春樹は飯を食べている2人を眺めている時間などない。ペンギン探偵リューイの続きを書かなければならない。異世界のペンギン族。昼間はペンギン。夜は人間という種族に転生した主人公の話。ちなみに異世界BL探偵小説。死体があったのはビティルティア。異世界の銀行だ。殺されたのは銀行の副頭取。
「自称助手のヴェリル。リューイに好意を抱く、第2王子様。リューイは知らない。リューイを起こしに行く場面から」
小説はいい。わたしが思った事、書きたいことを思うように書けるから。わたしのように窮屈ではなく、自由になれる。なりたいものになれる。小説を書くのも読むのも好きだ。
「何て起こすかな」
わたしなら、おい起きろ。ヴェリルは王子。だから起こし方は起きて。起きて。これだけだと味気ない。ヴェリルなら。
「起きて、起きて。このまま、キスちゃうよ。これにしよう。わたしなら殴りつけてるな」
「なぁ。少しは話を聞いてくれる。春樹」
執筆中に話しかけてこない。名前なんだっけセフィリウスだったか。食べることに集中していれば、もう全部食べたのか。獣人、獣人でいいんだよな。獣人と人間の食べる速さの違いを春樹は思い知る。本音を言えば話を聞きたくはない。大人気ない気がする。知りたくないから聞きたくないなんて。言えない。春樹はため息を吐いた後、パソコンをパタンと閉じる。
「お茶を淹れてくる」
コーヒーよりはミルクティーの方が飲めるだろう。じじいが残した茶葉を使い、3人分のミルクティーを淹れた。