の無駄だ」
「いやいやいや、あんた。この2人を知っているだろ。しゃ、写真。この2人はカメラと1枚の写真だけをオレらの世界に持ち込んだ」
春樹の目の前に写真が置かれた。写真には嬉しそうに笑う男女。抱かれている赤ん坊。破り捨てたくなるように最悪の写真だった。
「気色悪。こんなものを見せるために、わたしの時間を使った。仕事がある。もういいか」
「両親でしょ。写真でも会えて良かったとか思わないわけ」
「わたしの両親は事故で死んだ。わたしが涙ぐむところを見たかったのか」
「期待してない。オレもこの方達に言われた。 罵詈雑言を言われても仕方ない。きっと春樹は私達を俺達を許さない。捨てた。事故で死んではいないけど捨てたの事実だから」
死んだとか、捨てたとか。そんなのどうでも良い。春樹にとっての両親は分からない。顔はうる覚えだ。朧げにしか覚えていない。両親だと言われて、納得出来ない。嬉しそうに笑っているのが嫌だった。どうしようもなくイライラする。
「捨てた。事故で死んだ。どうでもいい。
わたしは産んでくれた両親を恨んではいない。朧げにしか覚えていない。声すら分からない。くそ、子どもに言うことじゃねぇな。頭冷やす」
パソコンを持ち、春樹は2階に上がり、自室に入りパタンと扉を閉める。扉を背に座り込んだ。涙なんてみっともないものを見せたくない。かっこ悪い。他人に見せるようなものじゃない。
「恨んでない。感謝していたんだ。愛し合った2人がいてわたしが生まれた。奇跡に。こんな形で会いたく、会いたくなかった」
とめどなく流れる涙は、春樹の吐露できなかった数々の言葉のように止まる気配はなく、着ていたジャージを雨に降られた時のようにぬらした。